なにわ男子・大西流星が映画初主演作『恋を知らない僕たちは』で示した役者としての魅力
映画 見放題
2025.12.12
映画『恋を知らない僕たちは』(2024年)がJ:COM STREAMで見放題配信中。
同作品は、水野美波による人気コミックを実写映画化した青春ラブストーリーで、なにわ男子・大西流星が映画初主演を果たした話題作。主人公とその親友、幼なじみで親友の彼女など、絡み合う男女6人の恋模様を描く。
中学2年生の相原英二(大西)と親友・別所直彦(窪塚愛流(あいる))の学校に、英二の幼なじみである汐崎泉(莉子)が転校してくる。英二は幼い頃から泉に密かに思いを寄せていたが、言葉にできないうちに直彦が彼女に告白してしまい、2人は付き合うことに。その後、再び泉は転校してしまい、英二は自分の思いを抑えながら遠距離恋愛中の2人を応援していた。
やがて、高校に進学した英二と直彦の元に、再び泉が編入してくる。英二が仲睦まじい2人を傷つけまいと、本当の気持ちを胸の奥に押しやって暮らす中、直彦に一目惚れした藤村小春(齊藤なぎさ)が、直彦を振り向かせるために泉と友達になって直彦に近づくなど猛アプローチを仕掛けてくる。親友と思い人を守るため、英二は小春に「付き合おう」と告白する――。

(C)2024「恋を知らない僕たちは」製作委員会 (C)水野美波/集英社
ただの恋愛映画にとどまらない人間性までも描いた内容が世代を超えて刺さる名作
同作は高校生の恋模様を描いた作品なのだが、「"胸キュン"ばかりの10代&20代女性向けの作品」と思うなかれ。恋というフィルターを通して六者六様の心情の変化が丁寧に描かれ、恋の変遷と共に人間性にまで切り込んでいる内容となっており、他の恋愛映画とは一線を画したものになっている。
例えば、主人公の英二は泉への思いと親友を傷つけたくないという思いの狭間で苦悩しており、直彦も「英二と泉の関係を自分が壊したのでは?」という思いをずっと抱えて過ごしている。一方、恋愛体質な小春は「幸せになりたい」という気持ちを優先させながらも「こんな自分を変えたい」という願望を抱いているし、猪狩蒼弥演じる瀬波太一は、思いを寄せる池澤瑞穂(志田彩良)が英二のことが好きだと知ってしまい打ちのめされるが、彼女を応援しようと決める。6人とも何かしら心にモヤモヤしたものを抱えており、物語が進むにつれて、それぞれの心が動いていく。それゆえ、見る側は登場人物の誰かしらに感情移入できるし、恋だけではなく、社会の中で思い通りにいかないことに直面した時に、自分ならどうするのかと省察するきっかけを与えてくれ、若者に限定することなく"刺さる"メッセージが届く。

(C)2024「恋を知らない僕たちは」製作委員会 (C)水野美波/集英社
"アイドル"ではなく"役者"大西流星が魅せる演技の深み
そんな中で、演者としては若手ながら、キャスト陣の演技がすばらしい。"好き""嫌い"といった単純な感情だけでなく、恋特有のマーブル状の混濁した感情を繊細に描き出している。中でも、主人公を演じる大西の演技は必見。「泉が好きだが、直彦を傷付けたくない」というベクトルだけでなく、自分が抑えていることを積極的に行っていく小春に対するうらやましさと共に、「泉と直彦の関係を守らなければ、これまで抑え続けてきた自分の努力が無駄になってしまう」というどこか自分本位な思考もよぎるなど、1つの言動に数多くの意味を含ませ、がんじがらめになっている英二の心情を詳らかに表現している。
例えば、泉、直彦、小春、英二で夏祭りに出かけたシーンで、直彦に猛アピールを続ける小春を連れ出して厳しく注意する場面では、「私は自分のために頑張りたいし、したいことをしたい」と純粋な思いを主張する小春の言葉に、押し込めていた心が揺さぶられて言葉が詰まってしまう。本音では「自分でもどうしていいか分からない」という思いに囚われながらも、なんとか小春を止めようと奮闘するのだが、大西は「後で辛くなるのは藤村だよ」と言いながら、これまで我慢し続けてきた自分を鼓舞するように強い口調で小春を批難する英二を熱演。1つのせりふに、羨望、嫉妬、責任感、自戒、強迫観念、叱責など数多くの意味を持たせて、英二の複雑な心を表している。

(C)2024「恋を知らない僕たちは」製作委員会 (C)水野美波/集英社
若手俳優トップクラスの表現力を持つ6人が紡ぐ、登場人物たちの心情の変化を楽しみながら、恋という感情に振り回される10代ならではの複雑な心をしっかりと描き出している大西が一つひとつの演技に込めた複数の意味にも注目してほしい。彼の底なしの表現力に震えてしまうこと請け合いだ。
文/原田健













