新日本プロレスのエース・棚橋弘至が語る、引退への思い【インタビュー・後編】
スポーツ 生中継インタビュー
2025.07.05
2026年1月4日、東京ドーム大会で26年間の現役生活に別れを告げる、プロレスラー・棚橋弘至。2023年からは新日本プロレス社長にも就任して多忙を極める棚橋選手に、いよいよ半年後に迫った引退試合への思いについて語ってもらった。
――来年1月4日の引退に向けて、現在は「棚橋弘至ファイナルロード」として、さまざまな大会が開催されています。その中で、棚橋選手自身が新日本プロレスに残していきたいことは何かありますか?
「僕はデビューまもない時期に『冬の時代』を経験して、客席のファンがどんどん減っていったのをリアルタイムで見ていて、さらに数年前のコロナ禍でまた、動員が減ってしまった体験もしました。今も少しずつ回復しつつありますが、それでも一番多かった頃には及んでいません。『冬の時代』の後、『V字回復』と言われましたけど、今はまたそれを再現しないと、悔しくてやりきれないんです。だから、もう一回、引退までにプロレスラー・棚橋の全キャリアをかけてさらに動員数を伸ばし、後輩たちにつなぎたいという思いはありますね」
――棚橋選手は、「V字回復」に挑戦するのがお好きなんですね?
「はい、逆境が大好きなんです。今まで、あまりに何度も逆境に挑みすぎて、むしろ逆境じゃないと頑張れなくなっちゃったほどで。完全に"逆境体質"ですね(笑)」
――引退試合まで残り半年余りです。
「たまに引退までの残り日数を見て『うわっ!もうそんなに短いの...』ってなります(笑)。とはいえ、僕の中には安心感しかないんです。もう、次の世代が『俺たちの時代だ!』って育ってきているので。ただ、プロレスラーとしてリングに上がって、応援してもらって、自分が持っている以上の力を引き出してもらえる、あの空間に出られなくなるんだなって思うと、やっぱり寂しいです」
――試合から離れる生活というのは、想像できますか?
「昔みたいにプロレスを見る側に戻るだけの話かなって気もしますし、リングが懐かしくなるかもしれないし...。ひょっとしたら、来年以降、新日本プロレスのリングに『ザ・エース』って名前の謎のマスクマンが現れるかもしれないですね(笑)」
――引退試合は「団体最高峰のベルトをかけたラストマッチ」としてIWGP世界ヘビー級選手権試合を希望されています。
「若い頃からずっと言ってきましたが、『僕が引退するのはIWGPのチャンピオンになるのを諦めた時だ』と。だから、自分の信念を貫くのであれば、最後はタイトルマッチで残念ながら敗れて引退する、というのが理想なんですけど。まあ、勝ってしまう場合もあるので(笑)」
――もし勝ってしまったら、どうしましょうか?
「『やっぱり引退しません!』って言うしかないですよね(笑)。たぶん、東京ドーム中の観客の皆さんから、『金返せ』コールが巻き起こると思いますけど」
――それでも、やっぱり最後はチャレンジして終わりたい?
「そうですね。最後の最後まで上を見上げて、『一番になりたい!』っていう気持ちを持ったまま引退を迎えたいです」
――社長の立場として、棚橋選手がいなくなった後の新日本プロレスに必要だと思うことは何かありますか?
「やっぱり一番は、日本人なら誰もが知っているようなプロレスラーが、もっと出てくることですね。今、新日本プロレスには、20代や30代の素質のあるいい選手がたくさんいますが、この3〜4年ぐらい、コロナ禍で露出も減ってしまって。ありがたいことに、今の新世代、みんなビジュアルがいい。それぞれタイプも違うから、絶対に人気が出ることは間違いないと思っているんですけどね。ただ、棚橋を超えられちゃうのは悔しいな(笑)」
――ちなみに、棚橋選手を超えちゃいそうな後継者はいますか?
「全員に期待していますよ。次のエースの立場というのは、誰かに与えられるものではなくて、自分で勝ち取るものなので。ファンからの支持も含めて。普段の練習から、試合内容、試合後のコメント、SNSでの発信、志というのはそういうところに全部出ますからね。もちろん、時にはブーイングを受けることも必要です。かつての僕もそうでしたけど、賛否あってこそ本物だと思いますし、そこに必ず熱が生まれてきますから」
――次世代のスター誕生に期待したいところですね。
「誰が飛び出すか、楽しみです。ちなみに、僕は自分のことを『100年に一人の逸材』って言い続けてきましたけど、新日本プロレスの歴史は53年で、そうすると、あと47年は逸材が出てこないってことになってしまうので、それはそれで社長としては非常に困るので...。引退に向けて『すみません、僕は50年に一人の逸材でした!』って言い直そうかなと(笑)」
――最後に読者の皆さんへメッセージをいただけますか。
「僕は学生の時に、プロレス好きだった祖母と一緒に初めてプロレスを見て、『あ、こんな面白いものが世の中にあるんだ』と知って、そこから人生が変わりました。皆さんにも、選手が頑張っている姿、やられても何度も立ち上がる、決して諦めないエネルギーみたいなものを新日本プロレスから受け取っていただきたいですし、そのエネルギーを皆さんの普段の生活に生かしてもらえたら、僕がプロレスラーとしてこれまで頑張ってきたかいがあるかな、と思います」
――素晴らしいメッセージ、ありがとうございます!
「いや〜、やっぱり棚橋は、いいことしか言えないんですよ(笑)」
写真/中川容邦 取材・文/八木賢太郎

インタビュー
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