声優・佐倉綾音インタビュー#3「『エンタメは不要不急なもの』ではない。誰かが次の1秒を生きていく理由になれたら」

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声優・佐倉綾音インタビュー#3「『エンタメは不要不急なもの』ではない。誰かが次の1秒を生きていく理由になれたら」

「僕のヒーローアカデミア」の麗日お茶子をはじめ、「五等分の花嫁」の中野四葉、「SPY×FAMILY」のフィオナ・フロスト、「SAKAMOTO DAYS」の陸少糖(ルー・シャオタン)など、数々の人気作品で主要キャラを好演する、声優・佐倉綾音さん。人間に対する深い洞察から生まれるその演技力と、そのキャラの気持ちや感情を真っ直ぐに伝える表現力は、アニメファンならずとも心を打たれます。2025年4月にはTBSラジオでレギュラー番組がスタート、豊かな語彙と軽妙な毒を散りばめたトークでラジオパーソナリティとしての才も発揮。活躍の場がさらに広がりました。この企画では全3回にわたり、佐倉綾音さんへインタビュー。ラジオへの思いやこれまでの歩み、お芝居に対する考えをひもときつつ、その人となりに迫ります。

■作品では描かれない、そのキャラの人生を込めて

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――佐倉さんが役作りをするにあたって、意識していることはありますか?

「本来、作中では描かれていなくても、一人ひとりのキャラクターそれぞれに人生があるはずじゃないですか。だけど作品では、その一部分を切り取った創作物として、みなさんにお見せしなければいけない。アニメならワンクール12~13話、映画なら2時間くらいという限られた時間の中で、観ている方にどれだけ『その役の人生』を感じてもらったり、想像してもらったりできるかはかなり意識していますね。例えば、どんな背景をもっていて、何を信念に生きているのか。それがお芝居をする声優側にあればセリフに重みが出るし、説得力が増すものだと思います」

――登場する場面やセリフだけのことを考えているわけではないんですね。

「そうですね。ただ、作品やキャラクターによって当然、背景の情報量はまったく違うので、演じる側としてはなかなか一様にはいかないことが多いです。それこそ有識者のスタッフさんに『この役は過去に何があり、何を大切にしているのか』などをなるべく聞いて確認するようにはしていますが、現場によっては自分一人で考え抜かなければいけないこともあります。そういうときは、そのキャラクターの背景を、作品のストーリーやそのキャラの言動と齟齬(そご)が起きないようにイメージしたりしてお芝居に生かすようにしています」

――では、手に入る情報からなるべくそのキャラの背景に思いを巡らす、と。台本のセリフも事前に読み込んでおくんですか?

「台本はしっかり読み込んでおきますが、事前に声出しの練習はほとんどしません......というか、しないようにしています」

――なぜでしょうか?

「キャラクターの背景をしっかりさせておくのは大事なのですが、それと『セリフの読み方を想定しておく』というのは、私にとってはまったく別のものなんです。自分一人の中だけでそのキャラのセリフを完成させすぎてしまうと、現場でのディレクションや、掛け合いのお芝居に柔軟に対応することが難しくなる気がして。とくに私は、アフレコ中『自分で持っていったお芝居が捨てられない......』という状態になることを恐れているので、セリフの言い方などはあまり確立させすぎないように意識しています」

――キャラの背景はしっかり考えるけど、セリフの言い方は決めすぎない、というのが大事なんですね。背景は、台本に書き留めておいたり?

「そうですね。台本に書き込むことは結構多くて、『セリフの言い方』というよりも、『この言葉を発しているとき、どんな感情になっているんだろう』ということをセリフの脇にメモしています。現実でもそうですが、人間が言葉を発するときに考えていることって、一つじゃないことが多いじゃないですか。相手との関係性や自分の感情、置かれた状況、第三者の気持ち、損得感情など、いろいろなことを考えたり感じたりした上で、それが一つの言葉、つまりセリフになって出てくるものだと思うんです。だから台本には、そのときの感情を一つ一つ四角で囲って書き込んだりしています」

――面白いですね...!台本には、ほかにどんな書き込みをするんですか......?

「あとは、勉強のために他の人が受けたディレクションも台本に書き込んだりしているのと......タイム(※)もしっかり取って台本に書いていることが多いです。
(※タイムコード...各セリフに設定された、喋り出しの分秒。声優は、映像の経過時間を観ながらタイムコードに合わせてセリフを喋る)
ただ、過去に一度、アフレコ現場で急に『2~3分、タイムがずれます』と言われたことがあって。そのとき、すごくテンパって精彩を欠いてしまったことがあったので、それ以来タイムを取らずに臨んでみる現場もたまにつくるようにしています」

■エンタメがなければ世界から居場所を失っていた

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――前々回のインタビューでも「作っている人の裏側を知るのが好き」とおっしゃっていましたが、台本への書き込みの話を聞いて、佐倉さんの観察眼や人の感情を推察する力が、演じるキャラの感情表現にすごく結びついているんだな、と感じました。

「そう......なのかもしれないですね。それって、答えがなければ終わりもない、とほうもない"問い"みたいなことだと思っていて。自分一人にしても周りの人を見ていても『人間って本当に難しいな』といまだに思いますもん。私自身、人に傷つけられもしたし、そのことで人を憎みもした。だけど、自分を救ってもらったのもまた、人なんです。私は、そういう愛憎入り混じった人間に対する複雑な感情が人一倍強いタイプだと思うので、こうしてエンタメの世界に身を置いて『表現』としてそれを発露できて、本当によかったと思います。でなければ今頃、どうなっていたか......」

――佐倉さんにとっては、まさに声優が天職だったんですね。今後、佐倉さんはどんな声優であり続けたいですか?

「『生きることをやめずに走り続けることかな』と思っています。それは『私自身が生きていること』もそうだし、『私が演じる役が作品の中の世界で生きていること』もそう。そして、私が出演する作品やキャラクターが『ほかの誰かが生きていけること』に繋がっていたら、なお嬉しいなと思います。

2019年以降、業界の外でも中でも『エンタメは不要不急のもの』という言葉をよく耳にするようになりました。だけど、エンタメがなかったら私なんて、とっくにこの世から居場所を失っていたと思うんです。そのときの私と同じように、エンタメが『誰かにとっての、次の1秒を生きるための糧』として機能するなら、私が声優として表現を続けることには、相当な価値がある。

元々、『人が感情を動かす瞬間』を目の当たりにするのが大好きな性分なので、せっかくエンタメ業界にいさせてもらえるんだったら、できるだけ長く、それを目の前で見ながら走り続けたいなと、今は思っています」

■迷いながら答えを出したルーのお芝居|「SAKAMOTO DAYS」陸少糖(ルー・シャオタン)

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――「SAKAMOTO DAYS」では、天真爛漫で明るい陸少糖(ルー・シャオタン(以下、ルー))を演じられています。佐倉さんご自身は、ルーのことをどんなキャラだと捉えていますか?

「じつはルーを演じるにあたっては最初、どうすべきかとても迷っていたんです。それこそオーディションの段階から。......というのも例えば『らんま1/2』のシャンプーや『銀魂』の神楽など、これまでの日本アニメのなかでも、ルーの立ち位置に近い存在は、いろいろな作品で登場していて、どうしてもその先人たちが作り上げてきたお芝居というのが、観る人の頭の中で、思い浮かんできてしまうと思ったんです。

そのときに、『「SAKAMOTO DAYS」で求められているのは、新しいイメージなのか、それとも先人たちが築き上げてきた王道で安心感のあるイメージなのか』ですごく悩みました。テープオーディションだったので、スタッフさんの意見を聞くこともできず、自分の中で考えてどちらかの答えを見せるしかない、と」

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――両方をやってみるわけにはいかないですもんね。どんなふうに考えて答えを出したんですか?

「最終的には、『私が観る側だったらどっちのお芝居を聞きたいだろう』と考えました。その結果、『「SAKAMOTO DAYS」という作品に登場する、陸少糖(ルー・シャオタン)というキャラクターならば、王道のお芝居で、私は聞きたい!』という結論にいたり、それでテープを作成したらオーディションに通ることができた、という感じでした」

――つまり、制作側と同じ方向感でのお芝居だったということですね。キャスト陣も錚々たる顔ぶれでしたね。

「本当ですよね。蓋を開けてみたら、主人公・坂本太郎の杉田智和さんをはじめ、全員が座長を張れるようなキャスト陣で......思わず見た瞬間、『アルマゲドンみたいに横一文字に並んでいくような布陣。こんなに真っ向勝負なの!?』と思ってしまったほどでした(笑)。それも含めて、前回、お話しした『ダンダダン』がひねりにひねったトリッキーな作品だとしたら、『SAKAMOTO DAYS』は正面からぶつかっていく王道のジャンプ作品なんだろうな、と」

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取材・文/郡司 しう 撮影/小川 伸晃

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