声優・梶裕貴インタビュー#1「『戦え』に込められた思い。いまだから言える『進撃の巨人』のあの名場面、名セリフを振り返る」

声優・梶裕貴インタビュー#1「『戦え』に込められた思い。いまだから言える『進撃の巨人』のあの名場面、名セリフを振り返る」

「進撃の巨人」のエレン・イェーガーをはじめ、「七つの大罪」のメリオダス、「僕のヒーローアカデミア」の轟焦凍、「鬼滅の刃」の錆兎など、数々のヒット作で主役や人気キャラを演じる梶裕貴さん。その透明感ある声と繊細さながらも力強い演技は、キャラの魅力を深く引き出し、その存在に命を吹き込みます。その圧倒的なパフォーマンス力をもつ梶さんが大事にしているのが、挑戦心を持ち続けること。未来を見据え、つねに新しいことに挑戦し続ける自身のことを「つねにファイティングポーズを取っている」と語ります。このインタビューでは全3回にわたり、梶裕貴さんの出演作品に対する思いや、声優としての歩みをひもときながら、その人となりに迫ります。

■自分にしか挑戦できないことを求めていたい

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――今日は、インタビューよろしくお願いいたします。

「よろしくお願いします」

――お忙しくされていると思うんですが、休日はどんなリフレッシュをされているんですか?

「リフレッシュという意味では、整体に行って体のメンテナンスをするくらいで、翌日以降の仕事の準備をしていると、それだけで『一日が終わっちゃった!』という感じです。子育てもありますからね。もちろん、子供と触れ合う時間も癒しではあるんですが......もうすぐ2歳になる娘は、かわいさが増す一方、少しずつ『イヤイヤ期』が始まろうというころ。愛しさと大変さが常に同居している感じです(笑)」

――めっちゃわかります。イヤイヤ期が始まる2歳のころって、「魔の2歳児」とか呼ばれたりしますしね(笑)。プライベートで仲良くされている声優さんはいらっしゃるんですか?

「そんな調子なので、なかなか声優同士で出かけたりも最近は少ないですかね。夜に外出すると家が大変なので。まあ元々、そんなに遊びに行くタイプでもないですし、たまにある、作品の打ち上げぐらいでしょうか。でも先日、原作完結のタイミングで『僕のヒーローアカデミア』の堀越耕平先生と、声優の山下大輝くん、岡本信彦くんと4人でご飯に行きました!そうしたら、サプライズで誕生日もお祝いしてくれて。すごく嬉しかったですね。久しぶりの外食、楽しみました!昔でいえば、それこそ岡本くんは歳も近いし、現場で一緒になることも多かったので、お互い時間が合えばご飯に行ってましたね。ふたりとも散歩が好きなので、アフレコが終わったあとに1~2時間かけて歩いて帰ったりもしていました(笑)。あとは、先輩の下野紘さん。新人時代、ラジオ番組のパーソナリティを一緒にやっていたので、そのころはもう毎週のように飲みに行ってましたね。いまじゃ、なかなか時間が合わなくて、プライベートで遊んだりは難しいですけど、岡本くんや下野さん、あと宮野真守さんとは、現場で会えば、当時からの関係値がずっと続いているなぁと感じますね」

――ありがとうございます。先日、9月3日に39歳の誕生日を迎えられました梶さんですが、当日、Xでの投稿には「飢え続けている」という言葉もありました。その言葉の真意をお聞きしてもいいですか?

「ありがとうございます。そうですね......貪欲に面白いこと、新しいこと、自分にしかチャレンジできないことを求めていたいな、という気持ちを『飢え続けている』という言葉に込めたつもりです。自分って、つねにファイティングポーズを取っている人間だと思うんですよ。声優業に対してはもちろんそうだし、自分がプロデュースする音声AIプロジェクト【梵フラクタル】もそのひとつだと思っています。

いま自分は、これからの10年間を考えるステップにいると思うんです。20年間声優をやってきたいまだからこそ、ようやく見えてきた"自分にしかやれないこと"があると思うので、それを貪欲に楽しんでいきたいなという気持ちですね」

――「これからの10年間を考えるステップ」、具体的にはどんなことを考えているんでしょうか。

「最強すぎる大先輩方が現役バリバリで大活躍されている業界なので、まだまだ自分はひよっこだと思っています。だけど同時に、年齢的なことを考えても、そろそろ自分自身の集大成に向けて準備をしていかなければ、それを完遂することはできないのかなって。キャリアとしてまだまだ青い部分があることは自覚しつつも、同時に、もう焦りはじめなきゃいけないタイミングなんだと自分に言い聞かせています。とはいえ、ありがたいことに、ここまでの人生を悔いなく戦ってこられたという自負もあるので、40代を迎えるにあたっての、変な焦りやネガティブな気持ちはまったくありません。そういった意味では、いい歳の重ね方ができていたんじゃないかなと思っています」

■第1話から気合全開。「進撃の巨人」との出会い

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――今回のインタビューでは、11月に映画も公開される「進撃の巨人」について、深くお聞きしたいと思っています!まずは梶さんと同作品との出会いからお聞きできますか?

「最初の出会いは、本屋さんでしたね。第1巻が発売したてのころで、マンガコーナーに平積みされている表紙を目にしたのがきっかけで。もうインパクトが凄まじかったです。で、すごく気になって手に取ってみたら、みるみるその面白さに惹き込まれていって。その後、アニメ化のタイミングでオーディションのお話をいただきました。当時の僕は、どちらかと言うと、やわらかい雰囲気の少年を演じることが多かったので、『チャンスがあるとすればアルミンかな』なんて思っていたんですが...ご指名いただいたのは、まさかのエレン役で。最終オーディションは、エレン、ミカサ、アルミンの3役を、いろいろな声優が組み合わせ違いで演じていく掛け合い芝居での審査。僕は3回ほどエレンを演じさせていただきました。そして、その組み合わせのひとつに、実際のキャスティングとなる、ミカサ・石川由依さん、アルミン・井上麻里奈ちゃんという3人組もあって。あ...これは裏話なんですが、最初の『進撃の巨人』のPVには、そのオーディションのときの音源が使われているんですよ。業界的にも、かなり珍しいパターンだと思います(笑)」

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――そうなんですか?!めっちゃ面白い!

「すごいですよね!?(笑)。それから僕個人としては、荒木哲郎監督とは、前作『ギルティクラウン』で既にご一緒していましたし、音響監督の三間さんも、僕にとっては恩師のような存在なので、すごく安心感のある座組だなと感じていました。原作も最高に面白いし、このチームなら、アニメーション作品としても絶対いいものになるだろうというイメージは浮かんでいたので、純粋に声優として参加したいと思いましたね。なので、結果的にエレン役として選んでいただけたのは、とてもとても嬉しかったです」

――「進撃の巨人」ならではの現場の雰囲気というのは、座長としてどんなふうに捉えていましたか?

「人間の生き死にを描いている、凄惨で残酷な作品なので...Season 1のときは緊張感がすごかったですね。あまり和気あいあいと話すような雰囲気ではありませんでした。収録が進むにつれ、少しずつみんな切り替えができるようになっていき、中盤からは普通に談笑もするようになりましたけど...Season 1のころは、本当にお葬式みたいな空気感でしたね。出演キャストも、幅広い年齢・キャリアの役者さんが集まっていたので、主演として、まずなによりも、全身全霊で作品に向き合っているんだという"魂"を皆さんに伝えないことには現場の士気も上がらないだろうと思い、とにかく熱く、がむしゃらに役と向き合っていました」

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――第1話から現場の熱量がすごかったんですね。

「個人的には、第1話のラスト、目の前で母親を巨人に食い殺されてしまうシーンは"勝負"でした。それで全てが決まってくるだろうなと。演じ手のエネルギーや資質を問われる感覚。いまでも、その瞬間のマイク前での光景は鮮明に覚えています。収録直後、プロデューサーさんが『梶のあの叫びを聴いて、"この作品いけるな"って確信したよ』と言ってくださって。それがすごく嬉しかったですし、間違いなく、その後、エレンを演じていく上での自信にもなりました」

――振り返ってみて、アフレコのときの思い出話とかはありますか?

「Season 3 第55話『白夜』というエピソードで『全身ボロボロで歯は抜け落ち、口内も腫れあがってしまっている』という状態のエレンを演じなければいけない瞬間があって。たとえば『川で溺れている』とか『ものを食べている』みたいなセリフがあったとして、実際にその行為をせずとも"そう聴こえる芝居"ができるのが声優であり、それこそが、世界に誇るべき声優の技術のひとつだと思うのですが...この現場に関しては、少し違って。『そんなプライドとかテクニックなんてどうでもいいから、何よりも作品がより良く仕上がる方法をみんなで探そう』というマインドだったんですよね。これは三間音響監督を筆頭に、荒木監督の作品づくりの姿勢としても共通していることで。そんな現場で育ってきた僕としては、『テクニックを披露するよりも、極力リアリティある音でお届けしたい』という思いが、台本をいただいた時から芽生えておりまして。なので、『もし許されるならば、持参したパンを口に詰めて喋ってみてもいいですか?』とご提案してみたんです。(...実際に怪我をするわけにはいきませんからね(笑)。)きっと、口の中が腫れ上がっていたら、異物が入っているときのような喋りにくさがあるんだろなと。結果、テストを経た上で、ありがたいことにそのアイデアを採用してくださって、実際に、パンを口に詰めた状態でお芝居させていただきました。とにもかくにも『進撃の巨人』は、このように、時間をかけて丁寧に作り上げてきた作品なんです。なので、ぜひこの裏話を聴いた上でもう一度見返していただけますと、スタッフ一同とても喜びます(笑)」

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――そういう即興アイデアで演技プランが決まることもあるんですね...!ちなみに共演者との思い出でいうといかがですか?

「物語が進むにつれ、エレンたち第104期訓練兵団にも仲間意識が芽生え、次第にチームになっていく様子が描かれていたように、キャスト同士の信頼関係も、それと近い部分があったように思いますね。原作ベースのTVシリーズに加え、『進撃!巨人中学校』というパロディアニメの収録もあったりして、みんな少しずつ作品と現実の切り替えができるようになっていった気がします(笑)。収録後、そのままスタジオに残って人狼ゲームをしたり、かなり仲良くなりましたね」

――調査兵団のメンバーがまとまっていくのと同じような速度感で、キャストの方々も打ち解けていった......作品と連動しているのがおもしろいですね。

「そうですね。とはいえ、特にプライベートでの交流が多かったわけでもないことを考えると、いかに毎回のアフレコのなかで、その芝居で、お互いに分かち合える熱量があったのかを表しているような気がします」

――ちなみに梶さんは、人狼は得意なんですか?

「僕は、けっこうわかりやすいタイプですね(笑)。村人のときは、正義を盾に、喜び勇んで悪を断罪してしまうし、人狼のときに疑われると、過剰に否定したくなってしまうので...すぐに見破られてました(笑)」

■世界中に刺さった「戦え」のセリフ

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――エレンは泣くのも怒るのもいつも本気で、感情が高ぶるタイプのキャラクターだと思いますが、梶さんにとって思い入れの強いセリフはありますか?

「作中に何度も登場する『戦え』というセリフは、序盤でも終盤でも印象的ですよね。序盤は壁に開いた穴を大岩で塞ぐとき、みんなにとってのヒーローになるべく、自分を鼓舞するために叫ぶ。終盤は極限状態のなかで、自分を殺してでも大事な人たちを救うという切なる思いを胸に、鏡を前に一人呟く。そうしなければ前に進めないと、自分をごまかしながら言い聞かせるように。『進撃の巨人』という作品自体が"見方を変えれば正義も悪も入れ替わる"というドラマではありますが、同じ『戦え』という言葉で、こうも見え方、聞こえ方が違うのかというのは、諫山先生の描く構成のおもしろさですよね。海外のイベントに行っても『戦え』のセリフを聴きたいとか、サインに添えて書いてほしいということをよく言われます。僕個人だけじゃなく、そして日本だけでもなく、世界中の人たちに刺さる名セリフなんだなと肌で身をもって感じていますね」

――確かに、印象的なセリフですよね。私自身も、「戦え」ってすごくメッセージ性の強いセリフだなと感じていました。観てる人にも「お前は戦っているのか?」みたいに、投げかけてくる。

「僕もそうでした。先ほどもお話しましたが、僕は常にファイティングポーズをとり続けていたい人間なので、まさに『お前は戦っているのか?』と問われているようだなと、当時から感じていました。すごくエレンらしいセリフですよね」

――印象深いシーンでいうと、どんな場面が思い浮かびますか?

「今お話したシーンもそうですけど、それ以外に挙げるとすると、Season 2の最後、ハンネスさんが目の前で巨人に食べられてしまうエピソード。これ以上なく自分の力が必要な場面で、でもなぜか巨人になれなくて...自分の不甲斐なさにより大切な人を失ってしまう。そんな自分を嘲りながら慟哭する、そんなシーンです。原作を読んだ時から非常に印象的でしたし、ずっと『どう演じよう』と思っていた場面でもあります。状況として、エレンが感情的に大爆発している瞬間でしたし、ミカサとのやりとりも、ドラマ全体に関わってくるような重要な描写で。加えて、エレンの中に大いなる力が秘められていることがわかる、物語に"くさび"を打つような大事なエピソードだったので...いろいろな意味で記憶に残っていますね」

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――実際、どんなふうにその場面のアフレコにのぞんだんですか?

「いざ、そのシーンを収録しようというときに、荒木監督に『ここは梶さんにお任せします。梶さんのお芝居に合わせて絵をつくるつもりなので、細かな尺などは気にせず、思いきり自由にやってください』とおっしゃっていただいて。そうやって信頼してくださっているのも嬉しかったですし、その期待に応えるために、さらに『やってやるぞ』という気持ちが昂まって収録できましたね」

――お芝居に合わせて絵をつくることもあるんですか...?!

「そうですね、ほかの作品でもたまにあったりします。いや、だって絶対に大変なわけです。一応は決まっているはずの尺の中で、アニメーターの皆様が心血を注いで描いてくださっているベースがあるわけですから。それを変更するというのは、並大抵の覚悟ではやれないですよね。でも、その上で『お芝居に合わせて絵をつくります』『いまのお芝居が良かったので絵の方を変えます』と言ってくださっている。責任を感じます。ただ、やっぱり声優としては嬉しいですよね。『一緒に作らせてもらってるんだな』『自分がやる意味があったんだな』という気がして。先ほどの話にも繋がってきますが、あらためて『進撃の巨人』は、時間や労力を度外視した、作品への並々ならぬ愛と熱量がある現場だったんだなと感じます。この場を借りて、アニメーターの皆様にお礼を伝えさせてください。素晴らしい作画を本当にありがとうございました!」

■「進撃の巨人」10年を振り返って

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――TVアニメ化してから10年以上続く大作となりましたが、改めて振り返ってみての思いを教えてください。

「そうですね。まず、こうして物語の最後の最後まで演じさせていただけたこと自体が、本当にありがたいです。それは『進撃の巨人』や『七つの大罪』もそうですし、おそらく『僕のヒーローアカデミア』もそうなることでしょう。声優人生20年目にして、10年目前後に始まった作品たちが、10年の時を経て幕を閉じる。長く関わらせていただいてきた作品たちがひと段落するタイミングで、僕の声優も、間違いなくターニングポイントを迎えているなと感じています」

――10年間、ともに歩んできたエレンは梶さんにとってどんな存在ですか?

「おこがましいかもしれませんが、自分としては、もはや自分自身というか...魂レベルで『ここまで自分に近い存在はなかなかいないな』と思うくらいにはシンクロしています。まあ『エレンと似ている』と言うと、ちょっと危ない感じもしますが...(笑)。でも、そんな彼の弱さや脆さ、醜さも含めて、やっぱりすごく似た部分があるような気がしているんです」

20251128_kaji01_05.jpg取材・文/郡司 しう 撮影/小川 伸晃

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