声優・小西克幸インタビュー#1「キャラクターは声優一人ではなく制作スタッフみんなで作り上げるもの」

声優・小西克幸インタビュー#1「キャラクターは声優一人ではなく制作スタッフみんなで作り上げるもの」

『鬼滅の刃』宇髄天元、『天元突破グレンラガン』カミナ、『ジョジョの奇妙な冒険 黄金の風』ディアボロなど、深い役作りと確かな演技力で多くのキャラクターに命を吹き込む声優・小西克幸さん。ボーイスカウトやサッカーに励みながらもアニメやマンガへの情熱を秘めていた少年は、高校時代に友人から「声優」という存在を教えてもらったことがきっかけで、声の世界へと走り出します。そして今は、声優の仕事が「楽しくてしょうがない」と話す小西克幸さん。このインタビューでは、全3回にわたって小西克幸さんの人となりと、その仕事への向き合い方に迫ります。

■「声をあてる職業がある」なんて考えたこともなかった

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――幼少期の頃は、どんな性格のお子さんだったのでしょうか?

「もうだいぶ昔なので、あまり覚えてないことも多くて。でもその時代に流行ったおもちゃは、ひと通り遊んでいた記憶があります。例えば『スーパーカー消しゴム』、その次に『チョロQ』、あとは......そう!『ラジコン』とか! 少し後にはミニ四駆が登場すると思いますが、僕らの世代はラジコンでしたね」

――それでは、外で遊ぶというよりもホビーで遊ぶのが好きな少年だったんですか?

「自分一人だったら、そっちに時間を使っていたと思います。ただ小学校5年生頃からはボーイスカウトに入っていたので、週末には必ずキャンプやハイキングなど野外活動をしていました。元々は幼なじみの子がボーイスカウトに入っていまして、父親から『こういうのがあるけどやってみるか?』と言われ何も分からず始めてみました(笑)。それと小学校4年生のとき、大阪からサッカーをやっていた子が転校してきて、その子に誘われてサッカーも始めました。ちょうど『キャプテン翼』が流行り始めたくらいかな」

――ボーイスカウトとサッカー。むしろ、ほとんど外にいる感じだったんですね。

「そうなんです。とはいえ、小中学生の男子にとって週末に自由時間がないのって結構きつくて......。本当はアニメもマンガも大好きなのに、そこにはまったく時間を使えなかった。子供ながらそのことに結構なストレスを抱えていた気がします」

――そんな中で、声優という職業を知ったきっかけというのはなんだったんですか?

「声優の存在を知ったのは、もっと後になってからでした。高校2年生の頃、友達に『ゲームやマンガが好きだ』と話したら『声優っていう仕事があるよ』と教えてもらったのがきっかけ。高校生なんてもうほぼ大人だし、よく考えれば『声優という存在がいる』なんて自分でわかりそうなものですが、完成されたアニメを観ているときには、アニメに声をあてる職業の方がいるなんて、考えたこともありませんでした。それで、友達に声優を教えてもらった日の帰り道に本屋に寄って、声優を紹介するアニメ雑誌を買って帰りました」

――行動力がすごいですね......!

「それまでもアニメ系の雑誌はよく買って読んでいたつもりだったんですよ。でも不思議なことに『声優』なんて存在を認識したことがなかった。たぶん、脳内で勝手に読み飛ばしていたのかもしれません(笑)」

■「厳しい」と聞いて勝田声優学院へ

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――それからはどんな風に過ごされていたんでしょうか?

「アニメ雑誌でも声優の情報を追うようになりましたし、ほかにも関西ローカルで放送していたOVAの作品を紹介する『アニメだいすき!』で日髙のり子さんと関俊彦さんMCの番組を観たり、声優さんの辞典を買ったりして、少しずつ声優に関する知識を蓄えていきました。それで高校3年生の冬休みに、『勝田声優学院(2015年に閉院)がウィンタースクールを開催する』という情報を見つけたんです。しかも希望すれば、その冬期講習の2日間で試験をして、合格したら高校卒業後の4月から養成所に通える、と。そこで、すぐ両親に相談しました。ちょうど姉が東京にいたので、そこに泊まらせてもらう形で行きたいと。そうしたら『ちゃんと大学に行って、手に職を付けないとダメだ』と言って、最初は断られたんです」

――えっ!? そうだったんですか?

「そう。でも、当時 僕の親ってPTA会長もやっていて、立場上、子供たちに将来の夢について話をする機会も多かったみたいなんですね。そんな経験からか、親のほうでも『自分の子供の夢をつぶすなんて』という思いはあったようで。もう一度、僕が諦めきれずに『東京に行かせてほしい』とお願いをしたら、『お前がそんなにやりたいのなら、わかった』と言ってくれて。それで、勝田声優学院のウィンタースクールに2日間通い、無事合格して、4月から養成所に入ることになりました」

――ドラマチックな展開ですね。勝田声優学院を選んだのは理由があったんでしょうか?

「じつは僕の姉も声優をめざしていた時期があって、養成所を調べているときに『勝田声優学院ってどう?』って聞いたら『あそこは厳しいことで有名だし、いいんじゃない?』と教えてもらったんです」

――それはまたストイックですね......! 小西さんご自身も「厳しいほうがいい」と思っていたんですか?

「大学に行くわけでもないし、就職するわけでもないので、それこそ親から見れば『遊び』と捉えられてもおかしくない。それも、わざわざ関西から東京まで出ていくので『僕自身が本当にサボっちゃったら終わりなんだろうな』というのは、どこかで感じていたと思います。『自分で自分には厳しくできないから、周りに厳しくしてもらおう』という甘い考えもあり、勝田声優学院を選んだ、という感じですかね」

――勝田声優学院は、やはり前情報どおり"厳しかった"ですか?

「めちゃくちゃ厳しかったと思います。基礎科では、最初に学院長の勝田先生がみずからお芝居の基本となるようなことを教えてくれるんです。人前で大きな声を出したり、笑ったり、泣いたりして感情を表現する。ふつうは、人前で感情を出すのって恥ずかしさもあるじゃないですか。それを一つずつ突破させてくれるようなイメージで、お芝居の基本を勝田先生が教えてくれるんですけど、授業中、うまくいかなかったりすると、勝田先生から『君はもう向いていないから、辞めたほうがいいよ』と直接、言われるんです(笑)。あるときは、挙手制の授業で誰も手を挙げる人がいなくて、『じゃあもうやめよう』といって授業を終わりにしたり。どんな業界でも必要だとは思いますが、やっぱり声優にとっても、積極性や、やる気を持つことが大事だと教えてくれていたんだと思います」

――小西さんご自身としては、養成所で初めてお芝居に触れてみて、いかがでしたか?

「もちろん最初はわからないことだらけでしたけど、表現するのは楽しかったですね。その楽しさを知ったからこそ、本腰を入れてお芝居に集中することができたんだと思います。たまたま、僕らの世代はちょうどテレビアニメで『美少女戦士セーラームーン』が流行った時期で、声優志望の方だと、圧倒的に女性が多かったんです。だから、僕が勝田声優学院に入ったときも、1クラスにが20人だとすると、男子は僕を含めて2~3人。男性役があるとその人数でこなさなければいけないので、何回も演じる機会があってお得でした(笑) 最初の頃はセリフを覚えるのも必死でしたけど、だんだん慣れてくると演技の中でいろいろなことを試行錯誤できるようになって、それを繰り返すうちに『お芝居って楽しい!』と思えるようになってきたんですよね」

――男性が少ない分、バッターボックスに立つ機会が多かったんですね。

「そうです。そういう意味では、時代的に得をさせていただいたな、と思います」

■徐々にくだけて人間性や親しみやすさが見えてくる|『薬屋のひとりごと』高順

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――現在放送中の『薬屋のひとりごと』では高順(ガオシュン)として、ご出演なさっていますが、すごい人気ぶりですね。

「驚くほど、すごく大勢の方に観ていただけて、僕も驚いています(笑)。『薬屋のひとりごと』は絵がすごく綺麗ですけど、とくに色が鮮やかでいいですよね。時代設定として、本来であれば現代よりももう少し色味が少ない景色が多い時代なんじゃないかと思いますが、鮮やかな色彩で描き出すことで、やっぱり後宮という世界独特の煌びやかな空気感を絶妙に表現しているなと思います。最近の作品はもう、『絵が綺麗なのは当たり前』になってきましたけど、『薬屋のひとりごと』はその中でもとくに目立つというか、あのクオリティを維持する制作陣の熱量もすごいですよね」

――いち視聴者としても、激しく共感します。反響の声を聞く機会も多いですか?

「そうですね。僕らの仕事って『いいものを作った』とどれだけ自分たちが感じていても、観てくれる人がいなければ作品として完成はしないので、『観てます!』と言っていただけるだけでも、すごく嬉しいんですよね。ほんと内容への感想とかはなくても全然いいので、ぜひ『観てます!』と積極的に声を届けてもらえたら嬉しいです(笑)」

――心がけます(笑)。小西さん演じる高順は、寡黙ながら頼れる中年男性、というイメージがありますが、高順を演じるにあたってはどんなことを意識されたんでしょうか?

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「高順は1を聞けば10のことがわかるタイプだし、逆に相手に伝えるときも言葉を多くしないタイプのキャラクターです。あまり口数が多くないので、その中でどうやって彼の人間性を表現するのか、そのバランスの表現は難しいなと思います。例えば、絵で表現されているならば、僕ら声優があまりやりすぎないほうがいいなと思ったりするケースもあります」

――ご自身の演技だけでなく、最終的な完成形として観ている方にどう伝わるのかを考えて表現していくんですね。

「そうですね。それは高順だけでなくどんな役でも言えることではありますが、キャラクターって僕一人が作り上げるものではなくて、関わる人たちすべてで作り上げるものだと思っているんですよ。絵を描く人、効果をつける人、そして音楽、声。いくつもの要素が重なってできる総合芸術なんですよね。そう考えると、僕ら声優がやっていることも一つの要素でしかないですし、独りよがりな表現をするのは違うと思うんです。よくこういうインタビューで『小西さんが演じているから』『〇〇役やっていますよね』とよく言われたりもするんですが、心のどこかでは『そうじゃなくて、みんなで作ってるんだけどなぁ』と思います。その上で、音響監督さんに現場で言われて記憶に残っている言葉というと、『思いっきり振り切っていいよ』ですかね」

――高順の雰囲気からすると意外なディレクションでした......!

「高順って物語が進むに連れて、どんどん人間性が出てくるじゃないですか。最初の頃こそ凛とした役人というイメージだけど、物語が進むにつれて困り顔をしたり、呆れ顔をしたり、もっと言うと二等身絵が出てきたりもしますし。徐々にくだけていく感じがあるんですよね。『そういうときは思いっきり振り切っていいよ』と言っていただいて。ふだんは仕事ができて頼れる人を意識しつつ、くだけた部分からちょっとした人間性や、親しみやすさが見えてくる。その対照的な要素の振り幅みたいなものは、意識していました」

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――なるほど。壬氏様とのコミュニケーションを取る場面では、どんなことを意識されていましたか?

「じつは壬氏様に対してはツッコミ、とまではいかないまでも、意外とたしなめるような言葉をかけることもあります。ただ、やっぱり主人ではあるので、それがストレートなツッコミに聞こえてしまわないように、つねに一歩引いた受け答えに見えるように意識しています」

――一方で、高順の視点から見た猫猫(マオマオ)は、どんな人物に写っていると感じますか?

「作品としても猫猫を中心に物語が進んで行くし、彼女の洞察力や知識量が、つねに事件解決の糸口になる。その様子を近くで見ているわけですから、高順は彼女に一目置いているんじゃないかなと思いますね。
きっと高順も猫猫のことは、すごく信頼していると思います」

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「でも、壬氏様と猫猫との関係という話になると、高順からすれば『壬氏様は、どうしたいのか』がまず一番になると思うんですよね。それがあって、初めて『じゃあ私はこう動こう』と考えられる。その瞬間は主人に使える身としての立場を、大事にしているんじゃないかなと思います」

――ありがとうございます。小西さんから見た『薬屋のひとりごと』の魅力を教えてください。

「なんといっても、ミステリーの見せ方じゃないでしょうか。猫猫がいろいろな謎を解決していく。その一つ一つの事件は小さかったりするんですけど、物語が進むに連れて、『どうやらあの事件とこの事件は繋がっている』というのがわかってくる。オムニバスで楽しんでいたはずの話が、じつは一大長編の物語になっている。その点と点が繋がったときの気持ちよさは、『薬屋のひとりごと』の魅力だと思います。謎解きは最上級に面白いし、一方で、ズバズバと言いたいことを言ってくれる猫猫のキャラクターというのも、みなさんに愛していただけているポイントなのかなと思います」

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取材・文/郡司 しう 撮影/小川 伸晃

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