和田聰宏が語る「鬼平犯科帳」に対する思い 「自分の大切な人に心から報いたいという気持ちは現代人にも通じる」
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2024.08.14
今年華々しくスタートした、松本幸四郎が"鬼平"こと火付盗賊改方長官・長谷川平蔵を演じる、ファン待望の「鬼平犯科帳」SEASON1。7月は最新作「鬼平犯科帳 血頭の丹兵衛」が時代劇専門チャンネルで独占初放送される。そこで本作の鍵を握る人物である盗賊・小房の粂八を演じる俳優の和田聰宏さんにインタビューを敢行。本作の見どころを大いに語ってもらった。
――「鬼平犯科帳」と言えば、時代劇の不朽の名作です。そもそもこの作品に対してどんなイメージを持っていましたか。
「『鬼平犯科帳』と言えば、もう物心ついた頃から知っていましたし、映画『男はつらいよ』みたいに日本人なら誰でも知る作品というイメージでしたね。しっかり見るようになったのは俳優になってからですが、やはり心情の描き方などが丁寧に作られた素晴らしいドラマだと実感できました。若い方を含めて見てほしいなと思っていて、今回新シリーズが始まり、自分も参加できることになって、本当に夢のようだと思いました。小房の粂八役ということで、やはり前作(中村吉右衛門主演作品)の蟹江敬三さんと比較されるのは覚悟していましたが、自分なりの粂八をしっかり演じて、鬼平ファンにも認めてもらうしかない。そこは勝負だなと。蟹江さんを真似ることなどできませんからね。あくまで僕なりの粂八を精一杯作りあげることを心がけています。粂八というキャラクターは、とにかく実直で、盗賊としての矜持を持って生きている人物だと思います。盗賊ではありますが、真面目な性格なのでそこはずっと意識して演じました。僕自身も結構真面目なんですよ(笑)」
――最初に「血頭の丹兵衛」の台本を読まれた時には、どのように感じましたか。
「最初に読んだときから、すんなり入っていけましたね。普通は演じるうえで色々と考えることが多いんですけど、台本を読んで粂八の心情が自分の中にすっと入ってきましたから。だから今回は、あまり考えすぎないよう、感じたまま素直に演じたほうが良いのかなと思いました。作らなくても粂八になれそうな気がしましたね。ただ、そのためにはしっかり台本を読み込まないと、自分の中でかみ砕けない。だから相当読み込みましたよ。そのうえで、いったん全部忘れてやろうという気持ちで演じていました。『血頭の丹兵衛』での粂八は本当にやりがいのある役ですが、過去に別の方がやられている役を演じるのでやはり重圧があります。長年蟹江さんが演じた粂八のファンも多いと思いますし、なるべくそこは考えないようにしていますが、今こうして話していると改めて恐ろしくなってきます(笑)。でも、今作は人物像なども掘り下げられているので、視聴者の方も粂八に感情移入しやすいかなと思っています」
――粂八は平蔵や同心たちに拷問される場面など、痛めつけられるシーンもあります。撮影中の苦労などはありましたか。
「拷問されるシーンもあるし、後半では平蔵役の松本幸四郎さんに叱咤される場面もあって。拷問されるのは本当に痛いんですよ(笑)。やはり本番になると皆さん力が入るんですよね。ただ、俳優としてはとてもやりがいのある場面なので、演じていて楽しかったですね。痛かったとはいえ...(笑)。あのような場面では、僕は自分の世界に入り込んで気持ちを作りたいタイプなのですが、共演者の方々がそれを汲んでくれて、僕をひとりにしてくれた感じでした。おかげで気持ちを作りやすかったし、ありがたかったです」
――特に思い入れのある場面などあれば、教えてください。
「物語の中で、自分の矜持を貫こうとする粂八が、死を覚悟してある決意を平蔵に告げます。『恩義のある血頭のお頭と長谷川様に報いたいと思うだけです』というセリフがあるんですが、粂八は自分のプライドを賭けて、死も覚悟している。恩を返すことと引き換えに命を失ってもいいと思っている。僕はこのセリフにグッときて...。現代人にも通じることだと思うんです。自分の大切な人に心から報いたいという気持ちは。それが生きる原動力にもなるはずですから。ほかにも粂八のセリフは僕自身が共感できるものが多くて、素直に発することができたんです。粂八って本当にいいヤツなんですよ、盗賊ですけど(笑)。自分で見返していると、冷静に見られないんです。涙がボロボロ出てきてしまって、それほどすべてを出し尽くして粂八を演じきりました」
――松本幸四郎さんとの場面はもちろん核となりますが、今回は血頭の丹兵衛役の古田新太さんとのシーンも多かったと思います。古田さんの印象はいかがでしたか?
「古田新太さんは、自分に役を持ってくることができるタイプの俳優さんだと思うんです。どんな役でもナチュラルに役が自分の中に入っているという印象です。あくまで僕の印象ですけど、キャラクターを作るのではなく、全部を自然体で演じているので、怖さも優しさも悲しさもストレートに表現できているのかなと。共演して感じるのは、声の色気ですね。とても耳に残る声なんですよ。蟹江さんも特徴のある声が魅力でしたけど、俳優にとってやはり"声"は強い武器になると実感しました。今回の丹兵衛役だと、前半は弾むような声で、後半は、やや粘っこい声の出し方だったように思いました。僕の耳への残り方が違っていましたからね。でも古田さん自身はあまり意識されていなくて自然に出しているのでしょうけど。尊敬できる俳優さんですね。
もちろん、幸四郎さんとのシーンはすべてが印象深いです。平蔵が盗賊である粂八に何かを感じて様子を伺う。その時に僕の目の奥を見据えるような芝居をされるんですね。こっちは心の奥底までえぐり取られるような感覚になる。そんな関係が続いて、最後には粂八のすべてを悟ったうえで、『俺の下で働け』と。こんな人間がいるのかというほど、温かさを感じさせてくれる。そういう芝居をずっと幸四郎さんがされていて、実はあの場面が最初の撮影だったんです。最初に平蔵の温かい人柄を知ったうえで撮影が進んで、その後随分痛めつけられましたけど(笑)。でも平蔵の優しさを最初に感じられたことは良かったです。幸四郎さんが表現する平蔵の厳しさや人間の深みも受け入れることができ、本当にすべてが印象的で、得るものが多かったです。普段はふざけていても、いざスイッチが入ると、一瞬で鬼平になってしまうのもすごいなと思います」
――時代劇をテレビで見る機会が貴重なものになっていますが、和田さんの考える時代劇の魅力について教えてください。そのうえで、「鬼平犯科帳」への意気込みも改めてお願いします。
「やはり現代劇に比べて、情緒があるところが時代劇の魅力だと思っています。感情が複雑に絡み合った、心の葛藤などがより繊細に描かれているのが時代劇なのかなと。ただ言葉で説明してもうまく伝わらない気がするので、まずは『鬼平犯科帳』を見てもらいたいですね。数ある時代劇のコンテンツの中でも、『鬼平犯科帳』は老若男女、幅広い世代にとって、わかりやすい作品だと思います。人間像を丁寧に掘り下げて描き、メッセージ性もしっかりある。現代劇では味わえない魅力が詰まっていると思うので、ぜひ見ていただきたいです。現場の空気も幸四郎さんを中心にすごく良いんですよ。詳しくは特番の『鬼平犯科帳アフタートーク「血頭の丹兵衛」編』を見ていただければわかると思いますけど、僕も皆さんに結構いじられています(笑)。時代劇をもっと盛り上げる意味でも、僕らも頑張らなくちゃいけない。時代劇は日本が世界に誇れるコンテンツなのは間違いない。世界中の方たちにアピールしたいです。これからも小房の粂八役をしっかり務めたいと思いますので、『鬼平犯科帳』をどうかよろしくお願いします!」
文/渡辺敏樹 撮影/皆藤健治