『ウマ娘 シンデレラグレイ』伝説の名馬オグリキャップがモチーフとなった主人公の物語、圧巻のレースシーンを見逃すな!【サンキュータツオ】

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サンキュータツオ (芸人、日本語学者)

芸人、日本語学者。芸人として活動するかたわら大学教員を務め、アニメなどのサブカルチャーにも造詣が深いサンキュータツオが、今クールのおすすめアニメを紹介する。

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『ウマ娘 シンデレラグレイ』伝説の名馬オグリキャップがモチーフとなった主人公の物語、圧巻のレースシーンを見逃すな!【サンキュータツオ】

『ウマ娘』を"競走馬がモチーフのコンテンツ"と一言で片付けてしまうと、この作品の魅力を十分に伝えられない。確かに登場人物たちは、実在する競走馬をモチーフとした、人の姿をした少女たち(=ウマ娘)で、トレーニングセンター学園(通称「トレセン学園」)で共に学ぶ学園ものという体裁ではある。しかし、そこには作品オリジナルのウマ娘もおり、物語をより楽しめるものにしている。

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(C)久住太陽・杉浦理史&Pita・伊藤隼之介/集英社・ウマ娘 シンデレラグレイ製作委員会 (C) Cygames, Inc.

『ウマ娘』とは史実に基づいた"大河ドラマ"である!

アニメのウマ娘は実在のレースを走り、史実をなぞっていくのが基本だが、ゲームでは特定のウマ娘を育成し、史実以上の結果を残すことも可能である。平たく言えば、陸上競技のトレーナーと選手のような関係を構築していくわけだが、ゲームをする人もアニメを見ている人も、これをただの陸上競技だとは思っていない。どちらかと言うと、史実に基づいた"大河ドラマ"を見ているような気持ちなのである。それが『ウマ娘』!

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(C)久住太陽・杉浦理史&Pita・伊藤隼之介/集英社・ウマ娘 シンデレラグレイ製作委員会 (C) Cygames, Inc.

そして、このクロスメディアコンテンツのコミカライズの1つである『ウマ娘 シンデレラグレイ』は、伝説の名馬オグリキャップをモチーフとした主人公の物語である。地方競馬から中央競馬に移籍し、多くの観客を魅了した、あの"芦毛(あしげ)の怪物"オグリキャップは、競馬に詳しくない人でも、その名を聞いたことはあるだろう。平成の競馬ブームをけん引した大下克上物語、地方でのデビューから天下を取るまでのストーリーが丁寧に描かれる。信長や秀吉の出世物語を見るような楽しさにあふれた『シンデレラグレイ』が、ついにアニメ化されたのだ。

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(C)久住太陽・杉浦理史&Pita・伊藤隼之介/集英社・ウマ娘 シンデレラグレイ製作委員会 (C) Cygames, Inc.

手に汗握るレースシーンは健在、「怪物性」の描き方に注目!

『ウマ娘』シリーズの見どころの一つは、実際のレースシーンの展開に忠実なレース。場合によっては、実況までも再現される念の入れようだが、そんな競馬ファンも納得の作りこみを知らずとも、手に汗握ることは必至だ。

800m以上のカーブのついたコースを、人間で言うところの100m走よりも速い、現実にはないスピード感で描く。ただ、全員が速く走っているとほぼ差がなく見えるため、普通であればスピード感は表現しにくいが、『シンデレラグレイ』では周囲の風景や地面を蹴り上げる力の強さ、風の描写などでスピード感を表現。たまに定点カメラからウマ娘たちが走る様子を捉えて、特急列車が走っているかのようなスピード感の表現に成功している。アニメ制作チームの演出の妙が光る。

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(C)久住太陽・杉浦理史&Pita・伊藤隼之介/集英社・ウマ娘 シンデレラグレイ製作委員会 (C) Cygames, Inc.

さらにはレース中にスパートをかけたり、心理戦で相手を出し抜こうとしたりといった、「内面」と「実際」も表現する。走っている一人だけではなく、何人ものウマ娘たちのそれを描いているのだ。これも下手にやると、ただ理解が追い付かない忙しい映像になってしまうが、主人公のオグリキャップを軸に、周囲のウマ娘たちの思惑を表現しているので分かりやすい!

"怪物"を主人公とすると、常識を超えた能力をどう描くかが難しいのだが、周りの人たちがその才能に触れて何を感じたかという心理を描くことで、「怪物性」が浮き立つように作られている。原作もさることながら、脚本、アニメ演出が一体となったレースシーンは激アツだ!

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(C)久住太陽・杉浦理史&Pita・伊藤隼之介/集英社・ウマ娘 シンデレラグレイ製作委員会 (C) Cygames, Inc.

走れるから走る――人々の心をつかむ非エリートの応援歌

オグリキャップが、なぜ人々の心をつかんで離さないのか。それはエリートではないからだろう。カサマツレース場というローカルシリーズでキャリアを終えるかもしれなかった存在が、日本中の誰もが知る存在へと上り詰めていく。 しかし彼女は、なぜそんなに走るのか、と聞かれて劇中でこう言うのである。「走れるから走る」。

努力を努力とすら思っていない、エリートのように宿命も感じることなく、欲や名声のために走っているわけでもない。ただ走れるから走っている。その楽しさに、正直で、けなげでひたむきな姿に、心打たれるのだ。ぜひアニメでも『ウマ娘』の心を堪能してほしい。

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