声優・鬼頭明里インタビュー#3「自分の中にないものは出てこないから。人生を豊かに過ごすことが武器になる」

声優・鬼頭明里インタビュー#3「自分の中にないものは出てこないから。人生を豊かに過ごすことが武器になる」

『鬼滅の刃』の竈門禰󠄀豆子役、『虚構推理』の岩永琴子役、『地縛少年花子くん』の八尋寧々役など、数々の人気作品で印象的なキャラクターを演じている声優・鬼頭明里さん。天真爛漫な少女のハイトーンから冷静で理知的な大人の女性のロウトーンまで、幅広い声域と繊細な表現力で、さまざまなキャラクターに命を吹き込みます。さらにアーティストとしても活躍し、出演作品の主題歌からキャラソン、オリジナルソングまでその高い歌唱力で歌い上げ、2024年にはアーティスト活動5周年の記念ライブも敢行。最近では作詞も手がけるなど、その多彩な才能を発揮しています。このインタビューでは、声優、そしてアーティストとして活躍する鬼頭さんの、進化する表現の軌跡を全3回にわたってお届けします。

■一人の時間を大事にするようになった

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――休日はどんなことをされてリフレッシュするんですか?

「最近は、わりと一人で過ごす時間を大切にしています。元々、誘われたらすぐ行っちゃうし、人と会うのがすごく好きで、あまり一人の時間が必要ないタイプでした。一人でいるよりも、その方が有意義な気がして。それに一人でいると、考え事をして気分が落ち込みがちだったから、それなら人と会って気分転換ができたほうがいいじゃないですか。とはいえ『〇〇占い』とかを見ると大体『一人の時間を大切にする』とか書いてあって、そのたびに自分では「そんなことないのになぁ」と思っていました。けれど、最近『インプットの時間を作ろう』と思って意識的に一人の時間を作るようにしてみたら、『案外、私一人の時間も必要なのかも』と思うようになってきたんです。それに気づいてから、むやみに遊びに出かけなくなりました」

――わりと大きな変化ですね。

「振り返って考えてみると、人付き合いの中でいろいろ我慢できちゃうことが多かったんですよね。で、私も含めてそういうタイプの人って、意外と『自分が疲れている』ということに気づきにくいんじゃないかと思うんです。もちろん人と会って遊ぶのはいまでも大好きなんですけど、よくよく考えると『人と会いすぎて疲れているとき、あったかも』と思って。それからは『本当にいま、この人と会いたい』と思ったとき以外は、無理に出かけないようにしています。予定が空いているからといって『誘われたら全部に行く』のではなく、気持ちの安定や元気を保つために、断ってもいいのかなって」

――なにか、そう思うようになるきっかけがあったんですか?

「きっかけは、意識的に『一人の時間を充実させてみよう』と思って実践してみたことでした。以前は、一人で過ごす時間は本当に"無"というか、ダラダラ過ごしたり、悩みごとばかりして気持ちが暗くなることが多かった。それに比べたら「人と会ったほうが悩まなくて済む」という気持ちが大きくて、人に会っていたんですよね。でも、映画館で映画を観たり、読書をしてみたり。一人の時間を充実させてみたら、意外と有意義に使えることがわかった。自分の中で『人と会う』以外にも、自分を充実させる方法があることに気づいたんだと思います」

――「思ったより一人も楽しいな」と。逆に人と会うときには、例えばどんな声優さんと仲良くされているんですか?

「そうですね。『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』の頃のキャストとは一緒に遊んだり......あとは高橋未奈美ちゃん、和氣あず未ちゃん、春野杏ちゃん、やっぱり作品でつながった声優が多いですね」

――先ほど、動画の質問で「声優になっていなかったら?」という質問に「漫画家」と答えていた鬼頭さん。イラストの腕前が相当だというのも有名ですが、いまでも趣味でイラストを描いたりするんですか?

「それが、最近は全然描けていないんです。たまに時間がたっぷりあって『描きたい!』と思った題材が浮かんだときは描くんですが、なかなかまとまって時間も取れないし、そうすると『描きたい!』と思えるものもなかなか出てこなくて......。ちょっと前までは、『なんか描きたいぞ』って気持ちが強いときはパソコンの前でぼーっと何を描くか考えている時間も結構ありました。でも毎回『何を描けばいいのかな』と頭を悩ませていたので、きっとイラストやマンガの仕事よりも、声優の仕事に進んだのは正解だったんだと思います(笑)」

■日々を通してする、いろいろな経験が武器になる

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――役作りでは、どんなことを大切にされていますか?

「前々回のインタビューで『地縛少年花子くん』のアフレコで緒方恵美さんにいただいたアドバイスのお話をしましたが、やっぱりそのときの気づきはいまの私の声優としての姿勢のベースになっていると思います。まずは物語の展開やキャラクターの感情の流れがどうなっているのか、というのを原作や台本を読んでロジカルに考えて頭で把握をしておく。その上で、現場では感覚的にできるようにしておきたいという気持ちがあって、あまり準備をしすぎず、現場で『反射的に』セリフが言えるようにしておく。駆け出しの頃にやっていた、セリフを準備していったり、事細かに言い方を固めていくのは、いまはやらないようにしています」

――自分の中にキャラクターを入れて、そのキャラクターの感情、反応としてセリフを言うイメージですね。

「そうですね。とはいえ感情だけでお芝居をしてしまうと、物語が展開するなかでそのキャラクターの一貫性が保てなくなったりするので、『このセリフは、後々このシーンに作用してくるから、言い方を調整しよう』と考えることは結構あります。あくまで物語の組み立てる部分を考えるときは、ロジカルに考えて、その上で感覚的にお芝居ができるのが理想です。あと、これは具体的なお芝居の話ではないですが、役作りをする上では私自身がたくさんの経験をすることが大事だと思うんです。じゃないと、そのキャラに共感できなくなってしまうというか」

――もう少し、詳しくお聞きしていいですか?

「究極的にいえば、そのキャラクターが抱いている感情って、その状況に置かれているそのキャラじゃなければわからないじゃないですか。だけど、私たちはそのキャラクターの感情を表現しなければいけない。そのときに、自分が『それに近い感情になったことがあるかどうか』ってすごく大事だと思うんですよ。感情ってただ『幸せ』『悲しい』とか一つの単純な感情じゃなくて、『楽しいけどどこか不安』『怖いんだけど頼る』とか、もっと曖昧で白黒はっきりしていない感情がたくさんあるじゃないですか。そのキャラと、まったく同じ感情にならなくてもいいけど、近い感情になったことがあるかどうかで、自分の中でそのキャラに対する解像度が変わる気がするんです。だから、私自身が私生活でたくさんの経験をして、いろいろな感情になること。つまり、『人生を豊かに過ごす』ことが、声優にとっては大事だと思います。自分の中にないものは、お芝居にも出てこないから」

――「自分の中にないものは出てこない」。声優さんにとっては日常の中での蓄積が、お芝居の中で"声"となって反映されてくるんですね。今後、どんな声優であり続けたいですか?

「声優って、すでに『魅力がある』というのが約束されたキャラクターを演じていると思うんです。そういう意味では、すでに物語としては、きっと及第点なんです。でも、だからこそその魅力をさらにどこまで高められるのかが声優の仕事だと思うんです。この業界にもさまざまな方がいますし、自分が演じなかったとしても、きっとキャラを演じられる声優がたくさんいる。そのなかで『自分が演じさせてもらうことの意味』は、絶対に考えなきゃいけないですよね。『誰にでもできる』ことかもしれないけど『私にしかできないこと』にする。矛盾するように聴こえるけど、そんなふうに思える役が一つではなく、これから先どんどん増えていけばいいなと思います」

――そのためには、どんなことが大事だと思いますか?

「さっきお話した、『いろいろな経験をする』がやっぱり大事かな。その一つ一つの経験を大事にして、日常であっても小さな積み重ねを続けていくことが声優として、あるいはアーティストとしても、大きな武器になっていくような気がします」

■演じたかったからあえて原作を読まなかった|『テレビアニメ「鬼滅の刃」』竈門禰󠄀豆子

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――幅広い世代から支持されている「鬼滅の刃」、鬼頭さんは主人公・炭治郎の妹で鬼になってしまった竈門禰󠄀豆子役をやられています。キャストの一人として、この注目されている「鬼滅の刃」をどんなふうにご覧になっていますか?

「意外とキャストの一人としては他人事じゃないけど、『鬼滅すごいな!』というくらいの気持ちで眺めています(笑)。もちろん原作が素晴らしかったからだとは思うんですが、アニメに関しては『関わっているみなさんがすごい!』のが、『鬼滅の刃』という作品だと思うんですよね。ufotable(アニメ制作会社)さんのアニメーションも素晴らしいし、キャストの方々のお芝居も最高、そして音楽のこだわりもすごい......という感じで、力の入れ方がとにかくすごい。そういう意味では、本当『奇跡みたいな作品』だとは思います」

――鬼頭さんは、「鬼滅の刃」とどんなふうに出会ったんですか?

「週刊少年ジャンプの表紙が『鬼滅の刃』だった週に、たまたまコンビニで見かけて『今、こんな作品が連載してるんだ』と思ったのが、本当の最初の出会いでした。絵がすごく綺麗だし、表紙の一枚絵だけでも目と心が惹きつけられる何かがあって『この作品、絶対面白いに違いない!』って感じた。そのときから、もしアニメ化するなら絶対やりたいなと思っていたんです」

――えっ、作品を読んでないのにですか?

「そうです。じつは私は結構あるんですけど、『面白そう!やりたい!』『これ、アニメ化しそうだな』とか思った作品ほど、オーディションの直前に新鮮な気持ちで作品に触れたいから、あえて原作を読まないようにしているんですよ(笑)」

――そうなんですか......!? めっちゃ面白い話。

「だから『鬼滅の刃』はガマンしてガマンして、そこから少し時間が経って『オーディションがあります』ってなってから、ようやく原作を読ませていただきました。だから作品に対して熱量が高まりまくっている状態でオーディションにのぞんで。でも、禰󠄀豆子のセリフは『んー!』とかばっかりだから、オーディションを受けたものの、まったく手応えがなく......。でも、すっごくやりたかったからオーディション後もマネージャーさんに『鬼滅の結果、どうなりました?』って何度も聞いたりして。やっと結果が出て、禰󠄀豆子役が決まったときは思わずマネージャーさんとハイタッチしたりしましたね(笑)」

――じゃあ結構念願の、というかんじだったんですね!禰󠄀豆子を演じることにプレッシャーを感じたりはしませんでしたか?

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「もちろん人気作品ですし、めちゃくちゃありましたよ!それに禰󠄀豆子を演じていて、『何が正解なのかわからない』というのはずっと感じていたように思います。鬼になった人間。意識そのものがふつうの人間とはまったく違うだろうし、禰󠄀豆子のことを考えるときは『どこまで自我があるのか』『何をしたいのか』『どんなことを考えているのか』という問いが、つねに頭の中に浮かんでくる。根本的に自分がなれるはずがない存在なので、いまでも禰󠄀豆子を演じるときは『すごく難しい役だな』と思いながらのぞんでいます」

■言葉にならないセリフに込めた心情|『テレビアニメ「鬼滅の刃」』竈門禰󠄀豆子

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――禰󠄀豆子を演じる上では、どんなことを意識されているんでしょうか?

「私が演じる禰󠄀豆子の姿に対して『私はこう思ったんですけど、どうですか?』と、提案するような気持ちはつねに持っていると思います。それは、けっして自信がないわけではなくて。例えば、禰󠄀豆子って『んー!』『ムムムー』とか"セリフ"とも言いづらい言葉ばかりをしゃべるんですけど、やっぱりシーンごとに禰󠄀豆子なりに違う感情があったり、『私はこうしたい』という意思があると思うんですよ。台本にト書き(セリフ以外の指示)が書いてあることもありますけど、全部書いてあるわけじゃないので。私が禰󠄀豆子のいちばんの理解者になって、『ここは呼びかけたがってる』『ここは独り言』『ここは心配してる』と彼女の気持ちを汲み取ってそれを表現する。言葉ではないけど、ちゃんと声の中身がからっぽにならないようには意識しています」

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――たしかに。言葉のセリフで表現するわけじゃないからこそ、より感情の表現を意識されているんですね。

「逆に禰󠄀豆子を演じたことで、『......』や『息づかい』の演技一つをとっても、いろいろな演じ方があることもわかったので、ほかの作品でもそういうキャラクターの動きをちゃんと自分なりの答えをもってお芝居できるようになってきたとも思います。あと、じつは血鬼術を覚えてからは禰󠄀豆子も闘うシーンが増えてくるんですが、そのなかで場面によっては体の大きさが変わったりするんですね。で、声って『体という楽器を通して出る音』なので、体の大きさが変われば出てくる音も変わるんです。

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リコーダーにソプラノやアルトといった種類があるのをイメージしていただくと、わかりやすいかもしれません。大きさが違うだけで、純粋に高さも変わりますよね。それは禰󠄀豆子の声を出すうえでも結構意識しているポイントの一つです」

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――声優さんならではの観点で、すごく面白いです。鬼頭さんにとって、禰󠄀豆子はいま、どんな存在になっていますか?

「声優としていろいろな経験をさせていただくきっかけになったキャラクター。それはいろいろな作品に出演するだけではなく、いろいろなイベントやメディアに展開していくということも含めて。禰󠄀豆子を演じていなければできない経験を、たくさんさせてもらったな、と思います。声優として、でいうとちょっとしたリアクションや言葉ではないようなセリフで『どんな意図を込めて、深みを出すか』を教えてもらった。ほかの作品でのお芝居のやり方が変わるくらい意識や姿勢に影響を与えてくれた存在、自分を成長させてくれた存在なんだな、というのは常々感じています。
禰󠄀豆子に出会えてよかったし、いまの自分があるのも禰󠄀豆子のおかげだなって思います」

――すでに放送されているアニメを何周もしているファンもいると思いますが、どんなところに注目してほしいですか?

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「やっぱり一番は、炭治郎と禰󠄀豆子の兄妹愛ですよね。竈門兄妹は、本当にお互いのことを大事に思い合っているので、やさしく守ってくれるお兄ちゃんがいるから鬼になっても禰󠄀豆子は禰󠄀豆子でいられるし、禰󠄀豆子がいるから炭治郎も頑張れる。そのお兄ちゃんへの気持ちは、どんなシーンでも禰󠄀豆子を演じるときには意識していることなので、アニメを通じてみなさんにも感じていただけたら嬉しいなと思います。あとは、じつは『鬼滅の刃』って、声優のお芝居に合わせて絵を変えていただくことが多くて、本当に制作現場のみなさんが一切妥協なく作っているんです。だからこそアニメーションとキャストのお芝居、音がぴったりとハマるし、あの和のダークファンタジーな世界観にもすっと入り込めるんだと思います」

――本当、あらゆるポイントでこだわり抜いたアニメ作品になっている、ということですね。最後にファンに向けてメッセージをお願いします!

「『鬼滅の刃』は放送開始からずっとずっと高いクオリティで走り続けてきた作品だと思いますが、続けば続くほど絵も、演出も、お芝居もどんどん磨きがかかっていると思います。そのテンションがずっと失速しない、というのはきっとファンのみなさんにも伝わっているのではないでしょうか。じつはキャスト陣で一度、ufotableさんにお邪魔して制作現場を見学させていただく機会があって、そこで本当に精鋭のプロフェッショナルたちが相当な時間をかけて作っている現場を目の当たりにしたんですよね。それを見てキャスト陣もさらに気が引き締まりましたし、自分たちがいかにすごい作品を作るのに携わっているのか、というのが客観的に見えました。だからこそ言わせてもらうと、2025年公開の劇場版をはじめ、今後の『鬼滅の刃』もその期待や想像を超えるものが、きっとお見せできると思います。なので、ぜひ胸を膨らませてこれからも『鬼滅の刃』を楽しみにしていただけたら嬉しいなと思います」

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取材・文/郡司 しう 撮影/小川 伸晃

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