キム・レウォン、イ・ジョンソク、チャウヌ競演!家族愛が泣ける韓国映画『デシベル』【古家正亨】
2025.12.29
日本公開時のキャッチフレーズは"サウンド・パニック・アクション"。確かにタイトルが『デシベル』ですから、それが音や電気信号の相対的な大きさを表す単位であるdB(デシベル)を表していて、何かこう、音にまつわるドラマが展開することは想像できると思います。

(C) 2022 BY4M STUDIO, EASTDREAM SYNOPEX CO., LTD, MINDMARK Inc. ALL RIGHTS RESERVED.
2022年に制作された、ファン・イノ監督作品であるこの映画。舞台は、ソウルに次ぐ韓国の大都市である釜山。ある一軒家で起こった爆破事件のニュースを目にした、元海軍の副長であるカン・ドヨン(キム・レウォン)に、一本の電話がかかってきます。「次のターゲットは、サッカースタジアム。通報したり、観客を避難させたら爆発する」と言う、テロリストからの脅迫電話。しかも、仕掛けられた爆弾は、騒音が一定のデシベルを超えると、制限時間が減り爆発するという特殊爆弾だったのです。5万人の観衆で埋め尽くされた釜山アシアード競技場。ドヨンは迷いもなく競技場へと向かいますが、それだけでは済まず、釜山の観光名所に次々と爆弾を仕掛けていくテロリスト。しかもその手は、ドヨンの家族へと及んでいくことになるんです...。一体、誰が、何のために、こんなことをしているのか。そんな真相に迫る中、ドヨンは自身に起こった1年前の潜水艦での事故にたどり着きます。

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今回、「屋根部屋のネコ」や「最も普通の恋愛」といった作品を通じて日本でも人気のベテラン俳優キム・レウォンさんが主人公のドヨンを演じ、スタントマンを使わず、危険なシーンも自ら演じ切ったといいます。また、「あなたが眠っている間に」や「ビッグマウス」でおなじみの、日本にも多くのファンを抱えるイ・ジョンソクさんが、ある種の"悪役"に当たる、高IQを誇る爆弾魔を。さらに「女神降臨」で役者としての地位も確立した、ボーイズグループASTROのメンバーでもあるチャウヌさんが、物語のカギを握る海軍潜水艦の乗組員で、水中の音響情報を分析・識別する役割を担う海軍潜水艦音響探知下士官のチョン・テリョンを演じています。チャウヌさんはASTROとしてデビューして以降、初の映画作品への出演ということで注目を集めましたが、現在は兵役中ということもあり、軍服・短髪姿など、実際にこんな感じなのかなぁと思わせるところも、今、見るとリアリティーを感じずにはいられません。

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このように、トップスター達が息を合わせた映画『デシベル』ですが、ビジュアルイメージが先行して、パニック・アクションのイメージが強いかもしれません。もちろん、一定の音によって爆弾が爆破してしまう緊張感が全編に及んでいるので、まさにパニック・アクションではあるのですが...この映画の本領は、実は、後半に"さらに"発揮されると言っていいでしょう(ここからは多少のネタバレがあります!)。

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なぜ爆弾魔は、執拗にドヨンを苦しめるのか。それはドヨンが関わる潜水艦の事故に遡るわけですが、その爆弾魔は、自分にとって大切な存在を、その事故で失ってしまいます。ところが、ドヨンは生き延び、再び人生を歩み始めるわけです。爆弾魔は事故の責任者であるドヨンが生き延びたことに不満を抱え、それが結果的に、彼自身のテロという行動へとつながって行くわけですが...ここに登場する人物は、誰一人として、幸せな人生を歩んでいるわけではありません。

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ドヨンは自分だけが生きていることに罪を感じながら、一方で、家族のために生きることを決意するわけです。しかし爆弾魔は、復讐という、いつ爆発してもおかしくない爆弾を抱えながら、実際に爆弾を仕掛け、自分の家族に対する恨みを晴らしていこうとするわけです。ただ、彼自身は、その行動そのものを望んで進めているわけではないのです。

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こういった心理描写が映画の後半に凝縮されているため、映画を通して見ると、単なるパニック・アクションというジャンルを超えた、人間ドラマを見せられている気がするのです。比較的早い段階で犯人が明らかになるのも、犯人探しではなく、制作者側は、その背景を中心に、人間模様を描きたかったんだろうなぁと想像できるわけです。とは言っても、爆破シーンはCGではなく、すべて実際に爆破させて撮影に臨むなど、臨場感・リアリティーにこだわったというその映像によって、アクション映画としても一級の魅力を放っているのは間違いありません。

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110分という上映時間は、今の時代、決して短くはないと思いますが、このドラマを描くためには必要な時間だったと思います。特に、最後の最後に、この映画の"本質"が待っているので、エンドロールまでしっかり見て欲しい...そんな作品です。パニック・アクションの皮をまとった"家族愛"を描いた映画『デシベル』、涙なしには見られません。
古家正亨 (ラジオDJ/イベントMC)
ラジオDJ、イベントMC。 K-POPなどの「韓流」カルチャーを20年以上にわたり日本に紹介してきた古家正亨が、毎月オススメの韓流コンテンツを紹介。
古家正亨 (ラジオDJ/イベントMC)
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