声優・本渡楓インタビュー#2「頭で考えたことを体に染み込ませて、マイク前に立ったら心でお芝居をする」

声優・本渡楓インタビュー#2「頭で考えたことを体に染み込ませて、マイク前に立ったら心でお芝居をする」

幅広いキャラクターを的確に演じ分ける力と、繊細な感性で直向きにキャラクターに向き合う姿勢を武器に、『魔女の旅々』イレイナ役、『夜桜さんちの大作戦』夜桜六美役、『ゾンビランドサガ』源さくら役、『パリピ孔明』月見英子役など、数々の人気作品でヒロインを演じている声優・本渡楓さん。彼女のお芝居に対する姿勢を形づくったのは、駆け出しの頃に現場でかけられた「本渡はもっと、素直にお芝居をしたらいいのに」という、いまは亡き音響監督の言葉でした。それから今日に至るまでこの言葉の意味に向き合い続け、マイク前に立ってきた本渡さん。このインタビューでは全3回にわたり、彼女の出演作品やキャラクターに対する思いやこれまでの歩みをひもときながら、その声優としての信念に迫ります。

■頭で考えたことを染み込ませて心で演じる

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――役作りについてはどんなことを意識していますか?

「長いこと自分では『感覚的なタイプ』だと思っていました。でも、どうやら論理的なタイプだということに、最近気づきまして。というのも、コロナ禍前後くらいに感覚肌でお芝居をする声優さんとお話しをしているときに、自分の口から『距離感』とか『関係値』という言葉でお芝居のことを説明していたことがあって。それでふと、思った以上に『私、めっちゃ頭で考えてお芝居してるじゃん』って気づいたんです。あと、前回のインタビューで『かみさまみならい ヒミツのここたま』の頃の親方さんのお話もしましたが、じつは別の現場でその親方さんのさらに大親方みたいな方に、かけてもらった言葉もあって」

――どんな言葉をもらったんでしょうか?

「『怒る芝居をするとき、ただ怒りを爆発させるだけだと「怒ってます、私!」という説明になる。でも"怒る"って相手が大切で助けたいから怒ることもある。その"怒る"は思いやりじゃない?』と。これは一例ですけど、要は、その人物は相手にどんな思いになってもらいたくてその言葉を喋るのか、行動するのか、を考えるということなんですよね。それまでのお芝居ではそこまでセリフを深くとらえて感情表現ができていなかったので、その着眼点を教わったのは、私にとってはすごく大きかったと思います」

――"怒る"という感情表現一つとっても、場面ごとに意図や奥底にある思いが変わる。深い言葉ですね...!

「そうなんです。ただ、深く考えるっていうのはものすごく大事なんだけど、考えれば考えるほど自分のお芝居が固くなっていく気もしました。理性ってすごく大事なものなんだけど、私の感覚だと理性がある状態で演技するとマイクと自分の間で、その"理性"がフィルターみたいに邪魔してしまう気がするんです。でもそのキャラクターからしたらその世界でその状況に立たされたから、しぜんと怒っているわけであって『よし、怒るぞ』と理性的に思ってセリフを喋っているわけではないですよね。先ほどの『頭と心の違い』の話にも通じるんですけど、頭で深く考えることは大事である一方、心でお芝居することも大事。いまは『事前に頭で考えていたことを自分に染み込ませて、現場では心でお芝居する』ができたら、一番いいのかな、と思っています」

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▲「マイクと自分との間に"理性フィルター"があるんです」と教えてくれた本渡さん

――染み込ませる、って素敵な表現ですね。

「難しいんですけどね。台本を読み解いて自分なりの考えを突き詰めたうえで、最後はフィーリングで素直にお芝居をする。頭も心もどちらも大事で、どちらか一方が欠けてもダメ。私自身、結構物事に白黒をつけるというか、ゼロヒャクで考えがちなタイプなので、親方さん、大親方のお二人からもらった言葉を、いま必死に自分のものにしようと思っているところです」

――ちなみに、ご自身としてはどんな役を演じているときが楽しいですか?

「いっぱいいっぱいあるんですけど......なんだろうなぁ。『自分から物事に立ち向かう人』かな。受身ではなく、自分から攻めていくような。すごくざっくりですけど(笑)。そういう人物は演じていて楽しいし、お芝居をしているだけでそのキャラクターから勇気がもらえる気がします」

――となると、やっぱり主人公やヒロインが多そうですね。

「確かに、主人公やヒロインはそういう役割が多いかもしれませんね。主人公やヒロインを演じるときは別の楽しさもあって、やっぱりそのキャラクターの周りで起きる出来事が多いんですよね。その色々な出来事に振り回されるのも楽しいし、いろいろなキャラクターと掛け合いができるのも楽しい。いつも同じ視点から眺められるので、演じるキャラクターのいろいろな側面に触れられるという意味でも楽しさがあります」

■愛から生まれるハートフルな展開とバトル|『夜桜さんちの大作戦』夜桜六美

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――先日、原作が最終回を迎えた「夜桜さんちの大作戦」ですが、アニメでは夜桜六美役を演じられています。まずは、作品との出会いを教えていただけますか?

「最初の出会いは、YouTubeの『ボイスカレンダー』企画。そのオーディションで六美役に決まったときでした。でもその後、アニメは完全に改めてキャストを選び直す形でオーディションが行われまして。同じ役を2回受けるのって、独特の緊張があるんですよ。1回は受かってるわけだから絶対やりたい。だけど、私じゃない可能性だってもちろんある。じゃなきゃ改めてオーディションなんてしないですから(笑)。六美は、どちらかといえば理性的な人間だとは思っているんですが、とはいえまだ16歳なので、幼さもある。オーディションでは、その『子どもっぽさと理性』を両方出せるようなイメージをもってのぞみました。そしたら無事、選んでいただけて...!」

――ひと安心という感じですね。

「本当、そんな感じです。私は小さい頃から『NARUTO』が大好きでよくマネもしていたんですが、ジャンプ作品の能力系バトルってすごく憧れがあったんですよ。『NARUTO』に関しては『BORUTO』も含めて、『デビューが間に合わなかった!悔しい!』という気持ちだったんですけど、六美が決まったときは『あのジャンプに携われるなんて!』という思いはありました」

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▲NARUTOの...マネ......?

「......といっても、六美は能力はないんですけどね(笑)」

――確かに...!心中、お察しします(笑)。「夜桜さんちの大作戦」の作品の魅力はどんなところに感じていますか?

「登場キャラクターが多い作品なのですが、いろいろな形の愛が描かれているのは『夜桜さんちの大作戦』ならではの魅力かな。夜桜家族の愛もあれば、太陽と六美の愛もある。物語的にも、愛情からくるハートフルな展開が多いと思います」

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「でも、かと思えば、その愛情が縁や絆の強さにもつながっていて、胸が熱くなるバトルも多いですよね。スパイって『明日、命がどうなるかわからない』というような職業の人たちなので、結構、瀬戸際というか、バトルが激しくなりがち。そして、そんなハラハラドキドキな展開を、総じてコミカルに描いているから、すごいですよね(笑)。そのバランスは『夜桜さんちの大作戦』ならではの魅力だと思います」

――「愛」の話が出ましたが、たしかに六美はとくに登場人物たちの「愛」の中心にいるキャラクターですよね。

「そうなんです。六美には特別な能力がないから、守ってもらうしかないんですよね。家系は守るけど、体を守ってもらわなくちゃいけないという」

――本渡さんが好きなシーン、印象的なシーンはどこですか?

「好きなシーンで言うと、第1話。太陽が手が傷だらけになりながら、凶一郎兄さんの鋼蜘蛛を突破して指輪を取りに行くシーンは、いいですよね。コミックスの時点でかっこよかったけど、『音が付いたらどんなシーンになるんだろう』と思っていたら、もうすごく素敵なシーンに仕上がっていて。そのシーンに至るまでの凶一郎兄さん、小西克幸さんのお芝居も怖さすらあって、だからあのシーンはとくに見応えが出ているなと思いました。あとは後半の、タンポポのアジトに乗り込む場面。あの辺りからそれぞれのバトルが繰り広げられる展開は、まさに『少年バトルマンガの王道ーっ!』って感じがして大好きです」

――夜桜兄妹の開花能力が続々と明かされていく感じは、まさに少年バトルマンガでしたね。

「そう、二刃姉ちゃんの『東風』とか、今まで前髪で隠れていた嫌五のおめめが見えて『こんなにきれいなお顔立ちだったんだ』とかね...!あと、兄妹の助け合いとかもすごく良かったし、全部がかっこよくて大好きでしたね。しかも、タンポポ側も『じつはこんな理由があって、タンポポという組織に入った』とか、皮下の過去とかも同時に見えてきた。『そんな悪い人じゃなかったんじゃん......』ということがわかって、本当やりきれない気持ちにもなったし、『でもこれが彼らにとっての救いでもあるのかも』とかそんな気持ちも湧いてきて......。あーもう好き!(笑)本当、好きですね。語りきれないほどの思いが、いっぱいいっぱいあります」

■"太陽"だけ、ほぼ初めまして!?|『夜桜さんちの大作戦』

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――コミックスでも人気の高い作品ですが、六美を演じるうえでの緊張やプレッシャーは感じませんでしたか?

「悠木碧さんをはじめ、キャスト陣があまりにも見知った方々ばっかりだったのでむしろ安心していて、あまり緊張しなかった記憶はあります。それよりも嬉しさのほうが大きかったですね。唯一、ほぼ初めましてだったのが太陽役の川島零士くん。でも、夜桜ファミリーは仲良し、太陽は部外者みたいな扱いからのスタートだったので、ある意味、夜桜家のキャスト陣が最初から温まっている感じはちょうどよかったのかも(笑)」

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――めっちゃ面白いですね(笑)。現場での関係性が、作品にも表れている。アフレコの時の思い出とかはありますか?

「本当にしょうもない話なんですけどね、興津和幸さんが演じる、辛三お兄ちゃんという人物がいるんですが、彼はいろいろな武器を使って戦ってくれて、その中に『鬱金』という形状不定合金の武器が出てくるんですね。漢字が難しいので、台本のト書きにはひらがなで書いてあるんです。『うこん、飛んでいく』『うこん、伸びて縮む』とか。それを悠木さんがずっとふざけて読んで周りを笑わせてくる(笑)。興津さんも『これから戦うシーンなのに!』とか言うんですけど、それも面白くて、現場でみんなゲラゲラと笑ってる、なんていうことがありました(笑)。あとは、川島零士くんが『腰が痛い』っていうから、みんなで『どの病院にしよう』『どこなら空いてるだろうか』って話が始まって助けようとしたり」

――完全に夜桜兄妹ムーブですね。現場の雰囲気が伝わってくる(笑)。

「収録が長くなればなるほど、いろいろなことがあったので、本当こういう他愛もない話はいくらでも出てくると思いますよ(笑)」

――最後に、本渡さんにとって夜桜六美はどんな存在ですか?

「六美は、私にとっては背筋を伸ばしてくれる存在です。彼女は、みんなと違って、自分自身に大きな力があるわけじゃない。だけど当主という立場がゆえに命を狙われている。それなのに学校生活はふつうに頑張らなきゃいけないし、考えれば考えるほど、とんでもない状況ですよね」

――彼女を見ていると、同じ1日が24時間じゃ足りないだろうな、とよく思います(笑)。

「ですよね。それなのにあんなに人にやさしくできるってすごくないですか?もう本当に尊敬しかない。彼女が頑張っている姿を見ると、演じる私からすればどうしたって自分の背筋が伸びてしまう。『私もこうしてはいられないな。もっと頑張ろう』って。演じるたびに、仕事に真剣に向き合うための原動力を与えてくれている存在だなって思います」

■『アラフォー男の異世界通販』の魅力と見どころ

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――「アラフォー男の異世界通販」では、マロウ商会のプリムラを演じられています。この作品の魅力、そして見どころを教えていただけますか?

「私の大好きな諏訪部順一さんと、久しぶりのがっつり共演作品!そういう意味でも、私にとってはすごく嬉しい作品です。諏訪部さんが演じる主人公のケンイチって、アラフォーの男性ならではのまったりした雰囲気があって、それでいて、結構押しに弱いところもあるんですよね。プリムラ目線からすると、そういうところにやきもきしちゃうことも多い(笑)。ケンイチからすると、おそらくこの世界でゆっくり生きていきたいだけなんですけど、アニメの世界、とくに異世界ものだと『ゆっくり生きたい』という本人の望みは大抵の場合、叶わない(笑)。どうしても目立ってしまうから。そんな彼が、この先どうしていくのか。異世界であるにもかかわらず現実世界の最大手ネット通販が使えるという特殊な状況のなか、どんな事件や出来事に巻き込まれるのか。それを楽しみに観ていただけたらと思います(笑)」

――ありがとうございます。プリムラ目線からすると、ケンイチは相当危なっかしいですよね(笑)。

「そうなんですよ!プリムラもケンイチにはだいぶ懐いている様子ですけど、ケンイチって断れない性格だから困っちゃいますよね。すぐにイチャイチャするし、私から『けしからん!』と喝を入れたいくらい(笑)。でもプリムラとケンイチの関係性にも、今後注目してもらいたいですね。あと、ケンイチが使える通販って『洋服』とかだけじゃなくて、トラックや重機といった意外なものまで持って来れるんですよ(笑)。『この状況で、こんなもの使うの!?』みたいなケンイチの変わった部分も、物語が進むにつれてどんどん見えてくるかなぁと思います。ケンイチの召喚・収納の力によって、奇想天外でキテレツな物語が次々と展開されていきますので、ぜひ楽しんでいただけたら嬉しいです!」

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取材・文/郡司 しう 撮影/小川 伸晃

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