確かな心が感じられるロボットたちの行動に考えさせられる「アポカリプスホテル」【松井玲奈】
アニメ 見放題連載コラム
2025.05.29

人でもアニメでも、「意外性」はとても大切な要素だと思います。真面目そうな人が実はうっかり者だったり、終末世界で営業を続けるホテルがあったり......。そんな驚きとユーモアに満ちた作品がオリジナルTVアニメ「アポカリプスホテル」です。
「アポカリプス」は"世界の終末"を意味する言葉。そこに「ホテル」が掛け合わされることで、どんな物語が待っているのかと強く興味を引かれます。
独特な世界観と舞台設定で描くコメディー
物語は、第1話「ホテルに物語を」から始まります。舞台は終末後の地球、かつての銀座に建つホテル『銀河楼』(ぎんがろう)。100年経った今も美しく整えられたこのホテルで、人類の帰還を信じて働き続けるのがホテリエロボットのヤチヨです。
冒頭では、ホテルのイメージビデオのような美しい映像とともに、ヤチヨがホテルの理念を語ります――愛すべきお客様にハートフルな今日と最高の笑顔を。清潔な施設、楽しげに滞在する人々、役割を果たすロボットたち......。しかし、そんな映像の中に突然挿入されるのは、人類が絶滅の危機にひんしているという不穏なニュース。原因は、シダ植物による大気汚染。人類は脱出計画を進め、やがて地球から姿を消していきます。
人類が消えた世界でも、銀河楼は変わらず営業を続けています。ある日、来客のないはずのホテルで「シャンプーハットが消える」という緊急事態が発生! ロボット総出で探し回るも、シャンプーハットは意外なところで見つかります。しかし、それだけでは終わりません。なんと、誰も来るはずのないホテルに、本当にお客様が現れるのです! 彼らは人類ではなく、地球外生命体でした。
お客様を前に試されるおもてなしの精神
やって来た地球外生命体は宇宙語を話すので、世界各国の言語に対応できるヤチヨにもなんと言っているかは分かりません。そんな状態でも相手が何を求めているか、どうすれば気持ち良く滞在していただけるかを考えるヤチヨたち。
またある時は、人類のふりをした「タヌキ星人」の家族がホテルを訪れます。自らの星を追われてやって来た彼らは、ヤチヨの「お客様ファースト」の姿勢につけ込み、室内に溜めフンをしたり、砂をまき散らしたりとやりたい放題。お客様を大切にする気持ちと、ホテルを守りたいという思いのはざまで、ヤチヨが出した意外な決断も見どころです。
コメディーと深いテーマの絶妙なバランス
作品には、随所に笑えるシーンが散りばめられています。例えば、タヌキ星人の女の子・ポン子が未確認生物に飛びかかろうとして、結局尻尾を巻いて逃げる場面や、ヤチヨがショートするドアマンロボに水をぶっかけるシーンなど。登場人物たちは真剣そのものなのに、視聴者は思わず笑ってしまう絶妙なコメディーが魅力です。また、画面の雰囲気や作画が、シーンによってがらりと変わる演出も秀逸。静かな空気感と、翻弄(ほんろう)されるヤチヨのハチャメチャなギャグのギャップが癖になります。
各話には、テーマや信条がしっかりと据えられています。特に印象的なのは、第4話「食と礼儀に文化あり」。ポン子が未確認生物を狩り、その命をいただくこの回は「いただきます」「ごちそうさま」という言葉の意味を、命の循環を通して深く描いています。この瞬間、コメディーの中に確かな"生"と"死"が浮かび上がり、思わず心を打たれます。この第4話、あまりにも作品のテーマと描き方が素晴らしく、ここでさらにこの作品が描こうとしているテーマの核が何かを深く考えるようになりました。
全く予想できない今後の展開に期待!
「アポカリプスホテル」は完全オリジナル作品で、次に何が起こるのか全く予想がつきません。新たなお客様がやって来るかもしれないし、人類が帰還する可能性もまだある。ロボットたちには感情がないはずなのに、彼らの行動には確かな心が感じられます。
お客様の心を慮る(おもんぱか)る姿勢が、たとえプログラムされたものだとしても、ヤチヨは確実に変わってきています。宇宙人との出会いを通じて、彼女のデータベースには何か新しいものが書き加えられているのではないでしょうか。今期大注目の「アポカリプスホテル」。今後の展開が楽しみでなりません。