声優・小西克幸インタビュー#3「頑張れる機会は、自分一人では作れない。だからこそ、与えられたものを精一杯やりきる」

声優・小西克幸インタビュー#3「頑張れる機会は、自分一人では作れない。だからこそ、与えられたものを精一杯やりきる」

『鬼滅の刃』宇髄天元、『天元突破グレンラガン』カミナ、『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』ディアボロなど、深い役作りと確かな演技力で多くのキャラクターに命を吹き込む声優・小西克幸さん。ボーイスカウトやサッカーに励みながらもアニメやマンガへの情熱を秘めていた少年は、高校時代に友人から「声優」という存在を教えてもらったことがきっかけで、声の世界へと走り出します。そして今は、声優の仕事が「楽しくてしょうがない」と話す小西克幸さん。このインタビューでは、全3回にわたって小西克幸さんの人となりと、その仕事への向き合い方に迫ります。

■若手が10やるなら、15か20やらなきゃいけない

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――お忙しいとは思いますが、お休みの日はどんなふうにリフレッシュされているのでしょうか?

「アフレコがない日でも台本を読んだりして、仕事に時間を使うことがほとんど。リフレッシュのために時間を使うことはなくて、時間さえあれば台本や原作を読んでいます。家にいるときも、ほぼ仕事に関することしかしてないんじゃないかな。逆に、今は『仕事することがリフレッシュ』と言えるかもしれません」

――仕事のストレスは仕事で発散する感じでしょうか?

「いや、とくに仕事でストレスを感じることもないんですよね。ストレスって、自分の捉え方次第で生まれるものだと思っていて『ストレスに感じなくていいことを、ストレスにしていること』もあると思うんですよ。そういう意味では、僕はあまり細かなことを気にしないタイプなので、ストレスを感じづらいのかもしれません。逆に、仕事がないほうがストレスが溜まっていく気がする(笑)。でも、それすら自分次第なんですよね。個人的に『仕事がない』っていうのは、自分に価値を感じてもらえてないのかなと感じてしまうんですよね。だから、この仕事を長く続けていくだけでも、やっぱり大変なことだなと常日頃感じています」

――そんな小西さんにとっての座右の銘をお聞きしてもいいですか?

「『何でも楽しく』です。やっぱりそれが一番だと思います。プライベートでも仕事でもストレスを溜め込まず、自分なりに楽しんだら勝ちです(笑)」

――楽しく仕事を続けるためには、どんなことが必要だと思いますか?

「一番は、どんな作品であれ、どんなキャラクターであれ、ちゃんと向き合ってやること。『忙しい』『体調が悪い』は言い訳になりませんから。例えば、『小西克幸が今日、体調が悪い』ということは、オクジーや高順、宇髄天元には、まったく関係ないことじゃないですか。だから、気分やコンディションにお芝居が左右されてしまわないよう、自己管理も含めてちゃんと向き合わなければいけないんです」

――とはいえ人間ですし、モチベーションが下がってしまうようなことはないですか?

「もしかしたら『1ヶ月間、仕事がまったくない』という状況になってしまったら、少しはモチベーションが下がるかもしれないですけど。ただ僕らの仕事って、数日後、1ヶ月後に仕事があればその準備にはいくらでも時間がかけられますから。スタジオでマイク前に立つだけが仕事の時間ではないし、家にいたっていくらでも仕事に対して向き合うことはできる。そういう意味では今のところ、モチベーションが下がることはないのかなと思います」

――めちゃくちゃストイックな仕事への姿勢がうかがえるようです。声優になってから、そういう過ごし方が当たり前だったんでしょうか?

「ここまで仕事のことばかりしているのは、ここ数年かなぁ。これは僕が声優として年齢を重ねてきて感じることですけど、この先、何年声優が続けられるか、たくさんの声優がいるなかで自分が生き残っていけるかを考えたときに、ほかの人と同じ量だけしかやっていなかったら、年齢を重ねた分だけ、きっと自分はマイナスだと思うんです」

――マイナス、というと?

「純粋に、声優として選んでいただける機会が減るだろうな、ということです。例えば、20代前半の子が10やるところ、52歳の僕が同じく10だけしかやらなかったら、きっとスタッフさんは、未来のことも考えて20代前半の子を選ぶじゃないですか。それなら僕は10じゃ足りない。15や20までやらなきゃ選んでもらえない。逆に上を見れば、先輩方はそういう方ばかりが残っているわけで、その方々はまだバリバリの現役。やっぱり10やるだけじゃ、どう考えても生き残れないんじゃないかと思うんです」

■どんな失敗も、経験に変えて前に進む

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――歳を重ねれば重ねるほど、むしろ努力を増やしていかなければいけない、と。

「もちろん、声優だけじゃなくてどんな仕事でも同じだと思うんですけどね。もしこれが、超売れっ子の声優で毎日過密なスケジュールで『知らず知らず鍛えられている』みたいな仕事ぶりならいいですけど、僕はけっしてそんな生活ではないので、自分に与えられたものに必死に向き合うしかできない。人間、頑張れる機会って自分で作ろうと思ったって作れないじゃないですか。誰かが用意してくれたり、環境が整って初めて頑張れる機会がある。それなら、頑張れる環境がある今、頑張らないと未来はないと思います。だからこそ、できる限り多くの時間をそこに費やすのは、自分の中ではごく自然なことなのかなって。それが将来、自分が生き残るために必要だから、やっているんだと思います」

――「頑張れる機会は自分では作れない」って本当そうですね。今後、どんな声優であり続けたいと思っていますか?

「何歳になっても、こうして声優として仕事ができていたらいいなと思います。『どんな声優になりたい』と言えるほど、余裕があるわけじゃないですし。今現在、第一線で活躍している先輩方の年齢に自分がなったとき、自分が同じような仕事ができているかどうかは何も保証がないから、今のうちから追いつけ、追い越せという気持ちでやっておかないとなと思います。これ(声優の仕事)がなくなっちゃったら、もう後は死ぬしかなくなってしまうので(笑)」

――この記事を読んだ小西さんよりも若手の声優は、きっとみんな背筋が伸びそうですね(笑)。

「それは嫌だなぁ(笑)。僕は、アドバイスしたい人じゃないので。自分も相談したことないし、アドバイスもしないんです。うん、思い返しても、多分ゼロですね(笑)。というのも、誰にでも『自分に合う考え方』があるわけじゃないですか。だから、いくら僕が良かれと思って伝えたことも、その方に合わないことだってあるし、そもそも50年以上かけて育ってきた僕の持っている言葉が、正しく伝わらないこともいっぱいあると思うんです。だから、僕の考え方もあくまで『参考の一つ』とだけ思ってあんまり信じないでほしい、というのが正直なところかな(笑)」

――でもたしかに、この企画でも10人以上の声優さんにインタビューを重ねてきましたが、みなさんそれぞれ自分なりの演技に対する考え方があって、同じ方は一人もいませんでした。

「そうそう。例えば、感覚を大事にする方に、理論的に教えてとお願いしても上手く伝わらないんじゃないかと思います。感覚で出来てしまっているから。でも逆もしかりで。それって『共通言語』がないからだと思うんです。『どのやり方が優れているか』ではなく、人それぞれのお芝居のやり方があって、それは試行錯誤して経験を重ねたり、誰かのやり方を参考にしたりしながら、自分だけの方法を見つけていけばいい。前回お話しをした、現場でのキャラクターづくりと同じで、枝を伸ばしては切って、伸ばしては切って......その繰り返しだと思います」

――トライ&エラーが大切なんですね。

「そうですね。とくにエラーがないと、何もわからないまま進んでしまうこともあると思います。どんな現場でも、自分ができる最大限のパフォーマンスを出すことは当然で、その場でできなかったことは持ち帰り、より前に進むためにはどうすればいいのかを考える。何が上手くいかなかったんだろう?何が足りなかったんだろう?落ち込むのではなく、色んなことを経験に転換して「次にやるべきことは何か」と切り替えるのが大切かなと思います。僕は、そんなふうに考えてしまうタイプですね」

■仲良くなれば、面倒見のいい兄ちゃん|『テレビアニメ「鬼滅の刃」』宇髄天元

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――いわずと知れた人気作品『鬼滅の刃』では"柱"の一人であり、ド派手な伊達男・宇髄天元を演じられています。まずは作品との出会いから教えてください。

「最初に見かけたのは本屋さんで、その当時はまだ2~3巻くらいまでしか発売されていなかったと思います。平積みされているのを見かけて、直感的に『これはアニメになりそうだな』と思い、原作を読みました」

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――じゃあ、かなり初期から小西さんも注目していた作品だったんですね。いまや幅広い世代から支持されている作品になっていますけども......!

「本当ですよね。『鬼滅の刃』に出演したことで、知り合いの方からも『鬼滅、見てます!』と声をかけていただく機会が増えて、業界以外の方にまで広がっているんだなと、反響の大きさを実感しました。ここまで広がる作品になったのは、原作の面白さはもちろんのこと、その面白さを制作スタジオのufotableさんがさらに増幅されて、あそこまできれいな映像で仕上げてくれたこと。そして、初期から参加している声優陣の熱のこもったお芝居があるおかげなのかなと思います」

――ここからは役のお話で、小西さんが演じた宇髄天元というキャラクターについてはどんな人物だととらえていますか?

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「こと『鬼滅の刃』の柱たちの中においては、面倒見が良い人間の一人......だと思います(笑)」

――面倒見が良い、ですか。

「最初の登場時こそ、柱たちそれぞれのキャラクターが立つように、自己紹介的により印象的な発言をしていますけど、その後、ふたたび登場したときには『あ、天元は面倒見が良い人なんだな』と実感しました(笑)。だって、『柱稽古編』で説明もなしに『岩を押せ』とか言わないし、いきなり『再起不能にしてやる』とか言ってボコボコにしないし、力技の柔軟運動が急に始まったりしないですからね(笑)。それは、『遊郭編』で炭治郎たちと一緒に行動したことでお互いに意思疎通ができた部分もあるのかもしれないですが。ド派手で、突拍子もないことを言ったりもするけど、仲良くなれば面倒見が良い兄(あん)ちゃん、という感じの人物だという印象です」

■鬼滅ワールドが立ち上がっていたアフレコ現場|『テレビアニメ「鬼滅の刃」』宇髄天元

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――アフレコ時の思い出話などはありますか?

「収録当時は、分散収録の機会が多く、掛け合いが多いキャストとしかスタジオに一緒に入れなかったんですよね。ただ僕はその中ではありがたいことに、炭治郎役の花江くんと入れることが多くて、一緒に収録できる機会が多かったんですね。さっきもお話ししたけど、やっぱり炭治郎役の花江くん、善逸役の下野くん、伊之助役の松岡くんの3人をはじめ、『竈門炭治郎 立志編』の最初からいるキャスト陣のお芝居への熱のこもり方がすごいんですよね」

――みなさん、登場人物の思いを溢れんばかりに表現されていますよね。

「僕は『鬼滅の刃』って、華麗にスマートに進んでいくのではなく、泥臭く、一生懸命あがいてもがいて少しずつ前に進んでいくところが魅力だし、好きなポイントだと思っているんです。それを、彼らがお芝居で見事に表現してくれるから、僕が収録に加わった頃にはもうスタジオの中に『鬼滅ワールド』が立ち上がっている感じがしたんです。だから、あの世界にすっと入れる感じがあったし、みんなと一緒に作り上げてる感覚も強い作品だった。彼らの作品に対する熱量が、ほかのキャスト陣のお芝居を引っ張ってくれた部分は相当にあると思います」

――それでキャスト陣のテンション感というか、足並みが揃っていくんですね。

「あと、収録も少し特殊で、ふつうのアフレコでは、各セリフに決められた間尺があるので、その限られた秒数の中でキャラクターの感情を表現しなければいけないんです。でも『鬼滅の刃』はお芝居優先で、『絵は調整するので、間尺はまったく気にしなくていいですよ』と言ってくださっていたので、キャスト陣が自由にキャラクターの心情を表現できたんですよね。もちろん、間尺に合わせてしゃべることは声優には必要な能力ですが、普段その制限がある状態でお芝居をしてるからこそ、その制限がなくなったときに、みんな、自分の感じたものやインスピレーションをのびのびと表現できた。それも、多くの人の心に響いたポイントの一つだと思います」

――小西さん的に「天元のここを観てほしい」という注目シーンはありますか?

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「そういう質問をされたときは、大体いつも同じ答えになってしまうんですけど、出演しているシーンはすべて観てほしい(笑)。というのも、正直なところ、キャラクターがその世界で生きていく中で『どこか一場面を切り取ってほしくない』という思いが僕の中にはあるんですよ。だから、僕が天元の『ここに注目してほしい』というのはなくて、むしろみなさんが感じた部分や、記憶に残っている場面を教えてほしい、というのが本音です。とくに天元の場合、アニメ新作のシーンが追加されていたりするので、それも含めて、より楽しんでいただけたら嬉しいですね」

――ありがとうございます。もし、リアルに宇髄天元が近くにいたら、友達になれそうですか?

「面倒見もいいし、楽しいと思いますね。個人的には、あの柱のメンバーの中だったら一番楽しく一緒にお酒が飲める人なんじゃないかな(笑)」

■懐かしさと新しさで、少年心をくすぐる冒険活劇| 『真・侍伝 YAIBA』鉄 剣十郎

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――連載完結から30年の時を経て、テレビアニメ化された「真・侍伝 YAIBA」(以下、「YAIBA」)では、主人公・鉄 刃(くろがね やいば)の父・鉄 剣十郎を演じられています。この作品の魅力、そして演じている鉄 剣十郎について教えてください。

「剣術を中心とした、少年の心をくすぐるような冒険活劇ですよね。とりわけこの作品は、尖ったキャラクターがたくさん登場するので、それぞれのキャラがどう表現されたり、どんな戦い方をするのかにぜひ注目してもらいたいですね。また、その中で刃がどんな人と出会い、どんな人物に成長していくのか。なにしろジャングル育ちですから(笑)。一切、一般常識がない少年が日本に戻ってきて、そこで何を感じ、どんな強敵たちと対峙するか、楽しみにしていただければと思います。『YAIBA』を知っている方もそうでない方も、新旧のファンが楽しめるものになっているので、ぜひみなさんの目でそれを確かめてみてください。そして僕は、その刃の父親・鉄 剣十郎を演じています。剣士としてはすごく強いんですが、雲のように自由気まま、流浪癖があり酒癖も悪く、すぐ旅に出ていなくなってしまう『父親としてはどうなんだ!?』と思えるような、愛すべき(?)サムライです。いまのところ、登場回数は少なめですが、ぜひこちらも注目していただけたら嬉しいですね。......いや、ほんと剣十郎が早く帰ってきてくれないと、俺の出番ないんだけどなぁ(笑)」

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取材・文/郡司 しう 撮影/小川 伸晃

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