今さら聞けない時代劇「鬼平犯科帳」入門!中村吉右衛門から松本幸四郎へ受け継がれる魂

今さら聞けない時代劇「鬼平犯科帳」入門!中村吉右衛門から松本幸四郎へ受け継がれる魂

名作ぞろいの時代劇の中でも、とりわけ高い人気を誇る「鬼平犯科帳」シリーズ。原作は、「剣客商売」や「仕掛人・藤枝梅安」でも知られる作家・池波正太郎による時代小説だ。物語は、江戸時代の火付盗賊改方(ひつけとうぞくあらためかた)の長官・長谷川平蔵が、悪党たちを取り締まる姿を描いている。火付盗賊改方とは、放火(火付け)や押し込み強盗(盗賊)、さらには賭博といった重罪を取り締まる役職。中でも長谷川平蔵は、厳しく的確な取り締まりで知られ、悪党から"鬼の平蔵(鬼平)"と恐れられた。

「鬼平犯科帳」は1968年、娯楽小説誌『オール讀物』で連載がスタート。1969年10月には早くもテレビドラマ化されており、その人気と注目度の高さがうかがえる。初めて鬼平を演じたのは、八代目・松本幸四郎(のちの初代・松本白鸚)。1975年には「Gメン'75」と並行して丹波哲郎が主演。1980年からは「子連れ狼」で知られる萬屋錦之介が主演を務めるなど、時代を代表する名優たちが鬼平を演じてきた。

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中村吉右衛門が印象づけた勧善懲悪だけではない"鬼平"の魅力

数ある「鬼平犯科帳」シリーズの中でも、最も強く"鬼平"のイメージを印象づけたのは、1989年からスタートした二代目・中村吉右衛門主演のテレビシリーズだろう。初代"鬼平"を演じた八代目・松本幸四郎は、吉右衛門の実父にあたり、まさに親子二代で"鬼平"を継承したことになる。ちなみに、1971年のテレビドラマ版では、若き吉右衛門が平蔵の息子・辰蔵役として出演していた。

40歳の時に原作者の池波から平蔵役のオファーがあったが、実父の演じた"鬼平"の印象が強かったため断ったというエピソードがある。5年後に再びオファーを受けた際、平蔵が火付盗賊改方に就任した年齢と同じ「45歳」であることを運命と感じ、平蔵役を受けることを決意。1989年から2001年まで9シリーズ、以降も多くのスペシャル版を経て、2016年12月放送の「鬼平犯科帳 THE FINAL 前編 五年目の客/後編 雲竜剣」まで、実に約27年間にわたって平蔵を演じ続けた。

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「鬼平犯科帳」シリーズ、そして"鬼平"こと長谷川平蔵が時代劇ファンに長く愛されている理由の一つは、その物語が単純な"勧善懲悪"にとどまらない点にある。平蔵は、悪を厳しく取り締まる"鬼"として恐れられる存在でありながら、罪人に対しても時に人情を見せ、改心した者を自らの配下に引き入れる懐の深さを持っている。つまり、悪をただ断罪するのではなく、その人間の過去や変化にも目を向ける姿勢がある。

さらに、平蔵自身ももともと清廉潔白な人物だったわけではない。若い頃は"本所の銕(てつ)"と呼ばれ、剣術の腕前は確かだったが、酒や女性関係にも奔放な、やんちゃというより荒くれ者だった。そんな彼がある転機で改心し、火付盗賊改方という要職に就くのだが、かつて自らが遊び、迷い、荒れた経験があるからこそ、罪人の心の奥を読み取り、善悪だけでは語れない"人の機微"に寄り添うことができる。そして、その"人間味"こそが、鬼平をただのヒーローではなく、今なお多くの人の心に残る人物像へと昇華させている。

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十代目・松本幸四郎が令和の時代に新たな"鬼平"を生み出す!

昭和・平成と続いた時代劇の名作シリーズ「鬼平犯科帳」は、令和の時代にも受け継がれている。2024年から十代目・松本幸四郎主演でTVシリーズ、劇場版と次々に新たな作品が制作されている。令和版「鬼平」の幕開けを飾ったのが「鬼平犯科帳 本所・桜屋敷」だ。物語は、平蔵が若き日に道場で共に汗を流した旧友・岸井左馬之助と再会するところから始まる。かつて二人が憧れた女性・おふさの消息を追ううちに、恩師につながる因縁と悪事が明らかになっていく。

話題の映画『侍タイムスリッパー』で主演を務めた山口馬木也が出演。そして、若き日の平蔵を幸四郎の長男、八代目・市川染五郎が演じ、父子二代での共演も話題となった。過去と現在の平蔵を描く構成は、これまでのシリーズを知らない視聴者にとっても"鬼平入門編"として楽しめる内容となっている。この作品は、2025年に開催されたドイツ・ワールドメディアフェスティバルで、エンターテインメント部門の金賞を受賞。新時代の"鬼平"が、国内外で高い評価を得られる作品であることを示した。

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そして、7月5日(土)に独占初放送となるシリーズ最新第6弾「鬼平犯科帳 暗剣白梅香」では、凶賊・蛇(くちなわ)の平十郎が平蔵の暗殺を企てる。物語の重要な役どころとして、異様な殺気と妖艶な香気をまとう謎の刺客・金子半四郎が登場。演じる早乙女太一が、卓越した剣術を披露しながら、その存在感で物語に緊張感と華を添えている。

"鬼平"は、ただ悪を裁く冷徹なヒーローではない。過去に迷い、痛みを知り、人の弱さにも寄り添う、血の通ったひとりの男だ。その魅力は、時代劇という枠を超え、今を生きる人々の心にも深く訴えかけてくる。そんな"鬼平"を、実力派の名優たちが各時代で演じてきたことも、"鬼平"が長く愛されてきた理由の一つだ。昭和から平成、そして令和へ受け継がれてきた「鬼平犯科帳」は、これからも新たな世代へと受け継がれていくだろう。

文/田中隆信

放送日時:2025年7月 1日 12:45~

チャンネル:時代劇専門chHD

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