ホラー作品は自分の視野を広げてくれる『劇場版 ほんとにあった!呪いのビデオ100』【尾崎世界観連載】
映画 見放題連載コラム
2025.03.24

尾崎世界観 (クリープハイプのボーカル・ギター)
ロックバンド「クリープハイプ」のボーカル・ギター。 小説『転の声』が第171回芥川賞候補作に選出。小説家としても活躍する尾崎世界観が、好きな映画を語りつくす。

尾崎世界観 (クリープハイプのボーカル・ギター)
ロックバンド「クリープハイプ」のボーカル・ギター。 小説『転の声』が第171回芥川賞候補作に選出。小説家としても活躍する尾崎世界観が、好きな映画を語りつくす。
「ほんとにあった!呪いのビデオ」は1990年代から続くホラービデオシリーズで、今回選んだ『劇場版 ほんとにあった!呪いのビデオ100』は、その第100弾として2023年に劇場公開された作品です。このシリーズは、中学生の頃、友達の家に泊まりに行った時に夜中にふたりで観た思い出があるんです。このシリーズでよく使われている手法だと思うんですが、作品中に「本当に危険な映像なので、こちらとしてもお見せするか迷っています。ここから先は自己責任で見てください」というようなテロップが出るんですよね(笑)。それが、当時はすごく怖くて。友達とふたりでビデオを一旦止めて「俺はやめとく」「いや俺は見るよ」「本当に何かあったらどうする?」と、お互いに試すようなやり取りをした記憶があります。最終的には、友達がお父さんに「これ、見ても大丈夫だと思う?」と聞きに行ったんです。そうしたら、お父さんが眠たそうに「そんなの大丈夫に決まってるだろ!」って(笑)。
(C)2023 NSW/コピーライツファクトリー
他にも、レンタルビデオ屋のこのシリーズが置いてあるコーナーで、同級生の女子とバッタリ会う、なんてこともありましたね。女子が手に持っているビデオを見て「ああ、それはそんなに怖くなかったよ」ってちょっと偉そうに言ってみたり。アイテムとしては、夏のコンビニに売っている花火のような存在。10代の頃、そんな風に接していたのを思い出しながら、この作品を観ました。あの頃から時間が経って、自分はもう40歳になったけれど、作品も同じように時間を経て存在していたんだなと思うと感慨深かったですね。
この『劇場版 ほんとにあった!呪いのビデオ100』は、メタ的な構造の作品です。「おわかりいただけただろうか」というナレーションでもおなじみの中村義洋さんがシリーズ初期から制作に携わっていて、この劇場版では再び監督を務めると同時に、ご自身も出演されています。中村さんがご自身で呪いのビデオを調査しに行く展開になるんですけど「俺が自分で調査に行っちゃったら、ナレーションがおかしくなるだろ」なんて言いながら、すぐ後にそのおかしなナレーションが流れる。それがすごくシュールなんですよね。真顔でふざけている感じ。「怖い」という感情と「笑い」は近い場所にあるというのを、この作品で改めて感じました。中学生の頃はそこまで見えていなかったけれど、今観ると「怖い」という感情に向き合いつつ、作り手側が楽しんでいることが伝わってきます。でもそれは、長く続いてきたシリーズだからこそ成立するのかもしれないですね。バンドもそうなんです。長く続けていると、過去の曲の歌詞を引用したり、あえて過去の曲と真逆のことを歌ってみたり、自分たちが積み重ねてきたもので遊べるようになる。きっと「ほんとにあった!呪いのビデオ」シリーズも、長く続いていく中で、そうやって遊べる部分を見つけていったんじゃないかなと思いました。
(C)2023 NSW/コピーライツファクトリー
作品中の中村さんの立ち位置からも、今の時代に「上司」という立場に置かれる人の悩みが見えてくるようで面白いです。一番このシリーズを知っているはずの中村さんが、誰よりも作品の外側に行こうとしていて、なんというか......ずっと変なんです。ベタなことをやっているようで、常にちょっとズラしている。ほころびがあるのに、そのほころびが上手くはまることで、作品として完成されていく。モザイク処理や音声加工もパンチがありますね。「見えていない」ということがもたらす説得力があるし、「見えていない」からこそ完成するものがある。深夜にテレビで取材拒否の店が特集されているとつい見ちゃうんですが、やっぱり「隠れている」っていいですよね。
自分の世代は、中高生の頃に『リング』や『呪怨』といった作品が公開されたこともあり、ホラー映画が盛り上がっていた時代を知っています。そして最近はまたホラーが流行っていますよね。「なにを怖いと思うか」はその時代や社会が抱える問題によって変わっていくけれど、なにかを「怖い」と思う気持ちは絶対に必要なものだと思います。そういう意味で、ホラー作品に触れるのはすごく大事なこと。普段、忙しく働きながら生活していると、見える視界が狭くなりがちですよね。でも、なにかを怖がることで、今まで見えていなかったものに目を向けることにつながる。目を背けることで視点が動いて、今まで見えていなかったものに目が向く。あまりの怖さに目を閉じたとしても、目を閉じることで見えるものだってあるはずです。その暗闇の中に「なにかがあるんじゃないか?」と思ってしまう。そうやって世界が広がっていくんです。閉じていくことは、広くなることでもある。10代の頃にホラー作品を通してそういう経験ができてよかったと思うし、今も、ホラー作品は自分の視野を広げてくれるものだと思っています。
取材・文/天野史彬