カン・ハヌル×チョン・ソミン主演『ラブリセット 30日後、離婚します』は、夫婦なら痛いほどわかる!離婚したくなくなるラブコメディー【古家正亨連載】
映画 連載コラム
2025.08.02

古家正亨 (ラジオDJ/イベントMC)
ラジオDJ、イベントMC。 K-POPなどの「韓流」カルチャーを20年以上にわたり日本に紹介してきた古家正亨が、毎月オススメの韓流コンテンツを紹介。

古家正亨 (ラジオDJ/イベントMC)
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韓国映画といえば、現代史を中心とした硬派な作品や、痛いほどヒリヒリするような描写のあるアクション映画のイメージが日本では先行しているかもしれませんが、実はラブコメの宝庫でもあります。日本公開作の中で、ヒット作は決して多いとは言えませんが、『猟奇的な彼女』(2001)という大ヒット作もありますから、作品によっては、今後もヒットの可能性はあるジャンルと言えると思うんです。
今回ご紹介したいのは、そんなまさにラブコメ映画で、ビジュアルイメージ(ポスター)も、なんとなく『猟奇的な彼女』を想起させる作品、映画『ラブリセット 30日後、離婚します』です。
(C)CINEMA WOOLLIM, TH STORY AND MINDMARK
弁護士で知的なイケメンのジョンヨルと、名家のお嬢様でキャリアウーマン...でも、誰がみても自由奔放で一癖あるナラ。2人は、まるで映画のようなドラマティックな恋に落ち、やがて結婚。誰もが羨む美男美女カップルで、結婚生活も順調...かと思いきや、そもそも親の反対を押し切って結婚したが故に、当然発生する嫁姑問題や、生まれ育った環境の違いから、互いの価値観の相違によって耐え切れなくなり、ついに離婚を決意します。裁判所の調停によって、熟慮期間を経た30日後に離婚することが決定し、決定的な溝を埋められない2人でしたが、その帰り道に交通事故に遭ってしまいます(この辺り韓国ドラマ的ですよね)。ところが、病院で奇跡的に意識を取り戻したものの...なんと記憶喪失になってしまったのです。ジョンヨルとナラ、それぞれが、それぞれの家族のことも、結婚していたことも、離婚寸前で憎しみ合っていたことも含め、全ての記憶を失ってしまいましたが、こんな状況でも、両家の両親は何としても2人を離婚させたかったんですね。もちろん、記憶のない2人にそれを求めるのは無理なこと。そこで家族たちは、2人が結婚生活を営んでいた家で、もう一度2人を一緒に住まわせ、その記憶を呼び起こさせて、その上で離婚させようと画策するんですが......。
(C)CINEMA WOOLLIM, TH STORY AND MINDMARK
ここまで笑いに徹底している映画のラブコメは久々に見た感じです。ただ、韓国では公開時に「映画じゃなくて、テレビドラマで良かったのでは?」と評していたメディアもありましたが、現実問題として、ドラマではここまで振り切ったギャグ(と言うよりはブラックジョーク)は、韓国のテレビ放送では不可能に近く、"スクリーンで見て欲しい作品"と言うよりは"スクリーンでしか表現できない作品"と言った方が、この作品に関しては妥当な表現かもしれません。そのため、韓国を代表する演技派俳優のカン・ハヌルさんとチョン・ソミンさんというトップスターの無駄遣いではないかと評するメディアやSNSの書き込みもありましたが、この2人が徹底的にボケまくる、その突き抜けた演技は映画だからこそできたのではという評価もあり、(賛否両論飛び交った作品ではありますが)個人的には後者の意見に大賛成(だからこそ、ここで紹介しているわけですが)。僕は何度も大爆笑しながら、この作品を心から楽しめました。
(C)CINEMA WOOLLIM, TH STORY AND MINDMARK
もちろん、時間の関係上、なぜ2人がそこまでして離婚しなければならなかったのかという理由までは深く掘り下げられていないため、その点、納得できない人もいるかも知れません。でも、この映画からは、その点を除いても、「夫婦とは?」「人と人との関係とは?」ということを改めて考えさせられます。なぜなら、2人は記憶を失って、互いの普段見えなかった相手の良さに気づいていくからなんですね。
夫婦関係においてだけでなく、職場や学校といったコミュニティにおける人と人との関係って、普段はどうしても相手の悪いところ(というか自分が気に入らないところ)に目が行きがちじゃないですか。でもその見方を、悪いところではなく、良いところに目を向けるだけで、その相手に対する見方や考え方は大きく変わってくると思うんです。その点、この映画の原題は『30日(30일)』ですが、邦題の『ラブリセット 30日後、離婚します』の方が、映画の本質、その的を射ているように感じます。つまり、一回夫婦関係をリセットしたことで、その後は、相手の良いところを見ていこうとするジョンヨルとナラが、真の人間関係のあり方を見つけていくその過程に、多くの夫婦やカップルは共感するはずです。
(C)CINEMA WOOLLIM, TH STORY AND MINDMARK
夫役を演じるカン・ハヌルさんは、ドラマ「相続者たち」や「ミセン-未生-」、「椿の花咲く頃」といった名作を通じてファンになった人も多いと思いますが、元々ミュージカル界で活躍されていたんですよね。考えてみたら、この映画はどことなく演劇のような作りになっていると感じましたが、さまざまなステージでキャリアを築いてきた彼だからこそ、より魅力的に演じられた夫役だったかも知れません。
(C)CINEMA WOOLLIM, TH STORY AND MINDMARK
そして妻役のチョン・ソミンさんは、ドラマ「赤と黒」や「イタズラなKiss〜Playful Kiss」を通じて、デビューの頃から日本でも注目されている女優さんですが、最近では「還魂」や「となりのMr.パーフェクト」を通じて、その演技に魅了された人も多いはずです。韓国では"一重まぶたの女神・天使"と言われ、その鋭いまなざしは、独特な魅力と美しさを放っており、個人的にも大好きな女優さんですが、映画『パパは娘』で見せたコメディエンヌっぷりは、本作でも健在です。そんな2人、独特の味わい深いケミ(化学反応)を見せてくれますが、実は今回が初共演ではなく、2015年の映画『二十歳』で共演していて、今回、約8年ぶりの顔合わせになったこともその成功の背景にあるようです。
そして、個人的には、ジョンヨルの職場の後輩サンア役で、ガールズグループKARAのメンバーで、最近また日本で女優活動を本格的に再開した知英(ジヨン)さんも出演している点がうれしかったですね。決して出番が長いわけではありませんが、インパクトのある演技を見せてくれています。
(C)CINEMA WOOLLIM, TH STORY AND MINDMARK
韓国映画のコメディー作品って、結構、女性が男性よりも強く描かれるパターンが多いですが、この作品もご多分に漏れずナラの強さが際立つ作品です。でも、その強さは彼女のガラスのような(時に弱い)心を守るためのものでもあるようです(僕はそう感じました)。夫婦という他人同士が、互いを尊重し合いながら、時にはいがみ合いながらも、その関係を続けようとするのはなぜなのか。この映画は面白おかしく、その真髄について教えてくれているように感じるんです。最初から「離婚したい」と思って結婚するカップルなんていないわけですが、この映画を見たら「離婚する前にすべきことはある」と自戒することになるはずです。