はるな愛の壮絶半生を描くNetflix映画『This is I』主演・望月春希のすさまじさ
映画 独占配信
2026.02.10
Netflixで2月10日から世界独占配信される映画『This is I(ディス・イズ・アイ)』は、タレント・はるな愛の半生を実話ベースでつづったヒューマンドラマだ。少年ケンジ(後のアイ)は、世間の偏見や冷たい視線にさらされながらも、「アイドルになりたい」という夢を決して手放さなかった――自分らしく生きることを模索し続けるアイの歩みと、アイを支える人々との絆が、繊細かつ力強く描かれる。

アイドルになりたい少年ケンジの夢を後押しした医師との強い絆
少年ケンジは幼い頃から、周囲の男の子たちとの違いに戸惑い、「自分が望む本当の自分とは何か?」という問いを胸に抱えて生きてきた。そんなケンジの心を支えていたのが、人気絶頂のアイドル・松田聖子への憧れと、「アイドルになりたい」という揺るぎない夢だった。偏見や冷たい視線に傷つきながらも、その思いを手放さずに成長したケンジは、やがてショーパブで"アイ"という名前をもらい、ステージに立つことで自己表現の喜びを知っていく。そして、そんな日々の中で出会った医師・和田耕治との関係が、アイの人生を大きく動かしていくことになる。

アイの人生を大きく変える存在となる医師・和田は当時、医療界でもなおタブー視されていた性別適合手術と真摯(しんし)に向き合っていた人物である。やがてアイの切実な思いを受け止め、アイの夢と人生を後押しする決断を下す。本作は、懸命に自分らしさを貫き、前を向いて生きようとするアイの「勇気と再生」を描く物語であると同時に、和田との間に育まれていく深い信頼と絆を物語の核としている。社会的な理解も制度も整っていなかった時代に、性別適合手術に挑むことは、和田にとっても計り知れない覚悟と勇気を要する選択だった。

主人公・アイに抜てきされたのは、18歳の新人俳優・望月春希。トランスジェンダー当事者を含む多くの応募者が集まった大規模オーディションの末、制作陣が決め手としたのは、望月の繊細な感情表現とひときわ目を引く存在感だった。その独特のたたずまいと役柄への高い共鳴力から、「この役は望月さんしかいない」と満場一致でキャスティングが決定。人物の内面を深く掘り下げられる表現力と、若さならではのみずみずしさに、制作サイドは大きな期待を寄せていたという。望月は撮影に向けて、演技レッスンや監督とのワークショップを重ね、入念な準備を経て本作に挑んでいる。

本作の最重要人物の一人である医師・和田耕治役には、斎藤工が起用された。物語の核を担い、実在の人物でもあるため、演技へのハードルは高いが、斎藤はその期待に応える存在感を発揮している。和田は、当時の医療界ではタブーとされていた領域に踏み込み、警察に追われながらも「真の医療」を追い求めた人物。その信念と生きざまは強い感動を呼ぶ。重厚さの中に柔らかさと優しさをにじませ、強さと苦悩の両面を立体的に表現した斎藤の演技は説得力に満ち、本作を支える大きな柱となっている。

昭和・平成のヒット曲満載の「エア・ミュージカル」にも注目
新人ながら主演という大役に挑んだ望月の演技も特筆すべきだ。幼少期からの葛藤を抱え、世間の偏見と向き合いながら自分らしさを貫き、やがて性別適合手術という大きな決断に至るアイ(ケンジ)役には、極めて繊細な感情表現が求められる。望月はその微細な心の揺れを丁寧にすくい取り、豊かな感受性に裏打ちされた演技で見る者の胸を打つ。経験や技術だけでは測れない、俳優にとって不可欠な資質を本作で確かに証明してみせた。

監督の松本優作も「主演の望月春希さんがとにかくすさまじい」と語るなど、その手応えは明らかだ。33歳の若手ながら、『ぜんぶ、ボクのせい』(2022年)や『Winny』(2023年)で国内外から評価を集めてきた松本監督は、本作で社会派なテーマに真正面から向き合いながらも、昭和・平成のヒットソングを効果的にちりばめた「エア・ミュージカル」という手法で、かつてない高揚感と楽しさを生み出している。

プリンセス プリンセス「Diamonds<ダイアモンド>」、松田聖子「夏の扉」、中森明菜「スローモーション」、渡辺美里「My Revolution」など、曲名を並べるだけでも心が躍る名曲の数々に加え、はるな愛を語る上で欠かせない松浦亜弥のヒット曲「Yeah! めっちゃホリディ」も登場。音楽と物語が一体となった演出は、見る者を自然と作品世界へ引き込んでいく。

その他の共演者は、アイの母役に木村多江、父親役・千原せいじをはじめ、ショーパブのママを演じる中村 中が素晴らしい。また、出番は決して多くないものの、和田のクリニックの看護師・裕子を演じるMEGUMI、和田の医療行為を監視する刑事・鶴久役の中村獅童の存在感が抜群で、画面を引き締めている。

はるな愛の自伝的エピソードをベースに、「エア・ミュージカル」という大胆な演出を取り入れ、音楽とダンスをふんだんに盛り込んだ映画『This is I』は、「自分らしく生きる」という普遍的なテーマを鮮やかに描き切った力作だ。葛藤を抱えながらも夢に向かって進む主人公の姿と、和田医師をはじめ彼を支える人々との絆は、見る者の胸を強く打つ。実話に基づく物語ならではの説得力に、絶妙なキャスティングと音楽の力が重なり、感動がより大きなものへと昇華される。
文/渡辺敏樹




