声優・村瀬歩インタビュー#3「『キャラクターに僕の声帯を貸す』村瀬歩が役を演じる上で大切にしていること」

声優・村瀬歩インタビュー#3「『キャラクターに僕の声帯を貸す』村瀬歩が役を演じる上で大切にしていること」

「ハイキュー!!」の日向翔陽役や、「ひろがるスカイ!プリキュア」のキュアウィング/夕凪ツバサ役、「あんさんぶるスターズ!」の姫宮桃李役、「時光代理人 -LINK CLICK-II」李天辰・李天希の双子兄妹など高音から低音まで幅広い声域を使いこなし、熱いスポーツ男子から可憐な少女役まで演じ分ける村瀬さん。そんな村瀬さんは、自身のお芝居に対して「そのキャラクターに自分の声帯を貸して、代わりにセリフを言う感覚」と表現します。このインタビューでは全3回にわたって、村瀬さんの養成所時代の頃の話から、転機となった「ハイキュー!!」の現場、そして役作りで大切にしていることまで、出演作品やキャラクターにかける思いとともにお届けします。

■影響を受けた先輩と役作りについて

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―― 影響を受けた声優さんはいらっしゃいますか?

「もちろん憧れている方も、好きだと思う方もいっぱいいるんですが、直接的に関わりがあって参考にさせていただいたなと思うのは、『ハイキュー!!』でもご一緒した日野聡さん(澤村大地役)。仕事に対する姿勢もそうですし、それこそ『ハイキュー!!』で僕が居残りで収録しているときも、日野さんは、全然帰ってもいいのに、一緒に残って後ろで見ていてくれたんですよね。それも、特にアドバイスとかは一切せずに、本当に僕がわからなくなっているときにだけ、『音響監督さんはこういうことを伝えたいんだと思うよ』とだけ言ってくれる、みたいな。その寄り添い方が『自分にあるものの中で考えていく』『人に頼りすぎない』という、声優として生きていく上ですごく基本的、かつ大事なことを教えてくれている気がして」

―― 日野さんの懐の深さが伝わってきます。

「本当ですよね。僕もそこから経験を積み重ねていって、たまに現場で後輩を任されたときに、日野さんの姿勢をすごく参考にしているんです。たとえば、『王様ランキング』の収録のときに日野さんの事務所の後輩でもある、日向 未南ちゃんが主役だったんです。そのとき、僕も日野さんみたいな接し方を心がけてみたんですが、元々、彼女が持っている素養ももちろんあるとは思いますが、あっという間に成長していった気がして」

――アドバイスとかはせずに、見守るように寄り添うわけですね。

「そうなんです。自分が先輩の立場になってみてわかったんですけど、変に期待をかけすぎず、役者さん自身の考える力とか、持っている魅力をすごく信じているから、ああいう接し方になるんだなって。ちょうどいまの僕くらいの年齢のときに、日野さんが『ハイキュー!!』で澤村キャプテンを務めていたので、この歳であれだけの覚悟をもってお芝居にものぞんで、かつ新人の声優にも寄り添って、という姿勢を貫くのはすごいことなんだというのが、余計わかるんですよね。本当に憧れ、尊敬の念がかなり大きい先輩の一人です」

――「ハイキュー!!」作品内の関係性と同じく、村瀬さんにとってはいい先輩なんですね。

「そうですね。それと、榊原良子さんとは、11~12年ほど前に『ザ・ハンドレッド』という海外ドラマシリーズでレギュラーでご一緒して、そのときに『その場所に人がいるかのように喋る方だな』と衝撃を受けました。『こんな表現やお芝居ができる声優になりたいな』と思わせていただける方ですね。そんな憧れの榊原さんから、あるとき、そのレギュラーで二人とも出番がないときにコーヒーを飲んでいたら、『大人の芝居ができるようになったわね』と言っていただいたことがあって。それは、すごく嬉しい出来事でした」

――それも素敵なエピソードですね。村瀬さんは役作りで、ルーティンにしていることなどはあるでしょうか?

「具体的な行動というよりも、どうやって声のイメージを固めていくかの順番が決まってるという感じかもしれません。まずはどういう話なのか、原作があれば原作を読みますし、オリジナルであれば台本を読んで、ストーリーを客観的に把握していきます。その上で、自分が演じるのはどういう立ち位置の人なのか、何がしたいのか、どんなことに食指が伸びるのか、といったそのキャラクターが持つ視点を捉えていきます」

――前回のインタビューで「ハイキュー!!」時代に台本の読み方を音響監督に言われた話がありましたが、まさにそれが根底にあるんですね。

「そうですね。前回も言いましたが『ハイキュー!!』はすべての教科書になるくらいの作品だったので。そのキャラクターが何を考えているのか、何を大事にしながら行動しているのか。それが自分の中にちゃんと入っていないと、その役としてしゃべれないんです。そこは、すごく大事にしている感覚ですね。人物像を細かく捉えていくことで、だんだんと自分がどんな声でその役を務めるべきかのイメージができてくる。これはなんとなく、料理でいえば味を作っていくみたいな感覚ですね。で、その味を現場に持っていってオッケーだったらそのままやりますし、『こういう風にやってください』と返ってきたら、自分の中にある調味料を足したり引いたりして、キャラクターを作っていくんです」

――人物像を深掘りするときは、どんなふうに考えていくんですか?

「このキャラの得意なことと苦手なこと、好きなこと、嫌いなことを考えますね。それが自分の中にはどんな要素としてあるのか。僕自身が興味があることなら、それのどこに惹かれるのか、そのキャラクターの目にはどこが苦手だと映っているのかわかりやすい。それをきっかけにどんな物事の捉え方をする人物なのかが見えてきたりします。一方で、僕自身がその事柄に興味がないときは、とっかかりがないから大変なんです。そういうときは、その事柄が好きだったり、嫌いだったりする人の話を聞いてみたりして、ヒントにしていることが多いです」

■すべての作品は瞬間的な巡り合わせで出来上がる

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――村瀬さんが声優の仕事をする上で、大事にしていることはなんですか?

「"声優のあり方"として僕が一番好きなのは、究極的に言うと『そのキャラクターが言いたいことを、僕の声帯を貸して代わりに声を出す』ということなんですよね。これが声優として僕が追い求めたい部分になっています」

――キャラクターに声帯を貸す、おもしろい考え方ですね。ある意味、"無私"というか。

「そういう部分もあるかもしれないですね。現場では、"僕がこの役をこう演じよう"という意識ではなくて、"作品をみんなで作っていこう"という感覚の方が大事なんです。自分が表現したいもの、見せたいキャラクターを作り込んでいくのも大事だけど、エゴイスティックになると作品の完成度に影響が出てしまう。でも、『まったく自分を出さないほうがいいのか』というと、それも少し違う。そのキャラクターの声を預からせてもらうのは僕一人だから、そこはちゃんと責任を持たなければいけません。そのバランスが難しくて、よく悩んだりしています」

――いまのところの答えは見つかっていますか?

「どの作品でも一律で同じ、というわけではなく作品によって求められるバランスは違うので、現場ごとに見極める必要があるのかな、とは思っています。たとえば、監督さんと自分の言語感覚がすごく近くて、すぐに求められていることがわかるときもあれば、方向性を一致させるのに時間がかかるときも当然あります。でも、『人と考えることが違う』って本来、出発点だと思うんですよ。オーケストラでいろいろな楽器の演奏が交わるように、いろいろな考え方、やり方が人それぞれ違うからこそ楽しさや、美しさが生まれる。アニメのアフレコなんて、まさにそれが具現化した現場なので、『どちらが正しいか』で考えるのではなく『僕はこの考え方が好きだけど、その考え方も素敵だよね』という姿勢は、つねに持っていたいなと思っています」

――多様な考え方があるからこそ、おもしろい作品が生まれる......。

「先ほども言ったことですけど、"みんなで作っていく"っていうのは、どんな作品にのぞむときでもつねに心の奥底には持つようにしています。それこそ年代も、考え方も、やり方も、まったく違う人たちが集まっているし、多分タイミングや巡り合わせが違えば、キャスティングもまったく変わってしまう。良くも悪くもそういう仕事だし、すべての作品は一期一会の瞬間的な巡り合わせでしか生まれない。でも、『その時そこに集まった人たちでしか作れない』からこそのおもしろさってすごくあるんですよ。そんな仕事に向き合うのに、自分がやりたいエゴばっかりを主張してたら、きっとそのおもしろさを感じきれないんじゃないかな」

――そういう意味でも、"みんなで作っていく"という感覚はすごく重要なんですね。

「だと思います。それを意識した上で、周りに預けすぎず、独りよがりにもならないようにする。もちろん自分が信じたものを出すのも大事だけど、それを一度頭から追い出して、周りをよく見たり、作品全体を俯瞰して眺めたり、そういうことができるのもまた、いい作品を作る上では大切です。そんな仕事に向き合えることが、いまはすごく楽しいので、任せていただいた一役一役にまっすぐ向き合いたい。同じ人物が二人いないように、同じキャラクターも二人はいないので、役の魅力を引き出していくおもしろさ、そしてみんなで作品作りをするおもしろさを、ずっと色褪せずに探求していける声優になれたらいいな、というのがいまの素直な思いです」

■「柔らかい部分を見せてください」|「ひろがるスカイ!プリキュア」キュアウィング/夕凪ツバサ

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――「ひろがるスカイ!プリキュア」ではキュアウィングに変身する夕凪ツバサを務め、男子プリキュアとしても注目を集めました。演じる上で、プレッシャーは感じなかったですか?

「僕としては、一人のキャラクターに向き合うという形はほかの作品とは変わらないんですよね。だから、"史上初"とかセンセーショナルな言葉で語っていただくことも多かったんですけど、僕のスタンスとしてはそれが特別なものとして受け止めてはいなくて、プレッシャーは感じていなかったです」

――村瀬さん自身は、ツバサくんのことはどんな人物としてとらえていたんですか?

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「心やさしくて面倒見がよくて、正義感も強いし、本当に純粋な心を持ってる子なんですよね。なんだけど、自分自身の夢を周りにバカにされて『無理だよ』と言われ続けてきたことで自己肯定感が低くなっているし、自分に自信がないという。でもそんな状況でも、けっして社会や周りへの扉を閉めたりはしない。その芯の強さがあるから、彼自身が少しずつ成長もしていったんだろうとは思いますね」

――何か収録中の思い出深いエピソードはありますか?

「一番は、第9話でツバサが初めてキュアウィングに変身したシーンですね。その時は、ツバサ自身も自分の覚悟をもって変身しているし、敵もいて目の前にいる子を助けようと思って変身するから、わりと『敵を倒すぞ!』という気持ちを込めて、『スカイミラージュ!トーンコネクト!』という二言を、力強く演じてみたんです。そしたら、ディレクターさんから二言めの『トーンコネクト!の部分は、もう少しツバサの柔らかい部分を見せてください』と言われたんです。で考えてみたら、このアニメは見る年齢層も低めなので、僕が全開で力強く言い放つと、すこし怖さが先に立ってしまうのかもしれない、と。感情の作り方としては間違ってないけど、視聴者のことを考えるならばそこにツバサの柔らかさも加えるほうが、より適切なんですよね。案の定、仕上がった映像を観て元々の言い方だと、怖く聴こえてしまいそうだというのはすごく感じました。視聴者の年代を加味する考え方が、それまでのお芝居の引き出しにまったくなかったので、プリキュアシリーズが積み重ねてきた丁寧な作品の作り方に触れて、すごく勉強になったのを覚えています」

――ありがとうございます。村瀬さんが思う、「プリキュア」シリーズの魅力をお聞きできますか?

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「物語としては、もちろん小さな子に向けた内容ではあるんですけど、よくよく観ているとそこに込められたテーマやメッセージが、すごく社会的、かつ人間的なんですよね。だからこそ、観ている子供たちの親世代も巻き込んで、幅広い年代の方々が観て楽しめる作品になっているんだろうな、というのは感じました。言ってみたら、『子供騙しのアニメじゃない』。それは、『プリキュア』シリーズが20年以上続いているということが何よりの証拠になっているのではないでしょうか」

■好奇心旺盛な食いしん坊が加わりさらに賑やかに|「とんでもスキルで異世界放浪メシ」ドラちゃん

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――10月からシーズン2が放送される「とんでもスキルで異世界放浪メシ」では、新たにパーティの一員として登場するドラちゃん役を担当されています。村瀬さんから見た、この作品の魅力はどんなところですか?

「とにかく、ご飯がおいしそうですよね。MAPPAさんという制作会社が作っているんですけど、料理撮影に特化したスタジオと連携し"しずるディレクター"と呼ばれる役割の方をわざわざ起用して、料理の見せ方はかなりこだわっています。そして、登場するキャラクターたちが本当に楽しそうでイキイキしてるんですよ。それがこの作品に漂う空気感を良くしていて、安心してみれる素敵なアニメだなと思っています」

――シーズン1で、食べてみたくなったお気に入りの料理はありましたか?

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「え、なんだろう......!どれもめちゃくちゃ美味しそうに描かれていたので、なかなか一つには絞れないんですけど......しいて上げるとすれば肉料理、とくにハンバーグかな。あれは、お腹が空いている時間に見たらヤバいなと思いました(笑)」

――村瀬さん演じるドラちゃんにはどんな気持ちでのぞんだんですか?

「ドラゴンで、体格的には小さいんですけど、一応年齢は100歳以上ということで、かわいくなりすぎないように気をつけました(笑)。とはいえ、能動的にアクションを起こしていくタイプなので、わんぱくで食欲も好奇心も旺盛という要素は、大事にしつつ。そんなよく喋る好奇心旺盛な食いしん坊が、シーズン2ではムコーダ、フェル、スイの3人(?)組に加わってくるので、4人になってからの賑やかさ、楽しさをアニメを観ながら感じていただけたら嬉しいですね」

――村瀬さん自身が、異世界でもしネットスーパーのスキルを手に入れたとしたらどんな過ごし方をしますか?

「じつは僕自身は、そもそもそんなに異世界に行きたくはないタイプなんですよね。多分、あんまり活動的なほうでもないから、どこかの宿屋にずっと止まって自堕落に食べて寝る、みたいな生活になってしまうんじゃないかな......(笑)」

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取材・文/郡司 しう 撮影/小川 伸晃

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