中村雅俊と共に50年、青春ドラマ「俺たちの旅」が今なお響く理由!
2025.09.03
昭和を代表する青春ドラマ「俺たちの旅」が、放送開始から50年を経てついに映画化されることが決定した。1970年代の若者たちの心をつかんだ本作は、友情や人生への迷いを等身大に描いた名作として知られている。
中村雅俊主演「俺たちの旅」は友情と迷いを描いた青春群像劇
1975年10月にスタートしたドラマ「俺たちの旅」は、中村雅俊演じるカースケ(津村浩介)、田中健演じるオメダ(中谷隆夫)、秋野太作演じるグズ六(熊沢伸六)の3人がメインキャスト。第1話からそれぞれの個性がしっかりと発揮され、軽妙なやりとりと共に、時に悩み、迷い、ぶつかり合いながらも生きる意味を模索する青春群像劇が展開された。大きな事件や派手な展開はなくとも、等身大の苦悩と成長を描いた姿が当時の若者たちの心に深く響き、瞬く間に人気ドラマへと成長。もともとは半年間の放送予定だったが、反響の大きさから1年間に延長され、さらに続編や関連作も制作されるなど、長く愛されるシリーズとなった。
中村雅俊は1973年に文学座へ入団し、翌1974年には人気刑事ドラマ「太陽にほえろ!」へゲスト出演。同年、高校のラグビー部を舞台にした青春ドラマ「われら青春!」で主演に抜てきされ、3年生のクラス担任でラグビー部顧問を務める沖田俊を演じて注目を集めた。また、挿入歌として歌った「ふれあい」が100万枚を超える大ヒットとなり、俳優としてだけでなく歌手としても脚光を浴びる存在となる。その後も「俺たちの旅」「俺たちの祭」「青春ド真中!」、さらに神田正輝と共演した「ゆうひが丘の総理大臣」など、次々と青春ドラマに出演。"中村雅俊=青春ドラマ"というイメージを決定づけた。
中でも大きな転機となったのが「俺たちの旅」だ。脚本を手がけたのは「われら青春!」をはじめ、後に「金曜日の妻たちへ」「男女7人夏物語」など数々のヒット作を生み出す鎌田敏夫。群像劇や人間ドラマの名手らしく、「俺たちの旅」でも登場人物たちの心の機微が繊細に描き出され、視聴者の共感を呼ぶ作品となった。
等身大の悩みを抱える三者三様の若者たちが描く青春模様
本作の大きな見どころは、なんといってもメインとなる3人の個性の豊かさにある。それぞれのあだ名は、その性格を的確に表していて実にユニークだ。短気な性格で、まるで瞬間湯沸かし器のようにすぐ"カーッ"となる津村浩介には「カースケ」。優柔不断で何事にもグズグズしてしまう熊沢伸六には「グズ六」。そして中谷隆夫は、逆から読むと「ダメ男」となることから「オメダ」と呼ばれている。第1話を見ただけでも、それぞれの性格や個性がくっきりと浮かび上がり、3人の掛け合いの面白さが作品全体を引き立てているのが分かる。
例えば第1話、冒頭のバスケットボールの試合シーンが印象的だ。キャプテンのカースケはチームを引っ張り、試合でも大活躍する一方で、オメダは大学リーグの最終戦にもかかわらず「俺はダメだよ」と消極的な態度。しかし、カースケがわざとケガをしたふりをしてオメダを出場させると、しっかり実力を発揮して活躍してしまう。本当はできるのに自信がなく、実力を出し切れない性格であることがよく分かる。ところが、ケガが芝居だと気づいた途端、また"ダメ男"の顔に戻ってしまうのだ。そして、オメダは母・美保(八千草薫)と妹・真弓(岡田奈々)と一緒に暮らしていて、温和で優しい性格。争いごとを避けるのもそのためだろう。「家出する」と息巻いても、100m先の喫茶店で時間をつぶして帰ってくる程度で、母親がカースケに「家出させてあげて」と頼むほどの非行動派。
一方のグズ六は、優柔不断さを象徴するように、交際相手の女性に促されて両親に会いに行っても、結婚の意思を告げられずに帰ってきてしまう。しかし、相手からは「グズグズしていると思ったら、突然思い切ったことをするんだから」と指摘される場面も。実際、会社の上司に嫌みを言われて思わず手を出し、会社を辞めてしまうという行動は、"グズ"ではなく潔さを感じさせ、どこかカースケに通じるものがある。さらに、グズ六はカースケの小学校時代の上級生で4歳差がある。水泳大会で溺れかけたグズ六を、当時小二だったカースケが助けたことがあり、再会してもカースケはそれを恩着せがましく語り、2人の掛け合いに独特の関係性がにじみ出る。
性格は全く異なる3人だが、だからこそ互いを補い合い、かけがえのないトリオとなっていく。大学を卒業した後、カースケもオメダも一度は会社に就職するものの、不条理な社会の慣習や理不尽な人間関係に直面し、嫌気が差してしまう。そこで2人は「なんとかする会社」を立ち上げ、やがてグズ六も加わって、まさしく運命共同体のような関係を築いていくのだ。さらに忘れがたいのが、ドラマのオープニングで流れる主題歌「俺たちの旅」。「夢の坂道は」というフレーズから始まる歌詞は、登場人物たちの歩む人生と重なり合い、作品全体を象徴する存在となっている。詩的でありながら、どこか等身大の響きを持つこの楽曲もまた、多くの視聴者の心に深く刻まれている。
10年ごとにスペシャルドラマを制作&50年目にして初の映画化
放送から10年後の1985年にはスペシャルドラマ「俺たちの旅~十年目の再会~」が制作され、その後も1995年には「俺たちの旅~二十年目の選択~」、2003年には「俺たちの旅~三十年目の運命~」と、節目ごとにシリーズは続けられてきた。だが、40周年を迎える直前にチーフディレクターを務めた齋藤光正監督が逝去し、40周年スペシャルドラマは実現しなかった。
そして50周年となる2025年、ついにシリーズ初の映画化という大きな動きが発表された。タイトルは「五十年目の俺たちの旅」。2026年1月に公開予定で、カースケ役の中村雅俊が主演を務めると同時に、映画監督デビューを飾る。さらに、秋野太作、田中健、岡田奈々といったおなじみのキャストも集結。映画公開に先駆け、大阪・福岡・東京・宮城で「俺たちの旅 スペシャルコンサート」が開催され、好評を受けて2026年1月には追加公演も決定した。「俺たちの旅」が時を超えて再び注目を集めている。
冒頭でも触れたように、「俺たちの旅」は大きな事件や派手な展開で魅せるドラマではない。大学生としての日常、社会に出たばかりの葛藤、30代、40代と年齢を重ねる中での人生の通過点――その時々の"旅の途中"を丁寧に描いてきたからこそ、50年目の「俺たちの旅」もまた自然に成立し得るのだ。「俺たち、どこまで行けるかな」「俺たち、就職しても友達だよな」といったカースケの言葉や、グズ六の「別れたって、また会えば"始まり"なんだよ」など、ふとした瞬間にこぼれる言葉には共感度が高く、心に深く響くものがある。確かに昭和を代表する青春ドラマではあるが、その根底に流れるテーマは、令和を生きる私たちにとっても変わらず響くはずだ。
文/田中隆信