声優・堀江瞬インタビュー#3「新鮮な気持ちを持ち続けるために知らない世界へと飛び込んでいきたい」
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2025.08.29
「原神」の空(男主人公)、「僕の心のヤバイやつ」市川京太郎、「彼女、お借りします」の木ノ下和也など、数々の人気作品で主演を務め、"ホリエル"の愛称でも親しまれている声優・堀江瞬さん。ですが、実は元々、自分の声が高いことがコンプレックスだったと言います。そんな彼がどうして声優を志したのか、そしてその過程で培っていった「余白」を持つことの大切さとは。このインタビューでは、全3回にわたって声優・堀江瞬の人となりと素顔に迫ります。
■駆け出しの頃の気持ちを求めて
――お休みなどは、どうやってリフレッシュしていますか?
「元々は、映画を見たりレコードを集めたり、いろいろな趣味を持っていたんですけど、最近は、ずっと気持ちが仕事から離れない気がしています。しいていえば日々、家でだいふく(飼っている猫)を撫でることと、数ヶ月に一度旅行に行くことがリフレッシュになるのかな。でもそうすると本当に毎日、頭の中が仕事ばかりになってしまうので、自分の中ではその状態をちょっと危惧しているんです。それこそ駆け出しの頃、カラオケバイトの夜勤で働きながら、大学にも通って少しずつ声優の仕事をこなしている時代に、自分が持っていた気持ちが少しずつ薄れていっているような気がしてしまって。『映画のために無理にでも時間を作ろう!』『この合間はこれを勉強しよう!』とか」
――前回、堀江さんの"トガっていた時期"のお話も少しお聞きしましたよね。
「"トガり"の方向性が合っているかどうかは一旦置いといて(笑)。でも、当時はいまよりもずっとエネルギッシュではあったなぁって思うんです。......そうそう、だから『もしかしたらバイトをすればあのときの気持ちを取り戻せるんじゃ......?』と思って、じつは先日Timeeさんに登録してみたんですよ」
――えっ!? いや、だってさすがに周りの人が止めますよね、それは!
「もちろん、まだ出勤したことはないんですけど(笑)。ただ自分としては、駆け出し時代に燃やしていた気持ちをいまでも持っていたいっていうのが本音で、その思いの表れなのかなって。で、それをさらにひもといたときに、『もっと違う世界の人にふれあいたいんだな』って感じたんです」
――違う世界の人?
「もちろん、声優として仕事をしていれば1日3~4現場行くこともあるので、そういう意味ではいろいろな人に触れてはいるんです。だけどどこか、広い意味で『同じ世界の人たち』という感覚があって。たとえば、こうやってインタビューをしていただいているのも、広く捉えれば『同じメディア側』じゃないですか。もっと、まったく違う仕事をしていたり、まったく別の場所で生きている方に触れて、自分が知らない世界のことを見てみたい。もしかすると前回お話した、カラオケバイトを始めて『自分の世界が広がった』ときのような新鮮な感覚を、いまになってまた欲しているのかもしれないです」
■パズルのレールを少しずつはめていく感覚
――堀江さんの役作りに関してもお聞きしていきたいと思います。
「僕自身としては、『役作り』をしている感覚というのがまったくないんですよね。というのも、役って自分一人で作り上げているわけではなくて、現場でいただくディレクションもあるし、掛け合いをする相手の役者さんもいるし、絵があれば『この動きをしたら、体のこの部分に力が入るだろう』と考えることもある。そうやって少しずつの断片を組み合わせていくと「この表現になっていく」という気がしているんです。プラレールのようなパズルみたいなものを少しずつはめながら、先の道を作っていく感覚に近いというか」
――じゃあ、わりと現場の中でできあがっていく感じが強い?
「もちろん、家でやっていく下準備も大切ではあるんですが、それはあくまでキャラクターの下地を作っておく感覚で、実際の表現のしかたが決まるのはやっぱり現場のほうが大きいと思います。台本の中にあるセリフがあったとして『こう言われたときにこのセリフを返すってことは、きっとこういう家庭で育ってきたんだな』とか、バックグラウンドを想像しておくことは、現場で『心の会話』をするために、最低限家でやっておくべきことなのかなって」
――前回のインタビューでも「心で会話する」ということを、すごく大事にしているというお話をお伺いしました。
「そうです。現実の会話の中に『押し引き』があるように、それはその場で会話をしている者同士のあいだでしか生まれないものなので、現場で心の会話をするためには、そのキャラクターがどんな人物なのかは理解しておかなければいけない。とくに、演じる声優はそのキャラに一番近い場所にいる存在なので、その理解ができていなければそもそもお芝居なんてできないような気がします」
――堀江さんにとって、お芝居として「この方の演技すごい!」と参考にしている方とかいらっしゃるんでしょうか?
「いや、もう僕からしたらどんな現場にいっても先輩方を見て、『うわ!この方のお芝居、エグっ...!』って感動してばかりなので、ほぼ全員ですよ......!すごすぎて、むしろ参考にできない方しかいない(笑)。だからなのか、『自分が、その方と同じお芝居ができるようになりたい』という感覚になることは少ないです。でも、それはお芝居そのものが、声優さんごとにそれぞれやり方も表現のしかたもまったく違うからだと思います。あとは、参考にしているわけじゃないけど、『刺激を受ける』という意味では僕は先輩と同じくらい、後輩声優たちに刺激をもらうことが多いかもしれません」
■新鮮なお芝居をし続けていたい
――後輩声優の方々からは、どんな刺激をもらっているんでしょうか?
「なかなか言葉にはしづらいんですけど、勢いとか、アグレッシブな姿勢とか、そういうイメージが近いかな。先輩方にももちろん同じようなアグレッシブさを感じることはあるんですけど、そこに関しては圧倒的に後輩から感じることのほうが多いです。駆け出しや新人声優たちの『俺がやってやる!私がやってやる!』という感じの姿勢って、やっぱりお芝居にも全面にその気持ちが出てくるんですよ。そういう気持ちでお芝居にのぞんでいたら、ずっと頭も回転し続けているだろうし、絶えず変化もし続けてるから、変に型にはまっていかないと思うんですよね」
――ひとつの答えに落ち着いていくのではなく、試行錯誤の繰り返し、という感じですね。
「そうですね。そういうお芝居を後ろから聞いていると、『あぁ、こういう何がなんでも前に進もうとする気持ちを、自分も10年、20年先まで持っていたいな』と、否が応にも感じてしまう。これはさっきお話した『Timeeに登録してみた』『新しい世界の人たちとにも触れてみたい』という気持ちともどこかで繋がっていると思います」
――夢中でいる感覚、どこか新鮮な気持ちでいられるのを求めている?
「そうかもしれません。個人的にはやっぱりその現場でしか生まれないような『新鮮なお芝居』ができたときは声優として、すごく嬉しい瞬間だと思うんですよね。意識的にやっていても、それを表現として出すってすごく難しい。だから、僕ら声優としてはどうやったらそれができるのかを、ずっと考え続けなければいけない。ちょうどいま、声優としての自分に改めて向き合うことが多くて、『どうしたら新鮮なお芝居ができる声優であり続けられるのか』っていうのが、自分の中で一つ、大きなテーマになっているような気がします」
――堀江さんが思う「新鮮なお芝居」をし続けるためには、どんなことが必要だと思いますか?
「自分が知らない人や世界に出会い、いろんな知識や言葉を取り入れて、つねに自分の気持ちを新鮮に保つこと。あとは、それができるように自分の中にいつでも余白を作っておくことじゃないかな。それは気持ちもそうだし、物理的な時間とか、行動という意味でもそうだと思います。余白があるから新しい行動ができるし、自分の世界を広げていける。そうして生まれた新しい自分から、また何か新鮮な表現が生まれてきて、それがどんどん面白いものになっていたらいいな。そんなお芝居がし続けられる声優でいられたら、嬉しいですね」
■"現実離れしたリアリティ"が魅力|「カラオケ行こ!」岡聡実
――この夏にアニメが放送される「カラオケ行こ!」では、主人公・岡聡実を演じられます。まずは、作品の魅力について教えてください。
(C)2025 和山やま/KADOKAWA/アニメ「カラオケ行こ!」製作委員会
「どこかリアリティを感じさせる和山やま先生の絵のタッチと、中学生とヤクザが一緒にカラオケに行くというありえないシチュエーション。一見、ミスマッチで現実離れしたように見えるのに、『あれ、こういうことって本当に起こり得るんじゃない』と思わせるほどのシュールな世界観が魅力ですよね。矛盾するようだけど、『現実離れしたリアリティ』というか。演じ手として、観ている方にその世界観をしっかりと感じてもらうために、『いかにリアリティや現実味を表現できるか』というのが、かなり重要だと思いましたし、だからこそ、声優として参加するのがとても楽しみな作品でした」
――確かに「現実離れしたリアリティ」という表現が、すごくしっくりくる作品です。
「そんなことをずっと考えながらアフレコにも望んでいたのですが、最近、取材を受ける中で、どうやら成田狂児役の小野大輔さんも同じような思いをもって収録していたということがわかって。『ありえないシチュエーションだけど、視聴者の方に、そこに現実味を受け取ってもらえるようなリアリティを追求していた』とお話しされていたことがあったんです。僕も、とくに『会話』が、この作品の中でもすごく重要なパートだと思いながら収録していて、とくにアフレコ中にそういう会話をしたわけじゃないんですけど、小野さんと同じことを意識しながらお芝居していたのは、後から聞いて嬉しかったですね。ずっと考えていることだったので」
(C)2025 和山やま/KADOKAWA/アニメ「カラオケ行こ!」製作委員会
――お二人とも同じ方向を向いて、お芝居していらっしゃったんですね。何か、アフレコ時のエピソードなどはありますか?
「あの作品自体、舞台は大阪を参考にしているんですけど、成田狂児の所属している組のヤクザとして出演していただいている声優のみなさんが、関西出身の方が多くて、アフレコの合間の雑談も関西弁になってるんですよ(笑)。ちょうど岡くんがその方々がカラオケをしている店に迷い込むシーンの回で、本当、現場もベテラン声優の方々のリアルカラオケ状態。あのおじさま方に囲まれたときは、本物っぽい雰囲気があって、リアルに怖かったです......(笑)」
――アニメ化の前に実写映画化もされていましたが、そちらはご覧になりましたか?
「それが、ちょうどこの作品のオーディションを受けたときに、映画が公開されているくらいの時期だったんですよ。でも僕、オーディションって大体は落ちるものだと思っていて、『カラオケ行こ!』も『どうせ落ちるでしょ』という気持ちでいたんです。これは声優あるあるだと思うんですが、自分がオーディション落ちた作品って、なかなか原作とか映画とかを観られるようなメンタルじゃなくて(笑)。そのまましばらく経って映画公開が終わり、終わったタイミングで『受かりました』という知らせをいただいたので、結局観られていなかったんです(笑)」
――そんなあるあるがあるんですか(笑)。でもそれだけ厳しい世界だということですよね。
「観たほうが良かったかなとも思ったんですが、おそらく観たら観たで、齋藤潤くんのお芝居を頑張ってなぞろうとしちゃいそうだなって。結果として、アフレコ前には観なくて良かったなといまは思っています。そしてアフレコが終わった直後、すぐ観ました!(笑) 映画として相当面白くて、『あれだけ盛り上がってたの、わかるなぁ』っていう感じでした」
――アフレコ、終わってから観たんですか......! じゃあ、齋藤潤さんのお芝居と照らし合わせる部分があったり?
(C)2025 和山やま/KADOKAWA/アニメ「カラオケ行こ!」製作委員会
「確かに、見ていると自然とそれは感じてしまいますよね。でも、結果的には齋藤くんの岡くんと、僕の演じた岡くんでは、結構違いがあるんじゃないかな。もちろん、僕のお芝居だけじゃなくてそもそもアニメと実写ということで、絵や演出、見せ方も大きな違いがあるので。だから、映画を楽しんでいただけた方にもわりと別物としてアニメ版は楽しんでいただける内容になっているのではないかと思います。少なくとも僕は、全然別物として楽しむことができたので!」
――それは、これからのアニメ版の放送がますます楽しみになるメッセージですね!
■僕の中での真のヒロインは京太郎|「僕の心のヤバイやつ」市川京太郎
――大人気の「僕の心のヤバイやつ」(以下、『僕ヤバ』)では重度の中二病である主人公・市川京太郎を演じられていて、「堀江さんといえば」でみんなが思い浮かべるキャラクターでもあります。作品全体を通して、堀江さんはどんなところに魅力を感じていますか?
「やっぱり一番は、市川京太郎と山田杏奈の関係性ですね。明らかにお互いに両思いなのに、なかなか素直になれず、でも少しずつ近づいていく。そのもどかしさがたまらないですよね。アフレコ現場でも、音響監督さんとかスタッフの方々がよく『早くくっついちゃえよ!』って茶化すように言ってて(笑)。でもほんと、それくらい現場にいるみんなも、ふたりを見守る感情になっちゃうんですよね......!」
(C)桜井のりお(秋田書店)/僕ヤバ製作委員会
――確かに、視聴者としてはあの"距離感"にやきもきしますよね。
「そうなんですよね。でも、だからこそあの作品では結構、会話のテンポが重要で。ふつうのラブコメだとわりと爽快感があってテンポよく進む作品が多い気がして、それはそれですごく面白いんですけど、『僕ヤバ』だとカット割が少なめでその分、キャラクターの心情を重視したお芝居ができるんですよね。だから、ちょっとした言い回しや沈黙の中にも、キャラクターたちの思いが詰まっている気がします。市川のモノローグも多い作品なので、声優としても演じがいがありますし、自分自身も気持ちが揺さぶられるシーンが多かったです」
――市川京太郎というキャラクターを演じるうえで、どんな人物だと捉えていましたか?
(C)桜井のりお(秋田書店)/僕ヤバ製作委員会
「まず第一は、『不器用な子』ですね。頭の中ではいろいろ考えてるんだけど、それをうまく表現できなくて、結果的に思わぬ方向にことが進んでしまう。ネガティブ思考で痛々しい部分も多い、だけど本当はめちゃくちゃピュア。それがなんともかわいいんですよね。なんか......ハムスターみたいで(笑)」
――ハムスター(笑)。
「僕としては、真のヒロインは、杏奈ちゃんじゃなくて京太郎なんじゃないかと思っています(笑)」
――前々回のインタビューで、堀江さんも学生時代は中二病気質だったとおっしゃっていましたが、京太郎にはシンパシーを感じていましたか?
「そうですね。僕の学生時代もだいぶ京太郎寄りだったので、共感する部分は大きかったと思います。というのも、京太郎のセリフに関しては、どういう背景や気持ちから彼がそういうセリフを話すのか、理解するまでにあんまり時間がかからなかったんですよね。僕も中高生の頃って、世の中をちょっと斜めに見ていたり、人と距離を取ってしまったりすることが多かったので、そういう自分の中にある経験とか感情の部分で、京太郎に重なるものはあったのかなって」
――放送後、SNSなどでの反響も多かったと思います。印象に残っている声はありますか?
「いちばん覚えてるのは、劇場版の制作が発表されたとき、かな。Xに『劇場版の制作、決まりました!』って投稿したら、すごくたくさんの方から『また市川と山田に会えるの嬉しい!』『歓声上げました!』って、たくさんの方から喜んでいただけるコメントが届いたので、それだけ多くの人が京太郎と杏奈ちゃんの二人を見守ってくれていたんだなと思うと、すごく嬉しい気持ちになりましたね」
――改めて、この作品の見どころを教えてください!
(C)桜井のりお(秋田書店)/僕ヤバ製作委員会
「やっぱり"等身大の青春"ですね。キラキラしてるわけじゃないし、ドラマチックな展開があるわけでもない。でも、不器用ながらも誰かを想って行動する気持ちとか、言葉にならない感情がふと溢れてしまう瞬間とか、そういう"心の機微"がとても丁寧に描かれています。京太郎と杏奈ちゃん、だんだんと気持ちが強くなっていく二人の関係性の変化に注目しながら、ぜひこれからも温かく見守っていただきたいなと思います!」
取材・文/郡司 しう 撮影/小川 伸晃