声優・福山潤インタビュー#1「『下手でいいよな』という先輩の言葉の本当の意味が、当時の僕にはわからなかった」

声優・福山潤インタビュー#1「『下手でいいよな』という先輩の言葉の本当の意味が、当時の僕にはわからなかった」

「コードギアス 反逆のルルーシュ」のルルーシュ・ランペルージ役や、「おそ松さん」の松野一松役、「暗殺教室」の殺せんせー役、「黒執事」のグレル・サトクリフ役など、その多彩な声色と演技力で、数々の人気作で主役や重要キャラを演じてきた声優・福山潤さん。いまでこそ誰もが認める名声優ですが、意外にも初めてレギュラーで入った「∀ガンダム」の現場では、音響監督から「お前の担当が3行あると胃が痛くなる」と言われていたんだそう。そんな駆け出しの時代からこれまでの歩みをたどり、出演作品やキャラクターにかける思いまで。このインタビューでは全3回にわたって、声優・福山潤さんの人となりに迫ります。

■自分的にはまっすぐ、人から見るとやんちゃ

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――幼少期はどんな性格だったんでしょうか?

「自分的には、どこにでもいる『なんの変哲もない子供』なんですが、親からすると放って置けない、というか放っておくと危なっかしいタイプだったらしいんです。1個上の兄貴がいて、兄貴は友達と一緒に自転車で隣の市に遊びに行ったりしている。で、僕からしたら1年経てば、当然同じような遊び方ができると考えるじゃないですか。でも、僕はダメ。なんでだって親に理由を聞くと『お前は危ないから』だと」

――ご両親には危なっかしく見えていた(笑)。

「むしろ兄より僕の方が品行方正だと思っていたんですけどね。どうも親から見るとそうではなかったようです。『自分からみるとまっすぐ、人から見るとやんちゃ』という少年時代でした(笑)」

――(笑)。そんなやんちゃな男の子が、初めて声優という職業を知ったのはいつだったんですか?

「僕はかなり早くて、たしか幼稚園の頃。当時、ドラえもんの劇場版『のび太の宇宙小戦争(リトルスターウォーズ)』が公開されたときに、僕は劇場に観に行ったんです。そこで声優のたてかべ和也さんと、肝付兼太さんが舞台挨拶でいらっしゃっていた。その時のお話で、ジャイアンとスネ夫が『ほかのキャラも声の人がいるんだよ』みたいなことを言っていた気がするんです。そのとき、子供ながらに『声優さんっていろいろな役をやっていて、こうしておじちゃんたちが少年の声を出したりするんだ』と知りました」

――相当早かったんですね。それで「声優になりたい」と思ったきっかけが、アレですよね。福山さんのWikipediaにも載ってる......。

「そうそう。高校時代に、好きな女の子が声優を目指していたのが、きっかけ(笑)。隣の席の子が好きで、その子が声優を目指していたので『養成所に通ったら付き合えるんじゃないか』と思って養成所に通い始めたんです。ただ芸歴30年ともなると、結構恥ずかしいエピソードなんですよねぇ」

――すみません、書かせていただきます(笑)。

「まぁ今回は、包み隠さずどんどん書いてもらって(笑)。でも一つ言いたいのは、Wikipediaを簡単に信じちゃダメですよ! 以前、僕のWikipediaには『両親が芸術家』『左目の視力がほとんどない』って書かれていた時期があって。両親はふつうの仕事ですし、左目の視力は2.0ありましたから(笑)」

――そっちの注意がくるとは思ってませんでした(笑)!

■時限爆弾のように効いてくる先輩の言葉

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――福山さんにとって、下積み時代のご苦労というと?

「20代前半の頃かな......当時は言ったら"売れてない"時代ではありましたけど、いま思っても苦労よりも、楽しい気持ちのほうが大きかったんですよね。駆け出しの頃なんて、世間から注目もされていないし。正直、うっくつとして悩むのも、それをバネにして頑張るのも、全部自由じゃないですか。そんな状況で、売れていない者同士で夜な夜な集まって、夜通し『ああでもない、こうでもない』ってクダを巻いていた。あの時間は、じつはすごく楽しかった。そこから、ちょっとずつオーディションに受かる機会が増えてきて......くらいの時期は本当に楽しかったですね」

――なんか、青春グラフィティ映画を観ているようですね。

「だから、僕としては苦労はあまり感じていなくて、ただ楽しかった記憶があるだけです。当時は、できないことのほうが多かったけどそれも当たり前ですよね。だからこそ、現場で先輩にお会いするたびに話を聴かせてもらって、刺激にもなったし自分の身にもなっていった。一つの現場に行くたびに、得るものが多かったんです」

――とくにどんなことが刺激になったんですか?

「自分が20代前半、先輩方は50~60代のレジェンドクラス。そういう先輩方のパフォーマンスって『どうやったらこんなことができるんだろう』っていう感じなんですよ。言っても、別の作品でその先輩方のお芝居も見ているから、ある程度『多分、この人こういう演技をするだろう』っていうが想像ができる。でも、その想像通りのお芝居なんて誰もしない。それも、想像していたよりもそのお芝居のほうが圧倒的に面白いんです」

――予想を超えてくるというか、いい意味で裏切られる......。

「いまの自分で考えれば当たり前なんですけど、当時はそれが間近に見られるのが、大きな刺激になった。もっと言うと、先輩の話なんて、当時の自分じゃほとんどわからない。ただ、わからないなりに聴いていると、その時に聞いた言葉が時限爆弾のように後々、自分の中で効いてくる瞬間があるんです」

――例えば、どんな言葉が......?

「当時はまだ、収録終わりに僕ら若手がお酒を作ったり雑用をしたり、という感じで飲み会をするのが文化としてあった時代でした。そこでレジェンドクラスの先輩が、お酒を飲みながら僕らに話し始めるんです。『お前ら、下手でいいよな』って。僕らからしたら、『ここから、どんな説教をされるんだろう』と思うじゃないですか」

――確かに、そんな話ぶりですよね。

「でも、実際はこんな話が続くんです。『やれることがまだ一つしかないってことは、それを思いっきりやるだけ。それがどれだけ羨ましいことか』って。例えば、一つのシーンだけでもいくつもの方法と選択肢がある。だけどOKテイク、出せる正解は一つだけ。その一つが、声優にとってはかならずしもベストではないことがある。だから『これでいいのか』っていうのは常に悩み続けるんだと。『上手くなるっていうのは、悩むことなんだよ』と声をかけてくれるんです」

――できることが増えることによって悩みも増えていくよ、と教えてくれてるんですね。

「そんな話をもちろん頭では理解できるけど、当時の自分じゃそれを実感をともなってわかるわけではない。でもだんだんと、了見が広がってきて、できることが増えてきたときに、その言葉通りのことになってくるんですよ」

――だからこそ時限爆弾的に効いてくる、と......!

「そう。わからないなりにですけど、僕は早い段階でそんな認識を教えていただけたのが本当にありがたかったと思います。だから当時の先輩方には、本当に感謝しています」

■ずっと一人でやってる感覚|「自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う」ハッコン

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――「自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う」では、自販機好きが高じて異
世界に自販機として転生してしまったハッコンを演じられています。

「いや、最初に聞いたときは正直、『異世界転生も行くとこまで行ったな』って思いましたよね。このオーディションが行われていて、『その話が来そうだぞ』というのは、じつは知っていたんですけど、その段階でまさか自分がやることになるとは、まったく想像していませんでした。なんならスタッフと、『この役、誰がやるんだろうね』って笑っていたくらい。そしたら、それが僕だった」

――それ、決まったときはどんなお気持ちだったんですか?(笑)

「いや、笑いました。笑いましたけど、ありがたかったですね。ことさら答えがないようなお芝居に対して、信頼がか期待か、していただけたっていうことですから。前例がなさすぎて、いかようにでも作っていける役だとは思ったんですけど、同時に、『僕を選んでくれたということは、別に変な期待もしていないんだろうな』とも思ったんです。たぶん、『面白くしたい』『キャッチーにしたい』というラインを狙うなら、僕じゃないだろうと」

――それなら、もっと適任がいると?

「それこそ僕と同世代なら中村悠一くんや杉田智和くんとか、もっと声にパンチがある人が演じたら、より自販機としてのキャラを立たせる感じになると思うんです。でも、そうじゃないってことは『変なことしないでいい』が正解なのかなと。それを証拠に、もう設定がぶっ飛んでいるので、むしろ変なことをせず、いわゆる"普通の人"なお芝居をしているんです。まぁ正直なところ、『何を期待されているのかわからない』ほうが大きかったですけど(笑)」

――ちなみに、収録はどんな感じで進むんですか?

「誤解を恐れず言えば、『僕がいなくてもなんら問題ない作品』ではあります(笑)。基本的にはモノローグでしか話さないのと、誰とも絡まないので。定型文は最初の分だけ録りましたけど、録り直しはせず、その音声をもう一度使うんです。自販機で定型文である以上、変わるほうがおかしくなっちゃいますからね。だから、ラッミスとかほかの人たちとは会話を僕はしないし、一人で完結しちゃうんです。面白いけど、『ずっと一人でやってる』みたいな感覚の収録です」

――収録現場で、福山さんが"ハッコン化"してる感じですね(笑)。

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「そうですね、だから僕は全然やりづらくはないんですけど、ほかのキャストさんたちは僕のモノローグを聞いても、聞こえないテイでお芝居をしなければいけないので、そこはちょっと大変かもしれないです」

――その定型文を話すときには、どんなことを意識するんですか?

「最初に監督たちとお話したときに『キャッチーにするのも変ですよね?』とお話はしていたので、特別に気合いを入れたりもしないし、ただただ普通にしゃべる感覚でやっていますね。でも一応、定型文に関しても2期に入ってから録り直しはしているんですよ。同じテイストなんで、もはやただのデータの更新ですが(笑)」

■「無機物なもので」|「自動販売機に生まれ変わった俺は迷宮を彷徨う」ハッコン

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――福山さん的に「ここを観てくれ!」と思うポイントはありますか?

「誰とも絡まない、という状況を逆手にとって、僕自身は結構楽しんでやらせていただいているんです。なぜなら、ハッコンがどれだけ振り切っても、ほかのキャラクターには影響がないから。ふつうのアニメだと、受肉をしているキャラが何かしらを話せば、必ずほかのキャラにも影響があるものなんですけど、今回はほら、無機物なもので」

――無機物なもので(笑)。

「基本的に頭の中でのモノローグをいくら話そうとも、結局その世界では動かない。だから影響はあくまで代弁だけなので、遊び要素がかなりあるんですよね。それも、監督サイドと僕自身との双方に『遊び』があって。僕から『こうやってみたい』をテストで提示したら『もっとこうしましょう』とか『やめときましょう』という戻りもあるし、逆に監督サイドからの『ここはもっと振り切ってほしい』というオーダーもある。もちろん結構NGもあります。そういうときは『言わなくてもわかりますよね』という圧とともに戻ってきたりします」

――(笑)。福山さんから観た第2期の見どころを、教えていただけますか?

「うーん......ちょっとずつ語彙力が増えたり、やれることも増えてきて自販機の可能性も広がってきてはいて、でもあくまで自販機であることを飛び出さないで物語は進んでいる......。なんて言えばいいんだろうな......。言うなれば、『ドラえもんが主役の物語』ではなく、『ドラえもんのポケットだけが誰かの手に渡った物語』的な感じというか......」

――その例え、めちゃしっくり来ますね......!

「そう思って観てもらえるといいんじゃないかなと思いますね。じつは終盤に向けて、物語としてはどんどんシリアスになっていくんですよ。結構ほんわかとした設定で、キャラクター同士もみんな和気あいあいとやっている雰囲気はあるんですが、1期もそうだったように、要所要所でドキッとするエピソードがあったり、ドラマとしては結構ハードな展開になったり。

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そのギャップも込みで、とても見応えがあるシリーズになっていると思います。ぜひぜひ第2期もここからかなり面白い展開になっていくので、最後までご覧いただけたら嬉しいですね!」

――もし、福山さんが自販機に生まれ変わるとしたらどんな自販機になりたいですか?

「本当のやつは、言うとアニメのネタバレになるやつなので言えないんですけど......。でも、もう自販機になる時点でちょっとした罰ゲームなので、『どの自販機がいいですか?』と言われたところで、商品的な観点では、あんまりないかもですね。それよりも、もし意識があるんだったら、『どんな人が買いに来るのか』『どんな顔をして買いに来るのか』、そんな人間観察が面白い自販機がいい気がします」

――質問しておいてなんですけど、その視点は思いつかなかったです。

「そういう意味でいうと、僕が子供のときに、昼間に通ってもわからないけど、夜になると何が売っているのかがわかる自販機があったんですよ。マジックミラーで昼間に見ても銀の紙にしか見えないけど、夜、暗くなってから内部からライトを当てないと見えない仕組みで。確か......何かしらの本を売っている自販機だったと思うんですけど。もしその自販機になったら、オドオドキョロキョロしながら買いに来る男子中学生とか、堂々と買っていく軍曹みたいな人とか、いろいろな人間模様が観察できるのは楽しいかもしれません(笑)」

■役割の中でトーンもキャラクター性も変わる|「おそ松さん」松野一松

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――夏クールで第4期が放送中の「おそ松さん」。シリーズは一松役で出演されています。まずは福山さんから見た「おそ松さん」の魅力を教えてください。

「初めのころは、『大いなるマンネリになれるといいな』と思ってはいたんですけど、どうも作品に長く携わっていると、制作陣の『マンネリを嫌っているんだな』という感じが伝わってきまして。だから毎期、少しずつテイストが変わっていってはいて、視聴者のみなさんの中でも、『どれが好き』っていうのが意見が分かれてくるタイプの作品なのかなとは思うんです。別の捉え方をすれば、赤塚先生が生み出した世界観とキャラクターたちを魅力的に成長させるために、いろいろな実験的なことをしている、っていうのが一番の魅力なのかなと思います」

――例えば、どんなところが実験的だと思いますか?

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「第1期だと、みなさんからすると、1話目のインパクトが大きいとは思うんですけど、全体としてはシチュエーションコントを色々な形でやっている、というイメージが強いんですよね。それが、4期になるとどちらかといえば日常的な要素が増えてきたり、抜け感というのか、ちょっと引き算的な方向性になっていたり。期ごとに、制作陣がいろいろな新しいテイストを考えて、それを形にしていってるので、『実験的なことをやる』っていうスタンスはずっと変わっていないんじゃないかな、と」

――なるほど。その中で福山さんは、どんな意識で一松を演じてこられたんでしょうか?

「僕自身でいうと、『おそ松さん』に関しては『面白くやろう』とは全然考えてはいないんですよね。最初の頃は『スベるの、嫌だな』って感覚がありましたけど、いまはむしろスベるかどうかはまったく意識はしていない。狙って取りに行くものじゃないだろって感じがして。もうアニメの中で、それぞれの関係性が出来上がっているし、その中で一松は『ここは面白いところだから取りに行こう』っていうポジションでもないですから」

――10年演じてきた中での、変化というとどんなことが思い浮かびますか?

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「僕自身は、意識的に『変えてる』部分は結構多いんですよ。そもそも1期の最初の頃だと、5話まではキャラクターも定まっていなかった。ほとんど一言、二言しか喋らないし、どちらかといえば『陰キャだ』くらいしか設定情報もなくて。実際に、アニメの中で描かれている部分もそれしかないので、『コントラストを付けよう』と思っても、いま僕が演じている一松のお芝居をするには、情報が少なすぎたんですよね」

――なるほど。

「1期って5話までは、ぞれぞれのキャラがピックアップされていくので、5話目に一松の人間性が描かれるんですよ。そこで、ようやくどんな人物なのかが見えてきて、6話からキャラクターが決まっていった、という感じでした。だから、いまの一松の感じにシフトしていったのは、1期の後半くらいから。それも、かなり"あえてやってる感"は出していて、それが一松のキャラクター性だと思っている部分があるんです」

――というと?

「例えば、最初は声を低くしているつもりはなかったけど、『声が低い』ってよく言われていたんですよ。『そういう印象があるのか』って思ったから、『声を低くしてみよう』と思ってやると、今度は『声低すぎない?』という意見が聞こえてくる。
そりゃそうですよね。声低くしてるんだから。でも、それは僕が身体的に変化して『声が低くなった』んじゃなくて、意図的に『声を低くしてる』なんですよ。それは僕からすれば『一松は、今期はこれでいくよ』っていうことでもある」

――なったんじゃなくて、あえてそうしてる。

「実際、劇場版を観ていただくと、一松は高校時代、普通の声でしゃべっているんです。でも、普通の人って高校生から20代になったからといって、そうそう声が変わるわけじゃない。要は、『一松自身が、わざとその声でしゃべってない』というだけなんですよ。それが一松のキャラクター性だと僕は考えていて。だから、一松だけはコントの役割によって声のトーンが変わる。ほかのキャラは、キーはあれどキャラクター性までは変えない。一松だけは、じょし松も、ティンカー松も、三国志さんも、普段のキャラクター性とも声のトーンも全然違うことができるようになっているんですよね」

――いちばん自由な感じ......?

「自由、というよりも、ほかのキャラがコントラストがはっきりしてるから、僕はそこを避けて、そうせざるをえなかったっていうほうが近いような気がしています(笑)」

■口は辛辣だけどチームワークは最強|「おそ松さん」松野一松

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――これまでのシーズンを含めて、福山さん的に「ここ観てほしい!」というシーンはありますか?

「これを言うと、すごい嫌がられるんですけど僕はシリーズを通してだと『実松さん』が一番好きでして......(笑)。僕は『小野大輔の代表作だ!』くらいに感じていて、実松さんのシュールさが大好きなんですけど、でも小野さんからすると『そんなことを言うのはお前だけだ!』と(笑)」

――小野さんは「実松さん嫌い」を公言してますもんね(笑)。ご自身の回だといかがですか?

「自分の担当した回だと、1期のクリスマスの話でブラックサンタの話かな。ああいうブラックなことは、もっとやりたいですね。あと、チョロ松とトド松が輝いている話は大体面白いですね。『自意識ライジング』の話も、超好きです。一方で、たまにある"いい話"系のやつはちょっと......『イヤミは風の中』とか、僕が担当した『エスパーニャンコ』とか、たまにそういう話が入ると、みんなが褒めそやす感じになるので、そういうときは『何、媚び売ってんだよ!』とかは思いますね(笑)もちろん割り当てられたら全力でやるんですけど、『また、いい話なんかやりやがって!』みたいな気持ちはあるかな。一応言っておかないと(笑)」

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――(笑)。話は変わって、収録の現場はどんな雰囲気なんですか?

「一言で言うと、『絶対に新人声優には見せたくない現場』ですかね」

――また、何かありそうですね(笑)。

「たまに、本当にこの現場が初めてに近いレベルの新人の子がきたときには、必ず『この現場を参考にしちゃダメだよ』って言うんです。僕はよく学級崩壊を起こしたクラスに例えるんですけど、『ダメな例だからね』と」

――どんなところが?

「例えば、休憩時間に入って『これからBパート始めます』って言っても、なかなか誰もスタジオに入らない。制作陣が『ほら、やるよやるよ!』と言ってもぶつぶつ文句言いながら入っていく、みたいな。でも、そういうやりとりが一種の挨拶的なコミュニケーションになってるんですよね。ほかにもわざと、ちょっと相手に辛辣なこと言う、みたいな(笑)。それをお互い、悪い笑顔で打ち返しながら、場を温めていくというか。初めて入った人は、ちょっとヒヤっとすると思います」

――いたずらっぽいというか、ニヤニヤしながらみんなでそれを楽しんでる(笑)。

「でも、何も知らない人がそれを見て『売れてる声優は、こんなふうになるのか......』と思われたら、後々大変なので、『売れてるからこうなんじゃなくて、こういうチームだからこうなんだよ』というのは伝えなきゃいけないところですよね。その代わり、と言ってはなんですけどチームワークはかなりいいです。例えば、6人でずっとユニゾンで話し続けるシーンが結構あって、これを本線上(メインとなる本番収録)でやりつつ、『合わせてる感』を出さずに6人それぞれが言うんですけど、これってかなり難しい技術なんですよ。お互いにどういうことをやるのか、誰が真ん中に立ってるかが共通見解として必要で。そういうのは、『おそ松さん』の6人じゃなきゃなかなかできることじゃないなと思います」

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――口ではやいのやいの言いつつも、実際にはその6人の間と、スタッフとの間にも信頼関係がしっかりとあるんですね。

「ある程度の信頼はしてくれているんだろうな、とは思いますね。けっして全幅じゃないけど(笑)。『本番ではしっかりやるから』っていうのがわかってもらえてるから、ある程度許容してもらえてるんだと思いますね」

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取材/山口 真央 文/郡司 しう 撮影/梶 礼哉

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