山田洋次監督「TOKYOタクシー」出演の倍賞千恵子にインタビュー「ふたりの旅の行方から何かメッセージを受け取ってほしい」
映画 インタビュー
2025.10.21
松竹創業130周年を記念して作られた映画『TOKYOタクシー』が11/21(金)に公開される。メガホンを取ったのは、時代を超えて人々のつながりを描き続けてきた山田洋次監督。本作では、山田監督作品には欠かせない存在である名女優、倍賞千恵子が主演を務める。
――フランス映画『パリタクシー』を原作に山田監督と朝原雄三さんが脚本を書かれましたが、最初に脚本を読んだ時の印象は?
「最初に『パリタクシー』の映画を見て、重めの内容にも関わらず、すごく満たされた気分になったんです。それが不思議でしたね。これを日本に置きかえて映画化したら、どうなるんだろうと思いながら脚本を読んだら、主人公が東京中をタクシーでいろんな思いを抱えながら旅行をするという素晴らしい映画になっていたんです。『え~! こんな風になるの?』と驚きました(笑)。しかも、タクシーの出発点は葛飾区柴又の帝釈天前。読んでいて楽しかったです」
――山田監督から役作りの要望はありましたか?
「山田さんからは、挑戦的な衣装とメーク、髪型という要望がありました。演じながらそぎ落としたり、足したりして、つっけんどんでぶっきらぼうで、何かを抱えているようなキャラクターを作っていきました。それが木村(拓哉)さん演じる浩二さんと話すなかで段々ほどけていく。ほとんどが木村さんと2人のお芝居でしたから、うまくいく度にふたりでハイタッチしていました」
――車中での撮影が多かったと思いますが、お芝居は普段と違いましたか?
「車の中だから山田さんの声がなかなか聞こえないんですよね。それで車内にマイクを入れてもらいました。最初は扱いに慣れなくて山田さんの大きな声が急に車内に響いたことも(笑)。探り探り進めました。普段は目を見て話す場面でも車中では運転手とお客さんなので、私はいつも彼の後ろ姿を見ながら話すんです。彼もバックミラー越しには見えるけど、こちらを振り返れないし、カットによってはバックミラーが見えないこともありましたね。撮影になるとさまざまな方向から撮るのでいつもと勝手が全く違いました」
――倍賞さんご自身の思い出の東京の風景や思い出はありますか?
「生まれは東京の巣鴨なんですが、戦争で田舎に疎開していた時期があって、東京に戻ってきたのは小学生の時です。当時、滝野川という下町に住んでいました。ベルが鳴ってから走っても間に合うくらい小学校から近い場所でしたね。家を抜けると坂道になっていて、二手に道が分かれる場所があるんです。その片方の道を行くと小学校なんですが、その通学路の風景が今も思い出に残っていますね。学校の近くにはガラス工場があって、帰り道にガラス屋さんの作業されてる様子がおもしろくて、ずっと見ていた思い出があります。学校の近くに住む友達のところに行くときには家が密集して屋根が重なり合っているので、傘もいらなかったです。まさに昔の下町の風景でした」
――これから「TOKYOタクシー」をご覧になる方々にメッセージをお願いします。
「見た方が何かメッセージを受け止めてくださればいいな、と思います。試写会の感想では"泣いた"という声が多いと山田さんから伺いました。ふたりのタクシーの旅が終わりにさしかかる場面で泣かれている方が多いとのことで、結局最後はひとりになる寂しさのようなところに共感していただけたんじゃないか、と山田さんもおっしゃっていました。みなさんがそれぞれ、すみれさんの心を感じ取っていただけるとうれしいですね」
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写真/中川容邦 取材・文/水本晶子
スタイリスト/小倉真希 ヘアメイク/徳田郁子