福田雄一監督がW主演のムロツヨシ&佐藤二朗のために集まったキャストに「この業界、まんざらでもない」

福田雄一監督がW主演のムロツヨシ&佐藤二朗のために集まったキャストに「この業界、まんざらでもない」

映画『新解釈・幕末伝』が12月19日(金)より公開となる。

同作品は、学校で勉強したはずなのに「説明してください」と言われても意外と答えられない、"知っているようで知らない幕末"を、コメディ映画のヒットメーカーである福田雄一監督が、史実にのっとりながら"新解釈"で実写映画化したもの。

福田監督にとって20作目という節目の作品で、映画『新解釈・三國志』(2020年)に続く"新解釈"シリーズの第2弾。これまで福田作品を支え続けてきた、ムロツヨシと佐藤二朗が満を持してW主演を務めるなど、話題性に事欠かない注目作だ。

坂本龍馬をムロ、西郷隆盛を佐藤が演じるほか、龍馬の妻・おりょうを広瀬アリス、桂小五郎を山田孝之、岡田以蔵を岩田剛典、後藤象二郎を賀来賢人、土方歳三を松山ケンイチ、三吉慎蔵を染谷将太、大久保利通を矢本悠馬、徳川慶喜を勝地涼、沖田総司を倉悠貴、コンセプト茶屋店員のくノ一を山下美月、近藤勇を小手伸也、吉田松陰を高橋克実、勝海舟を渡部篤郎、ストーリーテラーとなる歴史学者・小石川二郎を市村正親が演じ、いつも以上に豪華な俳優陣が参加している。

今回、福田監督にインタビューを行い、同作の企画が生まれた経緯や"新解釈"の発想のきっかけ、制作の苦労、撮影秘話などを語ってもらった。

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――この企画の始まりのきっかけはムロさんだとうかがいました。

「そうなんです。役者さんから頼まれてやるっていうのは初体験でした(笑)。たしかコロナ禍が明けてすぐくらいの時に、ムロくんから『ちょっとお話が...』っていうことで2人で話したら、『福田組監督の作品をそろそろ背負いたい』って言われたんです。当時は映画界が暗黒時代で、映画を作っても(劇場に)かけられるかどうかも分からないという時期だったのですが、即『いいと思うよ』という話はしました。ただ、『一応映画監督として(世に)打ち出す時に何が一番キャッチーかなと考えた時に、"福田組をずっと支えてきたムロと(佐藤)二朗が主演をやります"という方が打ち出し方としてはいいと思う』ということも伝えたんです。そうしたら、ムロくんが二朗さんと飯を食いに行ったらしくて、2人の写真と『オッケーいただきました』というLINEが送られてきたんです」

――先に主演が決まって、内容はどのように決まっていったのでしょうか?

「2人の主演を僕から提案したものの、何をやるかも全く浮かんでなかったんですよね(笑)。でも、とりあえず松橋(真三)プロデューサーに『ムロくんと二朗さんの主演でやれますか』という相談をさせていただいて、『やれると思います』というお返事をいただいて、本格的に『じゃあ、どうするか』と...。

それで、おっさん2人が主役の原作を探すにしてもなかなか難しいだろうし、というか多分ないし(笑)。かといって、オリジナルで何の武器も持たずに飛び込んでいくほど馬鹿じゃないので、『どうしよう...』って思っていたら、映画『新解釈・三國志』(2020年)のことをふと思い出したんです。

あれは僕のオリジナルなのですが、公開当時はオリジナルものなんてほとんど無かったんです。『俺のオリジナルなんて誰が見るんだよ』って不安に思っていることを松橋さんに打ち明けたら、『監督、何言ってるんですか。三國志は立派な原作ものですよ。日本国民の誰もが知る大人気の物語なんですから』って言われて。『そういう考えもあるのか』って思って、蓋を開けたら興行収入が40億円くらいいったから、『さすが三國志、人気あるんだな』って感心したんですよね。

そのことを思い出したので、『だったら、みんなが知っている歴史物をやろう』と。みんなが知っている幕末を原作にしてやるのが一番なんじゃないかって思ったんです」

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――舞台を幕末にした中で、坂本龍馬の話にしようとした決め手は?

「幕末の話にしようと思った時に、同時に『そういえば何年か前にムロくんの舞台で坂本龍馬の話を書いたな』というのを思い出したんです。その時のムロくんが演じた坂本龍馬が抜群に面白かったんです。

僕は元々、『坂本龍馬って、どないやねん』っていうのがあって...。すごく人気のある幕末の志士なので大きい声で言うのはちょっと気が引けるところもあるんですけど、龍馬って何をやったかというと何もやっていないんですよ。"日本で初めて新婚旅行をした"とか"日本で初めて会社を作った"とかはあるけど、何かを成し遂げたかというとそうじゃない。圧倒的なコミュ力をもって人と人をつなげたんでしょうけど、僕ら演劇畑の人間から見ると一番チャラいタイプ。何をしたか分からないのに、なぜか人気だけあるから、ずっと嫌いだったんですよね。

そんな坂本龍馬像が圧倒的にムロくん(のキャラクター)と被って、ムロくんに『坂本龍馬をやってほしい』って言って、ムロナイズして書いた龍馬があまりにもハマっていたんです。そういう過去もあって、坂本龍馬の話にしようと。

坂本龍馬はこれまで福山雅治さんをはじめ、数多くの方が演じられていて、今回改めて書くに当たって、さまざまな坂本龍馬を見て勉強したのですが、僕はこの作品のムロくんが演じる坂本龍馬が一番実像に近いと思っているし、多分そう(笑)。だから今、教科書から坂本龍馬が消える危機に陥っているんだと思います」

――脚本作りでこだわった点は?

「いつも『脚本は適当に書いてます』って言い続けて数十年経つんですけど、今回はさすがにかなり勉強しました。いわゆるちゃんとした歴史書から、坂本龍馬の逸話みたいなものも読んだし、もちろん司馬遼太郎先生の作品も読んで、歴史物なので事実は事実としてしっかりと押さえながら、"本当のところはどうか分からない"という部分を新解釈という感じにしています。

それを踏まえて、やっぱり坂本龍馬って本当に何もやっていないんですよねぇ。薩長同盟に関わったということすら怪しいんです。というか、多分関わっていない。僕が読んだ文献には、"木戸寛治と西郷隆盛が話し合っている時に、全く違うところにいた龍馬がたまたま京都に戻ってきていて、『あの2人、まだやってますよ』って言われて、『マジで?』って言った"というのだけが残っているんです。だから、薩長同盟のシーン冒頭で、龍馬が『やってる?』ってのんきな口調で入ってくるのは事実です。

それくらい何もしていないんですよ。したかもしれないけど、証拠が残っていない。だから教科書から消えてしまうかもしれないらしいんですけど、でもそれはそれで寂しいから、坂本龍馬の名前が載っていない教科書で勉強するこれからの若者たちに向けて、この映画を見て、『これくらいのことはしたんじゃないか』って思ってほしいというのはありますね」

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――キャスト陣が豪華なところも「さすが福田作品」という印象でした。

「いや、これは本当にムロくんと二朗さんの人徳だなと思いました。結局は"誰が監督か"ではなく、"誰が主演か"なんです。ずっといろんな作品の脇役で主役を支えていた2人だからこそ、『この2人が主演なら、恩返ししたい』と思って集まってくれるわけですから。

山田(孝之)くんにしても、岩ちゃん(岩田剛典)にしても、松山(ケンイチ)くんも、染谷(将太)くんも、みんなそうだと思う。(渡部)篤郎さんも、若い頃からずっと二朗さんのことをかわいがっていて、『二朗が主役やるのなら』ってことで受けてくださったんだと思います。そういった"思い"が積み重なって集まったこの座組に、『まんざらでもねぇな、この業界』って思いました」

――関係性を礎に集まった俳優陣の一方で、福田作品初参加の方々についてお聞かせください。

「勉強して驚いたのは、おりょうさんって残っているエピソードが飛び抜けて型破りなんですよ。『そんなのアリスちゃんしかいないでしょ!』って即決でした(笑)。今回のアリスちゃんは本当にやばいです。本っ当に面白かった!

小手さんはずっとご一緒したいなと思っていて、今回晴れて念願がかないました。お会いした時に『ムロツヨシと佐藤二朗がいる福田組に僕のポジションはないと思っていました』と言われて、『一理あります。でも、今回はボケの人がいっぱい必要なので、小手さんにもしっかり仕事していただけると思います』と(笑)。

それで、この作品の撮影初日の最初のシーンが、近藤勇(小手)、土方歳三(松山)、沖田総司(倉)がコンセプト茶屋の前で入るか入らないかで揉めるシーンだったんですけど、いつものごとくぐっちゃぐちゃにしたかったので、僕がせりふを言いながら段取りだけ説明して、3人はそれを聞いているだけ。説明が終わって、『はい、本番です』って言ったら、小手さんが『これがうわさの福田組(のやり方)か...』って言っていました(笑)。お芝居は言わずもがなすばらしくて!首をつかまれて『チョーク、チョーク、チョーク』って言ってるんですよ、あの時代の人が。さすがでした(笑)。

倉くんも『リハーサルもないのか!』って、驚いていたと思うんです(笑)。初めて福田組に来て、リハーサルもなく、ほぼアドリブでやってくれって言われて...。でも、倉くんも面白かった!小手さんに『お前、沖田総司だよな?女の子に人気なんだろ?そんな感じやめろ!』って言われて、『はい。沖田総司です』って答えた時の倉くんの顔が最高に面白いので、絶対注目してほしいです。

(山下)美月ちゃんも撮影をすごく楽しんでくれたし、彼女の中での"おもしろ"を全開に出してくれたと思います。演出で(忍者の歩きをしながら)『スタスタスタスタ、シュタって言って』って言ったら、美月ちゃんが『口で言うんですか?』って驚いてましたけど(笑)。

中でもすごかったのが、美月ちゃんがクランアップの時にコメントを求められて、『今回の映画はおじさんしか出ていない映画なので、せめて私が華になればいいなと思って頑張りました』ってコメントしていて、『さすがアイドル業をやっていた人は違うな...』って感心しました。秋元(康)先生とのご縁もあって、アイドルグループの方とご一緒する機会が多いんですけど、本当にこういう挨拶がうまいですよね。面白い子だなと思いましたし、お芝居もすばらしかったです」

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――リハーサルもなく、役者に全て任せるという演出は本当に役者のポテンシャルを信頼していないとできないことだと思いますし、勇気も要ると思うのですが?

「勇気は要ります。ただ、僕は基本的に役者さんのアウトプット第一主義なので。僕が一人で考えるより、役者さんと一緒に考えた方が絶対に面白いと思ってますから。僕が『役作りはこう思っているので、こうやってください』って言うほど面白くないことなんてないんですよ。だって、監督から『こうしてください』なんて言われたら、それはもう絶対なので、役者さんたちはそうせざるを得ない。それよりも僕は、役者さんが考えてくれたことと僕が考えたことのミックスが一番ハッピーだと考えてるんです。だから、いつも衣装合わせで役者さんに言うのは、『楽しみにしております』なんです。そう言われるのが嫌な役者さんは嫌だと思うんですけどね(笑)。

ただ、僕が思うに、"監督が言ってきたリクエストに忠実に応えることができるかどうか"っていうところで勝負している役者さんもいるとは思うんですけど、それでもやっぱり自分を何か表現したくて始めた仕事だと思うんです。『それを僕に見せてください』なんです。それは技術班に対してもそうで、例えばカメラマンだって自分の撮りたい画があるからやっているはずで、監督がカット割りを書いてきちゃうと、その通りにしかやれないわけです。それって楽しくないじゃないですか。だから、僕はカット割りも書かないんですよ。『カメラマンさんがやりたいことをやってほしいから、カメラマンさんが考えるカット割りでお願いします』って。

よく『福田組はすごく雰囲気いいですね』ってみんなに言われるんですけど、なんでかって聞かれたら、『自分が嫌だと思うこととか、意に沿わないことをやっている人が一人もいないからだ』って答えています」

――最後にこの作品をご覧になる皆さまにメッセージをお願いします。

「昨今の映画事情を考えた時に、僕の願望を一言で言うと『こういう映画もヒットしてくれる日本であってほしい』ということなんです。この映画は大きな仕掛けもなく、CGは黒船だけ。大きい事件も起きませんし、ラブストーリーでもありません。ただ、今の日本の映画界を支えている一線の役者さんが全力で喜劇に取り組んでいて、"役者力"で魅せる映画になっています。

このタイプの映画は最近見たことがないので本当に楽しみにしてほしいし、『役者さんの魅力でこんなにすばらしいものが出来上がるんだ』って思っていただきたいです。薩長同盟のシーンなんて、台本で38ページ分の会話劇を狭い和室でおっさんが3人で繰り広げています。でも、見るとあっという間に終わるんです。それが一番の驚きで!『おっさん3人が狭い場所にいるだけなのに、こんなに面白く見えるんだ。役者ってすげぇ!』って本当に思いましたもん。ムロ・二朗・山田が本気で取り組んでいるし、船中八策のシーンもムロと(賀来)賢人がガチ勝負しているんです。そういう映画がヒットしてくれる日本だといいなって心から願っています」

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PROFILE
福田雄一
1968年7月12日生まれ。劇作家、ドラマ・映画脚本家、映画監督などさまざまな分野で活躍中。
代表作は「勇者ヨシヒコシリーズ」「今日から俺は!!」「HK 変態仮面」「銀魂」など。

文/原田健 撮影/中川容邦 スタイリスト/森川雅代

チャンネル:J:COM STREAM

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