『美男高校地球防衛部ハイカラ!』はSNS炎上のリアルも描く風刺の効いたアニメ【松井玲奈】

『美男高校地球防衛部ハイカラ!』はSNS炎上のリアルも描く風刺の効いたアニメ【松井玲奈】

これまで時折、名前を聞いていた「美男高校地球防衛部シリーズ」。私の好きな声優さんたちが最初のシリーズに出演していて、折に触れてこの作品のことをお話されているのを聞いていたので思い出深く、いい作品なんだろうなと思っていた。いつか見ようと思いながら月日が流れ、気がつけば十年経っていたから驚きである。その「美男高校地球防衛部シリーズ」の最新作『美男高校地球防衛部ハイカラ!』の放送がこの夏に始まったので、これはいいタイミングだと視聴することを決めた。

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(C)馬谷くらり/黒玉寮

大正時代の高校生たちが地球の平和を脅かす悪と戦う!

今回はこれまでのシリーズとは違い、時は大正。眉難(びなん)高校に通う、雲仙(うんぜん)、酸ヶ湯(すかゆ)、卯花(うのはな)、長万部(おしゃまんべ)、阿蘇の五人は、"何もしない部"・地球防衛部の部室でダラダラ過ごす高校生。5人が学生寮・黒玉寮の風呂で朝風呂を楽しんでいると、湯の中に何やら奇怪な生物の影が。やっとのことで捕まえたのは、なんとしゃべるマヌルネコのヌル。「猫って液体なんだね」と、のんきに笑う5人だったが、ヌルから伝えられたのは衝撃の事実だった。

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(C)馬谷くらり/黒玉寮

「地球に滅亡の危機が迫っている。君たちには地球のために戦ってほしいけれど、どうするかは自由意志で、5人で決めてほしい」と言うヌル。え、それって責任逃れの匂いがすんだけど......と不信に思うも、新しいことやハイカラなことに興味津々な雲仙の「どっちでもいいなら俺はやるぜ!そっちの方がハイカラだからな!」の一声により、他の4人は巻き込まれる形で戦うことに。ヌルの猫科学によって「ハイカラ浪漫団」に変身し、地球の平和を脅かす悪と戦うことになるのであった――。

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(C)馬谷くらり/黒玉寮

ここまでが1話の中で怒涛のように進んでいくので、こちらに考える隙を与えないテンポの良さに驚いていたが、キャストクレジットを見て納得した。監督の高松信司さんは「こちら葛飾区亀有公園前派出所」「スクールランブル」「銀魂」などなど、数々のギャグアニメを手掛けている。私は「スクールランブル」世代で、リアルタイムで放送を見ていたので、独特なテンポ感のコメディーパートに懐かしさすら感じる。

現代におけるSNS社会の問題を風刺したエピソード

特にお腹を抱えて笑わずにはいられないのが、第参話「この木 呟樹(つぶやき) ハイカラだぜ!」。月に一度開催される、眉難高校美男子コンテスト。入学以来、連続優勝を続けている酸ヶ湯。彼は人気者にもかかわらず、学内でファンに囲まれている様子はない。彼の人気の秘密はメディア戦略の先駆けとも言われる画期的な戦略、掲示板「呟樹」を使い自分の言葉を発信することで信奉者を増やしていたのである。掲示板に貼り付けた呟きには、毎日たくさんの返信が。

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(C)馬谷くらり/黒玉寮

しかし、この「呟樹」も使い方を気をつけなければ、信用を失ったり、人を傷つけたり、不快な気分にさせてしまう危険もあるのだ。視聴をしながら、これは現代のSNSのことだよなと思っていたのだが、ハイカラ浪漫団と敵対している「蛮華羅(ばんから )新鋭隊」の猫魔が酸ヶ湯の呟きに対する煽(あお)り呟きをしたことで、炎上が始まるのです。ハイカラに現代を風刺するギリギリを攻めたジョークが面白い。この呟樹回は、SNSが自分の世界の中心になってしまっている人のことを呟樹廃人、略して「呟廃(つぶはい)」と称し揶揄(やゆ)している。

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(C)馬谷くらり/黒玉寮

煽られることで精神的にすり減っていく酸ヶ湯。この呟樹を作った人物・鳥居も「争いのために作ったのではない」と心が闇に包まれてしまう。その瞬間を蛮華羅新鋭隊に利用され、「今は失われし幸せの青い鳥怪人」になってしまう。この怪人を倒すのがハイカラ浪漫団の役目。しかし、今回は酸ヶ湯も闇落ち寸前ということで、なんと必殺技のビームを心が擦れてしまった自分にも放ってくれ!と懇願するのである。味方が闇に支配されそうになり、仲間たちで助け出す展開って割と物語後半、特にクライマックスでやるのがありがちな展開であるが、それを3話目でやってしまうとは、なんてとがったアニメなんだと、私はますますこの作品の面白さに魅了されていくのである。

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(C)馬谷くらり/黒玉寮

変身シーンや懐かしさを感じられる演出にも注目!

大正時代の設定で、現代の社会問題をギリギリのラインで風刺して描く手法は、痛快でありながら、今の世の中に必要な、社会的精神環境の平和を望むメッセージが込められているように感じられる。毎話楽しみながらも、怪人になってしまう生徒たちが抱える闇の部分は誰もが共感できるものであり、一歩間違えば自分たちも闇に飲まれてしまう可能性があることを教えてくれる。

作品の見せ場でもある変身シーンは、「美少女戦士セーラームーン」と「プリキュア」のハイブリッドのようで、平成時代を思い出す、幼心くすぐられるエフェクトシーンになっていて癖になる。使用する武器のステッキも、どこか見覚えのあるフォルムで、幼い頃に憧れたなあと懐かしい気持ちでいっぱいになるのである。

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(C)馬谷くらり/黒玉寮

最新作「ハイカラ!」を視聴してから第1シリーズの「LOVE!」を見ると、つながりのあるシーンや設定が多く盛り込まれていることに気がつく。シリーズを追ってきた人にとっては、懐かしさを感じられる"イースターエッグ"が盛り込まれた粋な演出であり、私のように新シリーズから入った人にとっても、多くのつながりを見つけることが、より作品を楽しむためのエッセンスになっている。

驚いたのは、どのシリーズも風呂から始まること。なぜ風呂なのかは分からないが、キャラクターの名前に温泉地の名前が入っていることが、関係しているのかもしれない。ツッコミどころ満載の5人の会話を楽しみにしながら、今後も視聴を続けていきたいと思う。

松井玲奈

松井玲奈 (役者、小説家)

役者、小説家。アニメ好きとしても知られる松井玲奈が毎回1つの作品を取り上げて、その魅力を再発見する。

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