30年経っても色褪せない傑作...本木雅弘主演『GONIN』【尾崎世界観連載】

尾崎世界観

尾崎世界観 (クリープハイプのボーカル・ギター)

ロックバンド「クリープハイプ」のボーカル・ギター。 小説『転の声』が第171回芥川賞候補作に選出。小説家としても活躍する尾崎世界観が、好きな映画を語りつくす。

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30年経っても色褪せない傑作...本木雅弘主演『GONIN』【尾崎世界観連載】

今回選んだ『GONIN』は、小学生の頃、友達がレンタルビデオ店で「観たい」と言っていたんです。当時、VHSのパッケージを見て、「危なそうな映画だな」と思ったのを覚えていますね。「小学生が観るものじゃないな」って。なので、ちゃんと観るのは今回が初めてだったんですけど、すごくいい映画でした。俳優さん一人ひとりが「芝居で戦っている」という感じがするんです。それぞれの俳優さんが、過剰なくらいに熱量を注ぎ込んでいる。そのエネルギーが作品全体に充満していて、すごくよかったです。

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5人の男と暴力団の間に巻き起こる争いが物語の軸になっているんですが、映画が公開されたのが1995年で、作品の舞台となっているのも、おそらくそれくらいです。この作品が持つエネルギーには、その時代背景も影響しているような気がします。バブル崩壊後とは言え、まだ日本も、夜の街も、元気があった。あの時代の東京の雰囲気はいいですよね。当時、まだ子どもで、自分にはちゃんと見えていなかった時代の空気が、この映画には漂っています。それに、画が綺麗ですよね。もちろん複雑に入り組んだストーリーも、暴力描写も、登場人物一人ひとりのかっこよさも印象的ですが、それと同じくらい、綿密に考えて撮ったんだろうなと思わせる画の美しさが、この映画の魅力だと思います。いいシーンがいっぱいあるんです。佐藤浩市演じるディスコオーナーと、本木雅弘演じる男娼のふたりがトイレで抱き合ってキスをするシーンなんて、本当に良いシーンだなと思う。もちろん、本人たちは動いているけれど、1枚の絵でできているような強いショットです。それに、ビートたけし演じる殺し屋と本木雅弘がバスの中で殺し合った末に、死んだふたりを乗せたままバスが出発するシーン。あれもすごくいいシーンだなと思います。

下手なホラー映画よりも怖いと思わせるシーンもあるし、ファンタジーのような要素もある。でも、作品全体がヒリヒリしているから、変に冷めることもない。ちょっと抜くところもあるんですよ。ビートたけしが可愛がっている弟分が殺された時、激しくうろたえながらも、ずっと傘はさし続けている(笑)。どこか滑稽だけれど、その滑稽さに、真実があるような気もする。思えば、ビートたけしの弟分役を演じているのは、横山やすしの息子の木村一八なんですよね。その配役も、考えてみれば深いです。

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あと、この映画のよさは、説明が少ないところにもあると思います。かなり間引いているんですよね。今の映画はもっと説明的だと思う。でも、この映画はそういうことをやっていない。佐藤浩市と本木雅弘の関係性もそうだし、ビートたけしと木村一八のなんとも言えない関係性も、説明されていないからこそ、「このふたりの間には何かが芽生えているのかな?」と、観る側に想像させる。どこか「言いたいことがあるのに我慢している」と感じさせるものが、この映画にはある。これはきっと、監督と脚本を手掛けた石井隆の作家性なのかもしれないですね。『ラブホテル』という、石井隆が脚本を手掛けた、相米信二監督の映画が好きなんですけど、その作品にも、「あまり言葉にしない」独特な石井隆らしさがあるように感じます。どこか昭和っぽいというか、今の時代とは逆行している、この空気感がすごく好きです。

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『GONIN』には、魅力的なナルシシズムがあると思います。それは「男同士の連帯」という部分でもそうだし、ひとつの美しいシーンに向かって、全員が突き進んで行くという部分もそう。ナルシシズムって、今は敬遠されがちだけれど、だからこそ今、映画を通してそれを観るのは特別な経験になると思う。『GONIN』は、俳優さんそれぞれの、まるでリングに上がって勝ちに行くような気迫の演技はもちろん、綿密に組まれた脚本や構図も素晴らしい作品です。小学生の頃、レンタルビデオ店で見た時は「怪しい雰囲気の大人の映画」という感じでしたが、30年経っても色褪せない作品であることは間違いないですね。

取材・文/天野史彬 撮影/中川容邦

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