木村拓哉&綾瀬はるかが映画『レジェンド&バタフライ』で表現した織田信長と濃姫の夫婦の物語

木村拓哉&綾瀬はるかが映画『レジェンド&バタフライ』で表現した織田信長と濃姫の夫婦の物語

映画『レジェンド&バタフライ』が2026年1月1日(木・祝)に時代劇専門チャンネルで放送される。

同作品は、東映70周年を記念して製作された総製作費20億円の歴史大作で、主演を木村拓哉、ヒロインを綾瀬はるかが務め、織田信長と正室・濃姫の知られざる物語を描く。

政略結婚で結ばれた格好ばかりの信長(木村)と密かに信長暗殺を目論む濃姫(綾瀬)。二人はまるで水と油のように全く気が合わない関係だった。そんなある日、濃姫の祖国で内乱が起こり父・斎藤道三(北大路欣也)が命を落とす。自身の存在意義を失い自害しようとする濃姫に、再び生きる意味と場所を与えたのは信長だった。一方、信長も大軍に攻められ窮地に立たされた時、濃姫から鼓舞されたことで、敗戦濃厚な桶狭間の戦いを奇跡的に勝利する。これをきっかけに芽生えた絆は強くなり、いつしか天下統一が二人の夢となっていく。

■古沢良太が織田信長の半生を夫婦の視点で再構築

これまで多くの作品で描かれてきた織田信長の半生だが、同作品は数々の人気作を手がける脚本家の古沢良太が、いがみ合う信長と濃姫が次第に理解を深めていき、互いにとってかけがえのない存在になっていく様子を描いた"夫婦の物語"として再構築している。

特徴としては、時代のカリスマとして描かれることが多かった信長を"格好ばかりの普通の人間"として描いているほか、濃姫と両者ともに素直になれない性格のためなかなか円満にはならないところや、あくまで二人の関係性が対等であるところなど、随所に古沢独自のエッセンスが盛り込まれており、信長&濃姫を題材にした恋愛物語・人間物語として多くの人の共感を得る内容となっている。

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■"レジェンド"の男を一人の普通の男として描き出す

脚本のチャレンジングな姿勢に呼応するように、役者陣の演技も挑戦的ですばらしい。特に木村と綾瀬は、まさに"歴史に残る名演"を見せている。木村は、これまでになかった斬新な切り口で描かれる信長を、"レジェンド"の名にふさわしくカリスマ性を保ちながら人間らしい人物として表現。1998年に放送されたSPドラマ「織田信長 天下を取ったバカ」(TBS系)でも演じた信長とはまた違ったアプローチで、共感性の高いキャラクターとして作り上げている。

特に、濃姫が一枚上手をいく場面や、取っ組み合いでのされてしまうシーン、取り巻きには見せられない情けない姿を見られてしまった時の反応など、強がりながらも弱い一面を見せる人間味あふれる姿を披露。一方で、信長が動くだけで無意識に目で追ってしまう誘引力は、ただ移動するのではなく"意思を持って歩いている"というように、役を自身に落とし込んで演じる木村だからこそ生まれているものだろう。

そんな中で、天下統一街道をまい進するにつれ、次第に人間味が削がれていき、"人"ではなく"魔王"に堕ちていくさまは圧巻。"戦国の世に狂わされた一人の男"として表現し、怖さと同時に悲しさや切なさまでも感じさせる芝居を見せている。

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■信長に並び立つ対等なキャラクターとしての濃姫を熱演

対する、綾瀬は画面に登場するだけで放たれる木村の存在感に負けることなく、気高く凛とした濃姫を一貫して演じ続け、「信長と対等である」というキャラクター設定を成立させている。

役を自分の中に落とし込む巧さと持ち前のオーラで、つい"当て書き"かと思わせられてしまう木村が演じる信長と対等に見せるのは、言葉以上に至難の業。濃姫が信長を引っ張る場面もあるため、同作の濃姫役においては「木村に食われない」が、演じる上で最重要ポイントなのだが、そのハードルをしっかりと越えている。

取っ組み合いのシーンや、街中で襲撃されるシーンでは、見事なアクションを見せたかと思えば、道三の死を知って自暴自棄になるも、気位の高さは損なわない芝居で姫としての悲しみを表現している。気落ちした時も病床に伏した時も、常に目と声に気品を宿して、か弱さを見せないところに、念入りな役作りを感じることができる。

「信長とその妻の夫婦の話でしょ?」と軽々しく決めつけることなかれ。敵国同士の嫡男と姫の結婚、という背景から生まれる二人の関係性と、時間を経て変わっていくさま、素直になれない二人の行き着いた結末など、歴史上最も有名な人物の半生を二人の役者が見事な演技で分厚い人間ドラマに昇華させている。ぜひともご覧いただきたい。

文/原田健

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