声優・悠木碧インタビュー#2「小学5年生の声優デビューをきっかけに本格的にその道へ。悠木碧、声優の原点」
アニメ インタビューレンタル
2025.02.07
『魔法少女まどか☆マギカ』の鹿目まどか役や、『幼女戦記』のターニャ・デグレチャフ役、『ヒーリングっど♥プリキュア』の花寺のどか/キュアグレース役、『薬屋のひとりごと』の猫猫役など、数々の人気作で主役を演じてきた声優・悠木碧さん。子役の頃から培ってきた表現に対する情熱は、ますます深みを帯び、作品への深い愛情とていねいな役作りでキャラクターの心情を鮮やかに描き出します。このインタビューでは全3回にわたって、悠木碧さんの出演作品やキャラクターに対する思いをひもときながら、その魅力に迫ります。
■「万物が友達」だった幼少期

――前回のインタビューでは、休日の過ごし方や「薬屋のひとりごと」を中心にお聞きしました。今回は原点に迫ろうということで、幼少期のお話しをお伺いできますか?
「小さな頃は、いわゆる"イマジナリーフレンド"とよく遊んでいる子どもで、それも常に頭の中に3人の友達がいました。その見えないお友達とおままごとをしたり、鏡に向かって喋りかけていたりと、普通の大人からすると『大丈夫かしら』と思ってしまうような過ごし方をしていたんですが、私の両親はそれをまったくダメと言わずに育ててくれたんです」
――常に3人、というのはいつも同じメンバーなんですか?
「そうです。名前も決まっていてパジコ、ムスコ、ブーちゃん(笑)。どこから取ったというわけでもないんですが、名前も決まっているし、なんとなく役周りも決まっているんですよ。パジコは仕切り屋でツッコミ役、私との距離も一番近くて仲良し。ブーちゃんは『クレヨンしんちゃん』に出てくるぶりぶりざえもんに似ていて全然会話がなりたたず、悪ふざけの度がすぎてしまうタイプ。ムスコに限ってはあまりどんな人物だったか記憶がなくて、すごく影が薄かったんだと思います......(笑)」
――面白いですね。悠木さんが三蔵法師になった「西遊記」のような(笑)。
「たしかに!(笑)そういった作品から影響受けていたのかもしれないですね。あとは、イマジナリーフレンド以外にも、ミツバチに話しかけたり、壁に止まっている蛾に話しかけたり、釣りのエサにするイソメに話しかけたり......。もう本当に、万物が友達でした(笑)」
――万物が友達(笑)。そういうお友達からは返事が返ってくるんですか?
「返ってこないから、『返ってこないんだ』ということに気づきましたし、イマジナリーフレンドの3人にしても今思えば私が一人で何役も演じていたので、一応、会話は成立していました(笑)。そういう姿を両親も温かく見守っていてくれたので、成長していくなかでだんだんと自分で『あ、これってイマジナリーフレンドっていうやつなんだ』と自分で気づけましたし、人前で鏡に話しかけると『やばい人』に見えてしまうんだなということもわかってきました。成長するにつれて、だんだんと彼ら彼女らとはお別れをして......という感じです」
■きっかけは小学5年生のときの声優の仕事

――小さな頃から子役としてもご活躍されていた悠木さん。その中で声優の世界に興味を持ったのは、どんなきっかけがあったんですか?
「初めてお仕事で声優をやらせていただいたのは小学5年生の頃で、『キノの旅』というアニメ作品でした。それをきっかけに、初めてちゃんと『声優』という仕事があることを知ったような気がします。それまでは『誰かがピカチュウやクレヨンしんちゃんの声を演じている』なんて考えたこともなかったけど、裏側にこうやってキャラクターの声を演じている人がいるんだということを知って、多くの人の努力で作品が生み出されていることに対して、感動したんですよ。意識して観るようになると別のキャラクターでも『同じ声優さんが演じている』というのがわかってきて、だんだん点と点が繋がって線になっていく感覚が生まれてきたんです」
――その頃、印象的だったキャラクターや声優さんは?
「子どもの頃からポケモンはすごく好きで、アニメもゲームもめちゃくちゃやっていましたね。声優さんがわかるようになってからは、『あ、このポケモンとあのポケモンは同じ声優さんだな』とか。あと、例えばミュウってピンク色でふわふわで勝手に『女性の声優さんなのかな』と思っていたら、山寺宏一さんがやっていることを知って、すごく感動したり。これはもうだいぶ大きくなってからですけど、私が大好きな『ガンダム00』のロックオン=ストラトスの声を聞いた瞬間に、『ロケット団のコジローの声と同じだ!』と気づいたり(笑)」
――昨年出版された「悠木碧のつくり方」の中でも、ロックオンへの愛が熱く語られていましたもんね(笑)。そこからどんなふうにして、「声優になろう」と決心したのでしょうか。
「私自身、アニメやゲーム作品が昔から大好きだったので、『それを作る側になれたらいいな』という気持ちもあったし、自分が好きな世界だったからすんなりと色々なことが吸収できて、周りにたくさん褒めてもらえたというのもあって、子供心ながら声優になろうという気持ちはどんどん強くなっていきました。その気持ちがさらに強くなったのは中学校に上がり、沢城みゆきさんとご一緒にお仕事をしたとき。沢城さんも元々、子役時代から声優をやられている方で、私自身ずっとそのお芝居に憧れてきた存在でした。それがようやく現場でお会いできて、そのお芝居だけでなく、言葉選びや立ち居振る舞い、たたずまいなど本当に一つ一つがすごくかっこよくて。そこでまた沢城さんに対する憧れを強くして、『絶対、自分も沢城さんのような声優になろう』と心に決めたんです。もう本当に憧れ続けている存在。だから追いかけて、事務所まで一緒にしたんですよね(笑)」
――子役も経験なさっていた悠木さんからすると、声のお芝居と通常の演技とはどんな違いを感じていますか?
「通常の演技より自分の想像以上にオーバーにやらないとアニメの絵には合わないんだな、というのはやればやるほど感じています。キャラクター同士の立ち位置からくる声の距離感や、絵だけでは拾いきれない動作にはアドリブで音を入れることで、より立体的にしていったりとか。そういう細かな要素が全部合わさって、一つの作品や世界が立ち上がっていく感じは、ドラマなどよりもより強いんじゃないかなという感じはしています。あとは体を使ったお芝居だと、仕草や目線の動きも使ってその人物の感情や空気感を表現できるんですが、私たちはそれを音だけでやらなければいけない。その制限、不自由さが逆に声のお芝居の面白いポイントだとも思います。ちょっと想像しづらいかもしれないんですけど、声だけでも目線の動きって表現できたりするんですよ」
――声だけで目線の動きを表現する......?!
「例えば、はっきりとまっすぐ相手に届けるような声をだせば、それは相手の目を見ながら話ているように聞こえるし、少し奥に引っ込めるような声をだせば、『あ、いま目をそらしたな』というのが、声だけでも十分伝わるんですね。もちろん絵の表現もあるので、それを合わさったときにその人物の心理描写をより鮮明にしていくようなお芝居になるといいなと思っていて、声優はそのクリエイティブな感じが楽しいなと思っています」
■人生を変えた作品『魔法少女まどか☆マギカ』

(C)Magica Quartet/Aniplex・Madoka Movie Project Rebellion
――新作劇場版の公開も予定されている「魔法少女まどか☆マギカ」(以下、『まどか☆マギカ』)。悠木さんはシリーズを通じて主人公の鹿目まどかを演じられています。悠木さんと、同作品との出会いをお聞きできますか?
「元々、アニメオリジナル作品だったので、出会ったのは本当に役が決まるときだったんですが、当時事前にいただいていた作品のプロット、台本、キャラクターデザインというのが、それだけではどんな完成形になるのかまったく想像ができなくて。実際にアフレコに望んでみても、『何か新しいものを作ってるな』というのは当時からすごくありました。それでできあがったものを観てみたら『なんだこれは!』という感じ。まどか含め、キャラクターはいわゆるアニメらしい描写で描かれているのに、その少女たちを取り巻く世界がそれまでまったく見たことがないような映像で表現されていて、その融合がアーティスティックですらある。『自分が関わっていたのは、すごい作品だったんだな』というのを改めて感じました」
――放送当時からすごいインパクトで、『まどか☆マギカ』を考察する大学の講義までありましたよね。
「そのくらい、考察を楽しませるような仕掛けもありましたし、ビジュアル、音楽もすべてその世界に引き込まれるようなつくりでしたよね。正しい表現かはわからないけど、脳が情報でいっぱいになる快感が、『まどか☆マギカ』にはある気がするんですよね。しかも、そんな状態のところに感情をえぐるような出来事が起こる。とにかくそういう仕掛けだったり、物語の中に何かを考えさせるパーツがちりばめられていて、10年以上前の作品なのに、いま観てもぜんぜん古く感じないんですよね。私自身キャストとして、当時から『観てもらえたら、絶対に面白いと思ってもらえる作品だ』というのは感じていました。それに、おそらくそれ以降に登場するアニメは少なからず『まどか☆マギカ』の影響を受けて出てくるだろうなって。封を切ってみたら、驚くほど多くの人に楽しんでいただける作品になったし、私にとっては『人生を大きく変えた作品』になったと思っています」
――悠木さんもおっしゃるように、「感情がえぐられる」という要素は少なからずあるじゃないですか。それはキャストとして演じていて、自分の気持ちが引っ張られてしまうことはなかったですか?
「いや、全然ありましたよ(笑)。『まどか☆マギカ』に限らず、私自身が結構、その時演じているキャラクターに心を持っていかれがちなので、まどかを演じているときは特にそれが強かったと思います。最終話に近づくにつれて、物語自体にも絶望感が出てきますし、しんどいことも起きるじゃないですか。たしか、当時は毎週土曜日の夕方からアフレコをするスケジュールだったのですが、それゆえに週末は気分が重ため......みたいな。それに加えて、放映前後に作品のプロモーションもあったので、色々なイベントに参加したり、シンプルに人生で忙しい時期でもありました。だから立ち止まって自分をいたわる時間もあまり取れていなかったんです。思い返してみると『私、あの時結構病んでいたんだな』と思うくらい、メンタルも体もわりとボロボロだったんですよね。何かがあったわけでもないのに、電車に乗っている途中で突然涙が出てきたりもして」

――そんな中で、心の支えになったものはあったのでしょうか?
「当時は大学一年生で、キャストは錚々たる面々だったので、その中で座長を務めさせていただくことに相当プレッシャーがありました。ただそんな中でも、ほむら役のさとちわ(斎藤千和)さんはじめ、周りの方々が『座長のあおちゃんを軸にみんなお芝居をするから、自由にやっていいんだよ』と声をかけてくださったんですね。悩みも多かった私を、本当にみなさんがケアしてくれて、そのおかげであの忙しくて大変だった時期も乗り越えられたんじゃないかと思います。一方で、今考えると、私自身が極限状態だったことは、まどかを演じる上ではよかったのかも、という思いもあるんです」
――詳しくお聞きできますか?
「まどかが決断できないこと、あるいは決断したことで周りの女の子たちがどんどん悲惨な目に合ってしまう。でもまどかって、普通のどこにでもいるような女の子であって、けっして勇者とかヒーローじゃないんですよ。誰もまどかには頼らないし、まどかも誰かに頼れない。その寄るべのない境遇が、当時の私の状態に近かったんじゃないかと思うんですよね。そんな状況を観て、当時の私は少しまどかに苛立ってもいました。でもそれって、同族嫌悪みたいなもので、きっと自分の姿を客観的に見せられたのに近いから、自分のことのように怒れたんだと思います。そのくらい、彼女と私の距離が近かった。いまは俯瞰的に観られるようになったので、『14歳の女の子に背負わすことじゃないだろ』という気持ちのほうが大きくて、まどかのやさしさ、柔らかさみたいな良い部分のことがちゃんとわかる気がしています」

(C)Magica Quartet/Aniplex・Madoka Partners・MBS
――悠木さんとまどかが、気持ちの上でシンクロしていたんですね。そういう意味でも悠木さんにとっては忘れられない存在ですよね。
「当時の私って、まだ役者として真っ白なキャンバスみたいな感じで、自分の色がどういう色なのかもはっきりしていなかったと思うんですよ。そんな中でまどかに出会っているので、たぶん彼女にはそのキャンバスに大きく色を塗ってもらったんじゃないかと思います。そういう意味ではいまの声優・悠木碧は、大きな部分を彼女に作ってもらったんだろうなぁと。彼女に出会っていなければ見られない景色だらけでしたし、最初はあんなに『自分に似てない』と思っていた彼女が、まさか自分とそこまでシンクロするなんて。色々な意味で彼女とは魂を共有している気持ちです」
■友達や家族を超えて、もっと近くにいる

――アフレコ現場での思い出や印象的な出来事などはありますか?
「『まどか☆マギカ』って鬱々とした展開ではあるんだけど、キャストのみなさんは作品と自分とを切り離してちゃんとコントロールできるベテランの先輩方が多かったので、アフレコの現場ではよく楽しくおしゃべりさせてもらっていました。放送が始まってからは『反響すごいね!』とか、怖いシーンや悲しいシーンを面白く描いてくれたファンの方のマンガやイラストを『あれ見た?』とか言いながら、結構 盛り上がったり。みんな、作品の陰鬱な展開を引きずらずにおしゃべりできていたと思います(笑)」
――ありがとうございます。悠木さんから見て、印象的だったエピソードなどはありますか?
「たぶんこれはファンの方々でも話題に上がりやすい回だと思うんですが、第10話ですね。ほむらちゃんがなぜタイムリープを繰り返してきたのかがわかる話。とくに、まどかが窓から自分のグリーフシードをあげる場面。あそこは100%の善意、やさしさでそれができてしまう、まどかの残酷さを感じるシーンでもある。あれがあるから、ほむらちゃんはその後、走り続けなければいけなくなってしまうんだけど、まどかにはそんなつもりがなく、ほむらの背中を押してしまうんですよね。私自身、イベントや朗読劇などでも繰り返し演じてきましたが、まどかのいい部分とわるい部分、それが詰まっている印象深いシーンだと思います」

(C)Magica Quartet/Aniplex・Madoka Partners・MBS
――でも、それ以外にまどかはどうすべきだったのかっていうと......。
「そうなんですよ、多分まどかのあの選択は間違ってはいないんです。というか、『まどか☆マギカ』って全編を通して、『そうせざるを得なかった』『最善だったはず』という選択をしているのに、それによって事態が好転するわけじゃないことが、永久に起こってるんですよね。悪意のあるような人がだれもいないけど、みんなが不幸になっていく。あえて挙げるとすればキュゥべえだけど、でもあれは機構のようなものだから、そこに怒りをぶつけてもしょうがない......というような感じで、話出すとキリがないのですが、『まどか☆マギカ』の物語の面白さ、深さ、残酷さといった要素を象徴するような回が、第10話だと思います。またね、最後に『コネクト』が流れる瞬間の、あの"答え合わせ感"がたまらないんですよね」
――めちゃくちゃわかります。多分、あの時人生でも一番鳥肌が立ったんじゃないかというくらいの気持ちでした。『まどか☆マギカ』としては最後の質問になりますが、悠木さんにとって鹿目まどかはどんな存在ですか?
「さっきお伝えしたことにも近いですけど、声優としての私の核を作った人なんじゃないかなと思います。いろいろな感情を教えてくれたし、たくさんの景色も見せてくれた。『何が正しいんだろう』ということを、彼女と一緒にたくさん考えてきた気がします。友達や家族という存在を超えて、もっと近くにいる。似ているわけじゃないんだけど、かなり同一に近い存在だと思います。それでいて彼女が出す答えと、私が出す答えでは違いがあるから不思議でもあるんですよね。同じ人でありながら、別人でもある。この辺は、もしかすると何か一つの役を長く演じてきた方でないとわからない感覚かもしれません」
――限りなく近いけれども、違うことを考えている存在?
「というのも、『まどか☆マギカ』という作品がさまざまなメディアミックスで展開される作品ということもあって、そのたびに別の解釈のまどかを演じることがあるんですよね。そうすると、アニメで演じたまどかとは、感情や性格が微妙に違ったりすることもあって。なんていうのかな、難しいけど......そう、『アルティメット化』してるまどかみたいな(笑)」
――「アルティメット化」(笑)。つまり、概念化しているっていう感じですかね?
「概念化のほうがわかりやすいですね(笑)。メディアごとに違う姿のまどかがあって、そのすべてが『鹿目まどか』ではあるので、私の心の中にいるまどかと、その全部の集合体である『鹿目まどか』は少し違うのかもしれないです。そういう意味では、テレビアニメの後にゲームや遊技機など、さまざまなところでまどかを演じてきましたけど、公開を予定している劇場版では久しぶりに『原点の鹿目まどかに会えるんじゃないかな』と期待しているところではあります。......といっても、どんなお話になるのかは、まだまったく知らないんですけどね(笑)」

取材・文/郡司 しう 撮影/小川 伸晃














