個性派俳優・寺島進の魅力が炸裂するドラマ「駐在刑事スペシャル(2017)」

個性派俳優・寺島進の魅力が炸裂するドラマ「駐在刑事スペシャル(2017)」

俳優・寺島進の代表作のひとつである「駐在刑事」シリーズは、2014年にテレビ東京・BSジャパン共同制作でスタート。人気作家の笹本稜平(りょうへい)による原作小説をモチーフとするが、原作は2巻までしかないため、エピソードとキャラクターはドラマオリジナルのものが多い。寺島演じる主人公・江波敦史は、警視庁捜査一課の敏腕刑事だったが、取り調べ中に容疑者に自殺された責任を問われて左遷。東京郊外の奥多摩警察署水根駐在所に赴任する。江波は複雑な思いを内に秘めながらも犬の救助をしたり、行方不明の老人を探し出したりと住民に頼りにされ、地元にすっかり溶け込んでいる。正義感と人情味にあふれるまさに寺島のキャラクターにぴったりな役柄で、じつに魅力的だ。

2014年に第1作「駐在刑事 奥多摩渓谷・殺意の夜想曲」が放送されて以降、2時間ドラマとして5作が放送され、2018年からは人気を受けて1時間枠の連続ドラマとなった。2020年にはシーズン2、その後2時間ドラマ2本を経て、2022年にはシーズン3が放送されている。

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寺島演じる江波の人間的な魅力に加えて、所轄の奥多摩署や彼の古巣である本庁捜査一課の刑事たちとの絡み、さらに奥多摩水根図書館の司書兼山岳ガイド・内田遼子(笛木優子)、老舗旅館の女将・池原美也子(市毛良枝)とその息子で山岳ガイドをする孝夫(鈴之助)ら地元住民との温かい交流も描かれてドラマに彩を加えている。奥多摩の美しい風景の中で、毎回事件が起こるが、刑事たちに疎まれながらも捜査に加わって事件解決に尽力する江波の正義と熱意がドラマの核となり、骨太のストーリーと犯人当てを含めたドラマ性で見ごたえは十分だ。

例えば2017年に放送された「駐在刑事スペシャル(2017)」は、ある日、孝夫から登山道具盗難の報告を受けた江波が、盗んだ少年・三田浩樹(小林喜日)から事情を聞く。盗んだ動機は、大人でも過酷な槍ヶ岳の登山ルートを登りたかったからだという。浩樹の父親は有名な登山家・三田和浩(東根作寿英)だったが、槍ヶ岳で遭難死していた。一方、駐在所では、老舗旅館の女将・池原美也子と、アウトドア用品メーカー・サンレイ副社長・羽川雄一(飯田基祐)が、江波の帰りを待っていた。宿泊客の権藤則夫(大浦龍宇一)が森から帰ってこないという。森へ捜索に向かった3人は、権藤の死体を発見する...。

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その後は、三田と共に槍ヶ岳に登山し、遭難死したサンレイ前副社長・山村(冨家規政)の死の謎や、山村の妻で社長秘書の由里(国生さゆり)、病床にある由里の父でサンレイ社長の槙野(品川徹)ら多彩な人物が絡み、重層的なストーリー展開を見せる。江波は父がパートナーを置き去りにしたと非難された無念を晴らしたいと願う浩樹少年に寄り添い、事件解決にも関係する三田の遭難死の真相に迫っていく。

捜査一課の警視・加倉井(北村有起哉)は駐在の立場で捜査に介入する江波を疎んじながらも、彼の能力や熱意を認めていると思わせる。そんな複雑な心情を表情だけで表現する北村の巧みな演技力は見事だ。捜査一課の刑事・金沢(梨本謙次郎)、若手刑事の南村(中尾明慶)、所轄署の石川(つまみ枝豆)といったレギュラー陣も出番こそ多くないが、それぞれキャラが立っていて存在感がある。さらに、捜査陣で本作の核となるのが捜査二課の理事官・緒方綾乃(黒木瞳)である。強引な捜査で江波と対立するが、冷徹さを漂わせながらも奥深さを感じさせるキャラで、エリート然とした黒木の演技が光っている。

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派手さこそないものの、従来の刑事ドラマとは一線を画した設定と、寺島をはじめキャストの好演で長く愛された「駐在刑事」シリーズ。中でも本作「駐在刑事スペシャル(2017)」は、この後の連続ドラマ化に繋がった記念すべき一作だ。黒木瞳演じる緒方は、シーズン1で奥多摩署の署長に赴任する形でレギュラー入り。さらに劇中で大きな存在になっていく。寺島進のファンはもちろん、舞台や設定など個性的な趣を持った刑事ドラマとして、目の肥えたドラマファンにも堪能できる作品と言えそうだ。

文/渡辺敏樹

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