声優・福山潤インタビュー#2「『できるようになるのを待ってからじゃ遅い』福山潤が時代劇をやりたかった理由」

声優・福山潤インタビュー#2「『できるようになるのを待ってからじゃ遅い』福山潤が時代劇をやりたかった理由」

「コードギアス 反逆のルルーシュ」のルルーシュ・ランペルージ役や、「おそ松さん」の松野一松役、「暗殺教室」の殺せんせー役、「黒執事」のグレル・サトクリフ役など、その多彩な声色と演技力で、数々の人気作で主役や重要キャラを演じてきた声優・福山潤さん。いまでこそ誰もが認める名声優ですが、意外にも初めてレギュラーで入った「∀ガンダム」の現場では、音響監督から「お前の担当が3行あると胃が痛くなる」と言われていたんだそう。そんな駆け出しの時代からこれまでの歩みをたどり、出演作品やキャラクターにかける思いまで。このインタビューでは全3回にわたって、声優・福山潤さんの人となりに迫ります。

■長髪時代にひそかにやっていた心理実験

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――福山さんといえば「趣味はトレーニング」というイメージがありますが、やっぱり休日でもトレーニングされているんですか?

「いえ、実は休日は絶対にトレーニングしないんです(笑)。トレーニングは仕事の前と決めていて、それも絶対に週1回、1時間だけ。ここ数年は、その決められた1時間を本気でやってから仕事に行くというルーティンにしています」

――そのルーティンになったのはなぜなんでしょうか?

「正直に言うと、年齢的にもいい歳なので、真面目な顔して、週に何度もトレーニングしていたら回復が追いつかないんですよ(笑)。例えばトレーニングをして、その後ずっとぐーすかと寝ていられるんだったら、週に何回もできるかもしれないけど、そんなことはできないし、睡眠にしたって1日8時間寝られるわけじゃない。そんな状態で肉体的な負荷を与え続けたら、どこかで壊れちゃうと思うんですよね。だから週1回、1時間は一生懸命頑張るので残りの6日間は回復期間にしているんです」

――それがご自身のサイクルとして体に合っているんですね。

「ビルダーになりたくてトレーニングをしているわけでもないし、ボディメイクでもないですからね(笑)。トレーニングをする理由は、声優としてこの先も戦っていくための体作りをしたいだけ。その中で、1つの目標としてベンチプレスで『もっと重い物を上げられるようになりたい』というのはありますが、それもマストじゃない。とくにいまは左肩を壊してしまってベンチプレスができないので、下半身を中心にしたトレーニングに切り替えたりもしています」

――それと、今年に入って伸ばし続けていた髪を切られましたよね。それはどういったきっかけだったんでしょうか?

「簡単に言うと、鬱陶しくなったから(笑)。いつ切るかを決めずに伸ばし始めたんですが、2年前の段階では『2025年までには切ろう』って決めていました。たまたま今年切ることになったけど、別に去年でもよかったんです。『最大伸ばして今年まで』と思ってただけで。ただ、自分の中で『やる』って決めたことをするのに、長髪が邪魔だったんですよね」

――どんなことをすると決めていたんですか?

「今年の5月に14年間ずっと出演していた『私の頭の中の消しゴム』という作品の朗読劇の、最終公演があったんです。前回、2年前の舞台まではずっと長髪で出ていたので『次の公演では、髪の毛をバッサリ切ってから出よう』と決めていたんです。その時は、今回が最終公演になるとは思っていませんでしたが......!それに今年の7月の頭には、自分で企画した1人朗読劇もあったので、どうあっても『今年、切ろう』というのは決めていました」

――最終的にはかなり長かったですよね......!

「腰までありましたからね。これまでも、あそこまで長くはないけどこれくらいの長さ(手で肩あたりを指しながら)までは伸ばしたことがあったんですけど、その段階で、みんなに『切れ切れ、切れ切れ』と言われるので今回はその先を見てみようと(笑)。きっかけとしては、本当になんでもなくて、コロナ禍で社会全体がストップして、美容院もやっていないときに、『切れないなら髪の毛でも伸ばすか』という軽い気持ちで。声優業界も仕事が完全に止まってしまった時期に『このままいったら前みたいにみんなと一緒にアフレコができるなんて年単位で無理かもしれない』と思ってたので、どうせ人にも会わないんだし、いいかと」

――そんな背景があったんですね。

「でも伸ばしてる間は、人の心理がよく見えて面白かったですよ。コロナ禍を経て、髪の毛が伸びて久しぶりに知り合いに会うと、『久しぶり!』の後に『元気だった?』じゃなくて、『切らないの?』って言われるんですよ」

――第一声が!?(笑)

「ほかに『伸ばしてるの?』って聞いてくる方もいるんですよ?でも『切らないの?』って言ってくる人が結構多くて、それが何回も続くことに違和感を覚えることがあって。冷静に考えると、僕がなぜ髪を伸ばしてるのかの意思確認の前に、『切らないの?』と聞くのは、やや失礼だと思うんですよ(笑)」

――確かに(笑)。

「逆に、仮に僕側が久しぶりに会った方に『久しぶりだね。痩せないの?』って言ったら、これはめちゃくちゃ失礼じゃないですか(笑)。不思議なことに、体型のことは嫌なのに、髪の毛、とくに男性の髪については『そんなふうに言っても大丈夫』と思ってる方は多い。その心理をさらに深掘りしてみると『男性は、短髪が当たり前』か、『私は長髪の男性が嫌い』のどっちかを感じている場合が多いんです(笑)」

――その心理から、福山さんの意思確認の前に「切らないの?」が出てくるんですね。

「そうそう。あまりにそういう反応が多いので、僕からしたら『これはもう実験するしかないな』と思うに至りました(笑)。久しぶりに会う方が、最初にどう言うかで、その人の奥にある心理を読み取る。そうすると、意外と身だしなみがしっかりしている人ほど、ツッコんでくる人が多かった。よく気遣いができる人は『伸ばしてるの?』って聞いてくるんです(笑)」

――福山調べ(笑)。

「ツッコんでくる人のことは、心の中で"短髪原理主義者"と呼んでいました(笑)。なんですけど、肩まで伸びてくると、もはやそのツッコミをする人もいなくなってきて、『どこまで伸ばすんですか?』と『いつ切るの?』の、ほぼ2択になってきます。あるいは、女性からはヘアケアについて『どうやって維持してるの?』と聞かれるようにもなってきます。そうやって長髪に対して、賛否両論、十人十色の反応が返ってくるのは面白かったですね」

■30代前半の自分がどこまで胆力を込められるか|「キングダム」嬴政

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――2012年に放送開始、10月からは第6シリーズも始まる「キングダム」では嬴政役としてご出演されています。まずは作品との出会いについて教えてください。

「当初はこんな長期シリーズになるなんて思ってもいなかったんですが、原作は当時から大人気で、オーディションの話が来る前から界隈では『次、絶対キングダムが来るぞ』という話はよく出ていました。いまだに覚えているんですけど、尾平役の鳥海浩輔さんが昔から『キングダム』が大好きで。オーディションの半年ほど前ですかね、他の現場で一緒になって飲みに行ったときに『お前はキングダム、読んでおけ!』って鳥海さんから勧められたんです。そこから読み始めたので、オーディションの話が来る前には、既に作品にどっぷりとはまっていて。現場に鳥海さんもいてくれるし、僕自身も時代劇がやりたいと思っていたので、すごく良いタイミングで関わることができたなと」

――時代劇をやりたかったのはどうしてですか?

「当時は、僕が30歳を過ぎたくらいで、その頃って作品において重責を担うといっても、ほとんどが現代劇か未来的なんですよ。そもそも日本のアニメってあまり時代劇を作っていなくて。でも、胆力が必要になる言葉のやりとりっていうのは、時代劇ならではの部分があるんですよね。そのお芝居が『歳を重ねてからじゃできない』っていうのは、自分の中でとても嫌でした。30歳を過ぎた自分が、どこまで言葉の中にその胆力を表現できるかやってみたい。できるようになるのを待っていたら遅い、と感じていたんです」

――そんなことを考えている矢先に「キングダム」との出会いがあった?

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「そうです。壮大な大河ドラマと戦乱の時代の中で、少年でありながら大人たちと渡り合っていく主人公たち。実際に歴史上の人物でもある人物たちの言葉の重み、説得力をどこまで自分は表現できるんだろう、と。その可能性をオーディションで見出してもらえたのが、僕にとっては『キングダム』だったわけです。30代前半、まだまだフレッシュだけど、もう若手や新人ではない。いい塩梅の時に、素晴らしい作品に出会わせていただいたという感覚があります」

■「少年ではなく、大人として演じてほしい」|「キングダム」嬴政

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――そこが出発点だったんですね。

「そうですね。そこから13年間という時間が経ちましたし、シリーズの間もがっつり空きましたが、実写映画の大ヒットであったり、原作もまたまだ続いていたり、面白さが永遠に衰えない作品だっていうのは、誰もが知るところになったとも思います。多くの方が推してくれる作品のアニメーションに、いまこうして関わらせていただけて、すごくありがたいなと思いますね。しかも、自分がやりたかった嬴政として」

――「嬴政がやりたかった」というのはご自身で何か感じるところがあったんでしょうか?

「それまで自分が声優として培ってきたもの、セリフの言い方、重視していること、気をつけていることが、嬴政に必要なものばかりだと思ったんです。オーディションは信や嬴政、王騎などのメインキャラクターばかりだったと思いますが、僕は嬴政しか受けてないんです。それが制作側にとってはどうかわからないけど、自分が戦えるなら嬴政しかないという感覚があった。ほかにやれる役がなかった、ということでもありますが」

――実際に演じてみて、当初はどんな演出だったんでしょうか?

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「大王になってからは上から目線だったりとか、もしくは持ち上げられたりするところもあるけど、第1シリーズの本当の最初は、少年の出発なんですよね。だけど、監督からは『少年でやらないでくれ』っていうオーダーがありました。信も含めて我々に、『いまの少年として捉えないでほしい。大人としてやってほしい』と。自分としても、あまりに少年として演じてしまうと『時代の苛烈さに取り残されてしまうんじゃないか』となんとなく感じている部分があったので、根本的な意思の強さをもって演じなければいけないという気持ちははっきりしました」

――演じている中で、変化していった部分というのはあるんですか?

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「最初の頃こそ、僕は『頑張ってやる』という感覚を持ってお芝居をしていたんですが、いまのディレクションでいうと 『頑張らないでほしい』という方向にだんだんと変わってきてはいます。というのも、最初は『大王であらなきゃいけない』『なめられちゃいけない』という思いが嬴政の中にあって政争の中で頑張っていた。それが呂不韋に勝った後はだんだんと『超然とした存在』へと変わっていくんですよね。なので、時間をかけて少しずつそういった打ち出し方に変わっていったというのはあります」

■信役を務める声優・森田成一のすごさ|「キングダム」嬴政

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――いちファンとしては、物語が進むにつれて信との関係性がどんどん変わっていく、その距離感の表現も本当にすごいなと思っていました。

「政は、その出生や『なぜ山界の言葉が喋れるのか』とかも含めて、当初から謎が多い人ではあったんですが、ストーリーの進行とともに、信との絆もどんどん濃くなってきますよね。といっても、信はずっと戦場にいて、嬴政は大王だからそんなに会えるわけじゃない。その中で、心の支柱として、嬴政の方から信のほうに寄っていっているような気がします。呂不韋がいる時代だと、政にとっては周りに敵しかいない。そんな中で信は、唯一と言っていい頼れる武将。そこから始まって、つねに自分のピンチには河了貂、壁とともにいてくれる。そして、函谷関の戦いでは信と嬴政が互いに信頼し合っていることを確認できた。その後は、あえて言葉にせずとも揺るぎない信頼関係があるということはお互いに感じていると思います」

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――信役の森田成一さんとは現場でお話されたりするんですか?

「演技に関してはほとんどしないです。それはどちらかといえば役者と監督の間で話し合うべきことなので。ただ森田氏との付き合いも、僕が25歳からの付き合いだから、もうあと数年で25年になるんですよ。だから彼の現場を掌握する力もよく知っていますし、結果論ですけど『おそらく彼じゃなかったらキングダムはこういう現場になっていないんだろうな』と思うことはたくさんありますね、やっぱり。そのくらい、真ん中に立ったときの彼の力は一線を画すものがある」

――詳しくお聞きしてもいいですか?

「第2シリーズが終わって、第3シリーズが始まるまで7年間が空いたんです。それで第3シリーズが始まったときに、たしか3~4話の頃に、ちょうどコロナ禍に突入してしまった。だから、じつは第3シリーズのそれ以降の話は、みんなで収録できていないんですよね。でも逆にいえば、その最初の数話が一緒に取れたことが大きかった。もしその数話がなかったら......という恐怖を感じるくらい」

――それはなぜなんでしょうか?

「第1シリーズの時に、ワンレギュラーで入っていた新人の子たちも含めて、『この作品を作るのってこれだけの圧が必要なんだよ』って確認しながら、みんなで作っていったんですよね。音響監督や森田氏が、収録終わった後にみんなと飲みに行って、親睦を深めながらちょっとずつそういう空気作りをしていって。そうやって、丁寧に収録現場を作り上げていっていたんです。で、キングダムって、じつはガヤがとても重要で、いわゆる雑兵と呼ばれる名もない登場人物たちがどれだけ頑張るかが、作品の質を左右するんです」

――言われてみれば、確かに...!

「第3シリーズになったときに、そのキャストが1回リセットされてしまった。つまり、第1シリーズで丁寧に作り上げていっていた空気感を知らない子たちが、新しく入ってくるようになったんです。その子たちに改めて一から『キングダム』の空気感を仕込んだのが、森田氏なんですよ。コロナに入る直前の、数話。本来だったらずっと叫んでいて、彼は休まなきゃいけないんですけど、それだとガヤがボリュームダウンしてしまうので、彼がいちばん前に立って、真ん中で誰よりも声を出していたんですよね」

――あれだけ声を出しているのに、ガヤも誰よりも声を出す!?

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「それを、周りが『あいつは絶対抑えないから、お前たちの声であいつの声を消せ』と言ったりして、『僕らの声でかき消さなければいけない』『森田さんより小さい声なんてありえない』という方向に若手の気持ちを持っていった。その後、森田氏がみんなを飲みに連れていって『こうやってやるんだ!』というのをさらに仕込むんです」

――すごすぎる......!

「そのせいで、何件かの店を出禁になったかもしれない(笑)。だからこそコロナに入る直前のその数話がものすごく重要だったんです。僕は出番的にたまにしか現場には行けないんですが、シリーズが始まって数話経ってから現場に入ると、『こんな雰囲気になるのか』というくらい、キングダムの現場の空気がちゃんとできあがってる。
それを見るにつけ、『これが森田成一という人の力なんだな』とやっぱり思いますね。もし彼が信をやっていなかったら、『キングダム』の現場はどうなってたんだろう。この13年間の中で、たびたびそんなふうに思わされてしまいます」

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取材/山口 真央 文/郡司 しう 撮影/梶 礼哉

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