声優・村瀬歩インタビュー#1「『声優は、自分自身の地図を作っていく職業』 表現者として自分と向き合うことの大切さ」

声優・村瀬歩インタビュー#1「『声優は、自分自身の地図を作っていく職業』 表現者として自分と向き合うことの大切さ」

「ハイキュー!!」の日向翔陽役や、「ひろがるスカイ!プリキュア」のキュアウィング/夕凪ツバサ役、「あんさんぶるスターズ!」の姫宮桃李役、「時光代理人 -LINK CLICK-II」李天辰・李天希の双子兄妹など高音から低音まで幅広い声域を使いこなし、熱いスポーツ男子から可憐な少女役まで演じ分ける村瀬さん。そんな村瀬さんは、自身のお芝居に対して「そのキャラクターに自分の声帯を貸して、代わりにセリフを言う感覚」と表現します。このインタビューでは全3回にわたって、村瀬さんの養成所時代の頃の話から、転機となった「ハイキュー!!」の現場、そして役作りで大切にしていることまで、出演作品やキャラクターにかける思いとともにお届けします。

■きっかけは就活面接での話題作り

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――マンションがお好きで、さきほどの一問一答(動画)でも、限度額無制限のカードで「マンションを買いたい」ともおっしゃっていた村瀬さん。どんなきっかけでマンションがお好きになったんですか?

「元々は、"これいい間取りですよ"と言われたときに、自分じゃ判断できないと思ったのがきっかけでした。それから何がいい間取りなのかを知るために、マンションのことを調べ始めるようになって。たとえば、柱がいっぱいあると、その柱分の面積も全体の面積に含まれるから"柱に家賃を払ってる"ことになっちゃう。『柱に家賃払うなんてもったいない!』って考えたらなるほどと思えるじゃないですか...!」

――確かに、もったいない!

「そうやって、少しずつ『これはいい間取り、これは良くない間取り』って調べてたら、いつの間にか建築や建設のほうを好きになってきてしまって。引っ越す予定もないのに内見に行くと冷やかしになるので、友達の内見に付いて行ったりして、少しずつ色々見ていきました」

――僕も素人すぎるので全然わからないんですが、読者の方に何か、役に立ちそうな知識を教えてもらえたりしますか?

「たとえば、物件によって間口の広さって違うじゃないですか。一般的に間口の広い住戸を"ワイドスパン"、逆に狭い住戸を"ナロースパン"と呼ぶんです。もちろん、全体面積にもよりますが、そこまで広くない物件でナロースパンだと、家具を置きにくい、かつ日照面積が狭くなりがちなので、面積があっても不満が起きやすい。同じ面積なら間口が広いワイドスパンのほうが、間取りとしては比較的満足感が高い、っていうのはあります」

――初めて知りました...!

「そういう意味で角部屋はマンションの構造上、柱が食い込むことが多いので、間口が狭くなったり居住スペース効率が少し悪くなったりします。だから、中住戸(なかじゅうこ)と呼ばれる、角部屋以外の住戸だと柱がうまく逃がせていて、ワイドスパンになりやすいんですよ」

――めちゃくちゃ勉強になりますね...!やっぱりそこまで詳しいと、「あのマンションいいな!」っていうのもたくさん出てきそうですね。

「歴史的ないいマンションって、意外とたくさんあるので、もし無制限のカードがあったら、そういうところの物件は欲しいなって思っちゃいますよね。実は今日の取材現場の近くにも、結構いい物件があるので......(笑)」

――ありがとうございます(笑)。余談はさておき、村瀬さんはどんなきっかけで声優になろうと思ったんですか?

「大学に進学したので、このまま行ったら『3年生で就職活動をするんだろう』とはぼんやり考えていました。そのときに、『何か面接で話せるような自己PRになるようなことがあったほうがいい』と思って。自分自身にとっては声がフックになる気もしていたので、たとえば『声優の養成所に1年通っていた』という話ができたら、きっと『やってみてください』とかで面接の話が広がるんじゃないかと考えていたんです。じつは、最初はそれがきっかけ」

――就職面接のための話題作りだったんですね。でも、ほかにも話題になることもありそうですが、なぜ声優だったんでしょうか?

「元々、お芝居自体にも興味があって、舞台を観に行くのが好きだったんです。よく観ていたのがミュージカル。でも、みんなダイナミックに歌って踊ってるじゃないですか。僕は運動が得意じゃなかったので、そういうお芝居をしている自分は想像ができなかった。声優さんだったら、基本的にお芝居には体を使わないので、『自分でやるとしたら』と考えたときにイメージしやすかったんです」

――なるほど...!養成所に行くことは、親御さんにはお伝えしていたんでしょうか?

「いや、自分のバイトで稼いだお金で入ったので、とくに言う必要もないかなと思って言ってはいませんでした。大学2年生に進級するときに養成所に入って、翌年の3月には事務所が決まったので、親にはそのタイミングで報告した、という感じです」

■自分自身の地図を作っていく職業

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――実際に、声優の養成所に入ってみて、最初の印象はどんな感じでしたか?

「どのくらい通う人がいるのか想像がつかなかったので、初めは『声優になりたい人ってこんなにたくさんいるんだ!』というのが印象でした。授業は、本当に基礎的なことから。大阪の養成所だったので、"劇団前進座"の舞台役者さんの元でお芝居を習って、舞台の台本を覚えてやったりしていて。声のお芝居を学ぶと思ってたら、『あれ、舞台のお芝居をやるの?』って感じだったので、意外と映像にアフレコするとか声優らしい授業はやらないんだな、って感じていました」

――当時、初めてお芝居に触れて壁を感じることはありましたか?

「なんだろう......根が負けず嫌いなので、見える中で一番にはなりたかったんですよ。でも、『一番になるために、何が足りないのか』を考えるのは、自分にとっては壁だったかもなぁ。お芝居って"正解はないけど、評価はある"んですよね。
たとえば学校のテストなら正解があるので、"点数"として、勉強ができる人とできない人の差が明確になりますよね。でも、お芝居って『多分、自分はこの人よりもまだできないんだろう』とは思っても、どうしてそうなのか、なぜより低い評価なのか、その差が可視化されない。それはお芝居自体には正解がないからなんだけど、それでも確実に評価の差は存在してしまう」

――その、可視化されない差がなんなのか、見つけるのが一番の壁だったと?

「そうだと思います。それまでお芝居の経験もないので、"その差が何か"を見つけるために、とにかく自分自身で自分に課題を与えるしかない。台本を暗記して、セリフの言い方を練習して、その反復をひたすら。それはもう、ガムの味がしなくなるまで噛み続けるような感覚でしたね」

――でも、そうした経験の中で村瀬さんのお芝居のベースが養われていった。

「そうですね。声優って、"自分自身の地図を作っていく職業"だと僕は思うんです。それはけっきょく、欲しがったからといってほかの人に自分がなれるわけではないので。たとえば、誰かをロールモデルにしたとして、その方のお芝居のマネは、するんです。そこは歌舞伎や落語のような伝統芸能と同じで、型のマネから始める。だけど最終的には絶対に同じ方向には進めないので、どこかで自分だけのやり方を見つけるしかない。そのために、とにかく声をいっぱい出してみたり、とにかくいっぱい練習してみたりして、自己理解を深めることがすごく大事だと思うんです」

――それが、"自分自身の地図を作る"ということなんですね。

「いまにして考えるとお芝居的な基礎は、養成所時代にはまったくできていなかったと思うんです。でも、どうやって努力すればいいのかとか、自己表現に対して怯まないとか、そういう"表現することの基礎"。養成所時代には、この仕事をしていく上で自分との向き合い方を、いちばん学んだような気がします」

■"水"のようにつかみどころがない存在|「水属性の魔法使い」涼

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――2025年夏クールの人気作品「水属性の魔法使い」(以下「水属性」)では、魔法がある異世界に転生する主人公の涼を務められています。最初に原作を読んだときの印象からお聞きできますか?

「僕が昔、好きだった初期の頃のFFのような懐かしい王道ファンタジーの空気感があると思いました。最近のファンタジーものだと、ダイナミックにシーンが展開していく作品が多いですよね。視聴者さんを飽きさせないためだとは思いつつ、逆に『水属性』のようなゆったりした感じは珍しい気もする。そんな雰囲気込みで、すごく好きな作品でした」

――涼に関しては、最初読んだときにはどんなキャラクターだと思いましたか?

「率直に言うと、『つかみどころがない』ですね。お人好しなんだけど世話焼きではないし、でも一度"敵"って認識した相手には、極端に冷たい部分もあったりする。頭の回転や、出来事が起きてからの切り替えはすごく早く、柔軟に受け入れるしなやかさもあれば、"ここは譲れない"というような頑固さもある。思考の温度がひんやりとしていて、冷徹なイメージもある。おそらく、自分の身の回りで起きることは大事にするし、仲間が傷つけられれば沸騰もする。だけど自分が関わらないものには興味がない。ただ、正義側かどうかで二分したときには、おそらく正義側にいるという......」

――あぁ、すごくわかります。正義感というよりも、「自分の中での正しさ」という尺度のほうがしっくりくる感じ。

「"水"って温度によってまったく呼び方が違うじゃないですか。冷水とか、白湯とか、いろいろな表情がありますよね。涼自身も同じで、水のような冷たさから、お湯のような温かさまで、本当にいろいろな表情を持っている。だからこそ、水のように"つかみどころがない"んだろうなぁと思います」

――涼自身が水みたい、ってめちゃくちゃおもしろいですね...!村瀬さんが演じるときには、どんなことを意識されているんですか?

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「多分、本人はそんなに自覚してないと思うんだけど、わりとイニシアチブを取りたい人なんですよね。だから、会話の中で相手に対して小石を投げてみたり、そういうコミュニケーションが好きな感じは意識しています。"いたずら心"と言ってもいい。興味がない人にはそれもしないんだけど(笑)。その辺、アベルに対してはSっ気を見せてもそれを受け入れてくれるので、アベルといるときの"居心地よさ"みたいな空気は大事かなと思います」

――確かに、アベルと話しているときの涼はのびのびしている印象があります。

「逆にセーラさんに対するウブな感じとか、ドギマギしている感じは他人には見せない部分なので、そこははっきりと表現したい。セーラさんとの会話でイニシアチブを取る感じにするとまた全然変わってきてしまうので、セーラさんに関しては唯一、『イニシアチブを取られてもイヤじゃない』っていう気持ちでいますね。同じ人だけど、違う表情を持つところは大事だと思います。それが涼を演じる上で『ちゃんと意識しておかないと』と考えている部分かな」

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――そこも含めて、さきほど村瀬さんが涼のことを"水みたい"と表現したことが、かなりしっくりきますね。

「でも、じつは涼じゃなくても普通に生きていたら、関係性によって自分のあり方って変わるものだとは思うので、そこは逆に人間としてのリアリティを感じられる部分なんじゃないかなぁとは思います」

■懐かしさを感じる王道ファンタジーと人間模様|「水属性の魔法使い」涼

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――涼を演じる上では、村瀬さん自身の性格と違う部分を感じたりもしていますか?

「僕自身でいうと、たとえば現場でみんなで仲良く過ごすのは好きなんですけど、本来はちょっとドライな性格なんですよ。でも涼は、一度自分の懐に人を入れたら、その人が傷ついたときには自分以上に怒りの感情を抱いたり、それをちゃんと表に出すんですよね。そういう仲間に対する熱い気持ち、熱血みたいな部分は、たぶん僕よりも涼のほうが強い気がします。逆に、僕はゲームが好きなので、涼の中にもそういう中二心を持っている感じとか、ちょっと悪ぶってキメてみたりする遊び心みたいな部分は、僕も持ち合わせているものだったりするので、そういうところでは似た部分もあるかな」

――ありがとうございます!村瀬さん的にイチオシのエピソードやシーンなどはありますか?

「物語の後半で、涼とアベルがお互いの考えや立場の違いからぶつかるシーンがあるんですよね。そのときの涼の思考の仕方、問答する内容が個人的にはすごくおもしろくて好きです。涼の仲間に対しての思いと、アベルに対する気持ち、そして理路整然とはしているんだけど、状況を見渡して自分が取るべき選択としてギリギリ出した答え。その葛藤に、涼の人間らしさがすごく表れている気がしたので、そこは自分でも好きなシーンになっています」

――最後に「水属性の魔法使い」の作品の魅力を教えていただけますか?

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「一歩一歩進んでいって、少しずつ仲間が増えていって、山あり谷ありを越えて......多分、僕と同じ世代とかそれより少し上くらいの方々にとっては、懐かしさを感じていただける、王道ファンタジーの物語が展開する作品だと思います。そういう物語的な魅力もありつつ、絆や成長など人間模様のドラマもしっかりと描いてくれている群像劇なので、落ち着いて楽しんでいただけるのではないでしょうか。そうかと思えば、戦闘シーンの描写はとても迫力があって、アニメならではのいいところがたくさん詰まった作品になっています。もう残りわずかで最終回を迎えてしまいますが、ぜひ最後まで楽しんで観ていただけたら嬉しいです!」

■自己決定権は絶対に人に委ねない|「出禁のモグラ」猫附梗史郎

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――続いて夏クールの怪作「出禁のモグラ」。こちらでは猫附梗史郎役としてご出演されています。初めて原作に触れたときには、どんな印象の作品でしたか?

「まず感じたのは『どうやってアニメ化するんだろう』ということ。というのも『出禁のモグラ』ってじつは情報量がとても多いマンガなんですよね。マンガだと、江口先生が天才的なバランス感覚で画面を構成しているので、情報量が多くてもさらっと読めるし、たまに立ち止まってちょっとページを見返したくなるくらいの原作だった。それをアニメにしたときに、あの空気感を『どう表現するんだろう?』というのがすごく気になっていました」

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――実際、アニメとして完成したときにはそのイメージはどうでしたか?

「まったく杞憂で、石踊監督があの世界観をうまく落とし込んでいて、あの情報量が多いテキストも、抜群の脚本力と音のメリハリなどの工夫で、まったくそうとは感じさせないつくりになっているんですよね。観ているうちに『出禁のモグラ』の世界にじわじわ引き込まれていく感覚があって、没入感がすごい。マンガとは違うのに、原作の良さをしっかりと活かしながら、また違った切り口で完成度が高くなっていたので、キャストの一人として純粋にすごいなと感じていました」

――確かに、わかります。あの独特なクセになる空気感がしっかりとアニメで立体的になっているのは感動でした...!その中で、村瀬さんは梗史郎を演じる上でどんなことを意識されていたんでしょうか?

「梗史郎って、多分、人のことが放って置けない人なんですよね。口では『めんどくせぇ』とか『何やってんだ』とか言うけど、けっきょく放っておけなくてかまってしまう。彼自身、本来はそんなに体温が高いほうではないけど、自分の中での尺度とか自己決定権は絶対に他人にゆだねないとか、そういう部分がはっきりとしているんですよね。そこが梗史郎の面白さでもあるし、彼のそういう人間性が見えてくるといいな、というのは意識していました」

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――収録時の思い出やエピソードなどはありますか?

「武内駿輔(猫附藤史郎役)がいるので、彼は放っておくとずっとおしゃべりしてる(笑)。そのおかげで賑やかで楽しい現場ではありました。あとは、収録現場に江口先生や出版社が来られることが、監督陣も含めて何回か収録終わりでご飯に行ったことがあったんです。その場でもお話をさせていただいたんですけど、江口先生がとてもユニークな方で」

――どんなところがユニークだったんでしょうか?

「なんかね、あんまりこの世に生きてなさそうな感じなんですよ(笑)。浮世離れしているというか。普段どういう生活をなさっているのかも想像できないし、どこに住んでいるのかも全然わからないタイプで、すごくミステリアス。かと思えば、こちらが何か訊くいろいろなことに真剣に答えてくださる。なんだけど、話の節々に先生の中でマイワールドが生い茂っているのを、すごく感じるんですよね(笑)でも、だからあんなに緻密な構成の物語が描けるんだな、と。『こういう方だからあんなに独特な面白さを持った作品が生まれるんだ』って、妙に一人で納得していました」

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取材・文/郡司 しう 撮影/小川 伸晃

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