蒔田彩珠が再共演した江口洋介のギャップに仰天「すごい俳優さんだ...」
国内ドラマ インタビュー
2024.12.03
12月8日(日)より「連続ドラマW 誰かがこの町で」がWOWOWプライム、WOWOW 4Kにて放送される。(WOWOWオンデマンドでも配信)
同作品は、2020年に小説「わたしが消える」で江戸川乱歩賞を受賞した佐野広実の同名小説をドラマ化したもので、とある新興住宅地を舞台に、住民たちの間に渦巻く集団による同調圧力と忖度が引き起こす恐怖を、生々しく鮮烈に描いた社会派サスペンス。江口洋介が約4年ぶりに連続ドラマの主演を務め、元政治家秘書で、裏金作りに加担させられ苦悩していた最中に娘が自殺したことで大きな心の傷を負い、後悔を抱えている法律事務所の調査員・真崎雄一を演じる。また、真崎のバディとして、ある町に隠された恐ろしい真実に迫っていく望月麻希を蒔田彩珠が熱演。2人の共演は、ドラマ「忍びの家 House of Ninjas」(2024年2月配信、Netflix)で忍者の親子を演じて以来となる。
赤ん坊の頃に両親と離れ児童養護施設で育った麻希(蒔田)は、ある日、一枚のメモを頼りに、真崎(江口)が勤める法律事務所を訪れ、「家族を探してほしい」と依頼を持ち掛ける。所長の岩田喜久子(鶴田真由)から調査を頼まれた真崎は、麻希と共に、かつて麻希が家族と暮らしていたという町を訪問。だが、その町で過去に起こった男子児童誘拐殺人事件を知ることになる、というストーリー。
今回、江口と蒔田にインタビューを行い、ドラマ「忍びの家―」以来となる共演についてや、台本を読んだ時の感想、演じる上で意識したこと、同作のテーマである"同調圧力"などについて語ってもらった。
――再共演の感想は?
江口「今回は、話が進んでいくうちに疑似的な家族になっていくというストーリーなのですが、台本を読んで(麻希を)彼女がやるって聞いた時に、『忍びの家―』をやっていた時の目を思い出して、『蒔田さんだったら大丈夫だな』と思って撮影が楽しみになりました。本人はそんなつもりはないんだろうけど、ちょっと影があるような目つきをすることがあるので。撮影では、物語が進むにつれて共に再生していくところを、彼女はすごいプレッシャーもあったと思いますがしっかり演じていて、こちらも共に再生できたので、一緒の時間を共有できたなと思います」
蒔田「『忍びの家―』の時は、アクションがあったり、親子という関係性もあって、私の中では『すごく明るい江口さん』という印象だったのですが、今回は内容が内容だったので、すごく真っ直ぐに役に没頭されていて、前回とのギャップをすごく感じて『すごい俳優さんだ...』って思いました」
江口「もっと言って!(笑)」
蒔田「こんなに早くまた共演できるとは思っていなかったので、撮影が始まるのがすごく楽しみでした」
――同調圧力の恐ろしさを描いた同作。台本を読んだ時の感想は?
江口「同調圧力が事件の引き金になることは、最近の映像作品でも増えてきていますし、これからも増えていくと思っていました。そんな中でいただいたお話だったので、興味を持ってオファーを引き受けたのですが、地上波ではなかなか体験しないストーリーだなと思って、『どんなふうに映像化するのか』と。あと、本当に"説明ゼリフ"が多くて...。日本家屋で正座しながらずっと説明しないといけないので、『これは大変だぞ』と(笑)」
蒔田「このお話は一つの町で起こっていることで、『きっとどこかで同じようなことが起こってるんじゃないか』という内容だったので、ストーリー的には想像しやすかったです。その一方で、麻希は"全く身内がいなくて、だからこそ自分の家族について調べたい"という役で、今まで経験したことのない役設定だったので、(麻希の人となりを)想像しながら麻希の人物像にフォーカスして役作りをしていきました」
江口「そうだよね。人間形成って、やっぱり親だったり過去から出来ていくもので、役もそうだから、その取っ掛かりが一切ないっていうのは...。俺はやったことないけど、どういうふうにイメージしていったの?」
蒔田「衣装合わせが大きかったです。衣装やメイクにすごくこだわっていて、服装や見た目から、監督と『麻希がどういう女性か』というのを作っていったので」
――演じる上で意識したところは?
江口「真崎は娘を失った心の傷と後悔を抱いていて、それが原因で妻も離れていった孤独な男だったので、『この男だったら他人と接触しないように、他人とのいざこざはこれ以上起こさないように、うつむいて生きているんだろうな』と思い、そういうベースを作ってから、あとはどのタイミングで覚醒していくのかという大きな流れを考えながら演じていました。最初のベースに関しては、僕は(世間のイメージから)エネルギッシュに見えてしまう方なので(笑)、なるべく何もしないように、歩き方一つから意識して作り上げていきました」
蒔田「麻希は"周りの人に心を開いて頼る"ということを今まであまりしてこなかった人だからこそ、『どういうことがきっかけで変化していくんだろう』ということを意識して考えながら演じました」
――内容的にかなり重い話でもあると思いますが、撮影現場の様子はいかがでしたか?
江口「確かにすごく重い内容ですよね。でも、現場はすごく和気あいあいと冗談とかも言ったりしながらやっていましたね。もちろん、皆さん『(役の)気持ちを切らさない』というのはベースにあるのですが、シリアスに追い詰めてやるというよりか、毎日楽しんでやっていました」
蒔田「撮影前は『サスペンスだし、江口さんも今回はお父さん役ではないし...』という不安があったのですが、最初のシーンがすごく長く、且つ大事なシーンでもあり、キャスト、スタッフ全員が『この大変なシーンをどう乗り切っていい作品にするか』と一つになって撮影が進んでいったので、それ以降もすごく居心地のいい現場でした。そんな中で、江口さんは大変な役でありながらも、常に他の俳優みなさんに『このシーンをどうするか』という意見を聞いて、周りの人がどうしたいかというのをちゃんと気にかけてくださって!私が『こうしたい』と言うと、ちゃんと表現させてくださって、受け止めてくださいました」
江口「いやいや。僕は仕切って『こうしよう』って言えるタイプじゃないし、監督もそうだけど、『みんなでその場をどう作るか』っていうのも仕事だったりするので。"みんなが乗って芝居が乗る"というのは本当にあるので、そういうことは自分も含めていつも考えていますね。特に、調査の拠点となる源泉館でのシーンは、全体の内容が厳しい話なだけに、『このシーンがどれだけ疑似家族になれるか』がポイントになると思ったので、その場にあった焚き火を使って、『暖かくしよう』って薪を持って行ったり、イモを焼いてみたりしていましたね。ただ、暑くなり過ぎちゃって、みんな顔が火照って、『空気を入れ替えましょう』ってなってしまったけど...(笑)」
――2人のシーンの中で、印象に残っているシーンは?
江口「真崎が麻希に対して『(調査結果に)あまり期待しない方がいい。期待外れの結果が出た時、それを受け入れたくなくなる』と言うシーンがあって、その時に彼女は『そんなの、覚悟してる』と怒るんです。それって、信頼しているから怒るんですよね。このシーンが決まれば(真崎と麻希の関係性の変化が伝わるだろうから)いいかなって思っていて、『そこだけはしっかりと表現できるように積み上げていこう』という感じでやっていたので、すごく印象に残っていますね」
蒔田「終盤のシーンなのですが、台本に『泣き崩れる麻希』って書いてある部分があって、監督と話したら『必ず泣き崩れないといけないというわけでもないから、とりあえずやってみて』という感じだったんです。リハーサル、カメラテストをして、本番を迎えたのですが、江口さんが本番の時だけそっと寄り添ってくれたんです。ちょっと肩が触れるくらいだったのですが、その瞬間にウッときて...。最近の撮影で、一番ビビッときたシーンでした」
江口「あのシーンは本当に(麻希の心情的に)大変なシーンで、僕としても(麻希を慮って)抱きしめてもいいし、手を握ってもいいし、見せないようにしてもいいという中で、『疑似家族の親のような存在でありながらも、親ではない』というところで出たものなのですが、そういう深層心理から出る細かい表現をしっかりとキャッチしてくれたのはうれしいですね。それこそが"芝居"だと思うし、この仕事の面白さでもあると思うから」
――テーマである同調圧力についてどう考えてらっしゃいますか?
江口「うーん...。同調と、さっき話した『"芝居が乗る"ようにみんなで力を合わせる』というのは紙一重でもあるから...。一方で、この話のように大きな事件につながってしまうこともあるだろうし。人と人のつながりが希薄になっている部分もある中で、僕はつながりが濃くなった方がいいじゃんと思っていたりするので、いいことは同調すればいいけど、そうでないことは屈しない方がいいから、大人としての目線が必要なんだなって、こういう作品に触れるとつくづく考えさせられますね」
蒔田「他人のためとか、自分の大切な人のために(同調圧力に)屈しないというのは大切だなと思うし、そういう大人でありたいなと思います」
文/原田健 撮影/中川容邦
ヘアメイク/中嶋竜司(HAPP'S.)、山口恵理子
スタイリング/伊藤省吾 (sitor)、小蔵昌子