キャラクターであっても「死」が最大の帰結にならない「『キン肉マン』完璧超人始祖編」【サンキュータツオ】

サンキュータツオ

サンキュータツオ (芸人、日本語学者)

芸人、日本語学者。芸人として活動するかたわら大学教員を務め、アニメなどのサブカルチャーにも造詣が深いサンキュータツオが、今クールのおすすめアニメを紹介する。

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キャラクターであっても「死」が最大の帰結にならない「『キン肉マン』完璧超人始祖編」【サンキュータツオ】

「キン肉マン」がアニメ化、しかも制作はプロダクションI.Gって、いやマジですか! 80年代をマンガ、アニメ双方で席巻し、キャラクターの形をした消しゴム「キンケシ」が日本全国で取り合いになったほどの作品が、令和に映像化されるとは!

しかし、この時代に殴り合いのプロレスアニメ、果たして大丈夫なのだろうか。そもそもキン肉マンが声優・神谷明さんの手を離れて新しいキャストで制作されて、私は違和感なく受け入れられるのだろうか。そんな一抹の不安を抱えて視聴した2024年のSeason1、一話にして土下座である。ゆでたまご先生ありがとう! プロダクションI.Gありがとう! キン肉マンを演じてくれたマモこと宮野真守さん、ありがとう!

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(C)ゆでたまご/集英社・キン肉マン製作委員会

プロダクションI.Gによる圧倒的アクション演出!

そうなのである。そもそも「攻殻機動隊」シリーズを手掛けたプロダクションI.G、近年では「黒子のバスケ」や「ハイキュー!!」シリーズ、「怪獣8号」などの傑作を生み出してきたアニメスタジオだけに、アクションはお手の物! 特にプロレス(「キン肉マン」の世界では「超人プロレス」と言うようだ)でいえば、前後左右の動きに加え、飛んだり跳ねたりの上下の動き、空間の中での戦闘というのはカットを割ったりするアニメでは、位置関係の把握がとても難しいのであるが、「位置関係? 何それ」と思えるほど自然に見られる安心感があった。さらに技や打突の一撃の大きさや痛さの表現が微に入り細にわたって描かれているので、リアルで見るような痛々しさを感じず、それでいて臨場感のある迫力を演出するというアニメならではの魅力を感じさせてくれた。こういうの待ってたぞー!

昨今のバトルものといえば、ロボット同士の金属的な戦闘、あるいは魔法や特殊な能力を使用した距離感が遠すぎる戦いが多く、直接対峙(たいじ)する肉弾戦という色合いはどんどん薄れてきているが、いかに描こうとも、そこにあるのは「物理的に相手を倒す」という戦いなのである。しかし、大事なことは、いかに直接的に殴り合っていても、それは「超人プロレス」という競技の中で行われている、「死」が結末ではない闘いなのである。この時代にこれ以上にマッチしているものはないのではないか。キャラクターであっても「死」が最大の帰結にならないのが、この作品の偉大なところである。

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(C)ゆでたまご/集英社・キン肉マン製作委員会

懐かしのキャラクターたちが織りなす新たなドラマ!

Season1ではキン肉マン、テリーマンなどの懐かしの「正義超人」たちが、このシリーズの敵である「完璧・無量大数軍(パーフェクト・ラージナンバーズ)」とバトルする。が、途中でバッファローマン、ブラックホール、スプリングマンにステカセキング、アトランティスといった「悪魔超人」が合流、正義超人と共に完璧・無量大数軍たちに挑むという夢のような展開。

Season2が興味深いのは、Season1で全力を出し切ったキン肉マンがまずは視聴者と共に、完璧超人らと闘う彼らの姿を見守るところからスタートしている。いきなりブロッケンJr.やラーメンマンらが活躍するのだ! 今見ても斬新すぎるフォルムの超人たち。スプリングマンなんてホントにただ巨大なスプリングだし、ブラックホールの顔面がブラックホールっていうギミックって本当によく考えたなと感心してしまう。移動だってブラックホールの中に入っちゃえば、どこでもドアみたいにできちゃうんだから。ステカセキングってもうステレオカセットデッキないし! でもステカセキングはいるんだよ!

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(C)ゆでたまご/集英社・キン肉マン製作委員会

こうした「キン肉マン」本来のバカバカしさというかギャグ要素と、バトルのシリアスさのバランスが保たれており、キン肉マンも宮野真守史上最も神谷明的なところに寄せつつ宮野色をちゃんと出しているところが、「新しいキン肉マンも面白いじゃんか!」と応援したくなる要素。その昔、「キン肉マン」に熱狂した諸氏にはぜひ見てもらいたい作品となっております。

私が好きだったのは、原作ではベンキマンだった、アニメ版の「ザ・ベンキーマン」です。和式トイレのボディーがイヤだったなあ、触れたくない!と思ったもの。忘れられないレスラーです。