石原裕次郎の演技と歌声に酔いしれる!『夕陽の丘』ほか、ムードアクション傑作選

石原裕次郎の演技と歌声に酔いしれる!『夕陽の丘』ほか、ムードアクション傑作選

"裕ちゃん"の愛称で親しまれた石原裕次郎は、180cm近い長身と飾らない明るさで一世を風靡(ふうび)。アメリカで「日本のジェームズ・ディーン」と紹介されるなど、昭和を代表する大スターとして愛された。1956年、兄・石原慎太郎の芥川賞受賞作を映画化した『太陽の季節』で鮮烈に銀幕デビュー。続く『狂った果実』では早くも主演に抜てきされ、『嵐を呼ぶ男』『俺は待ってるぜ』などヒット作を連発した。

しかし、国民的娯楽だった映画も、1958年をピークに徐々に陰りが見え始める。そこで製作されたのが、メロドラマをベースにアクション要素を加えた「ムードアクション」だった。裕次郎の甘い歌声と、浅丘ルリ子と織りなすメロドラマが、多くの観客の心を打ち、日活の新たなドル箱シリーズとなった。そんな石原裕次郎主演の傑作ムードアクション3作をご紹介。

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「夕陽の丘」
(C)日活

メロドラマとアクションが融合した革新作『夕陽の丘』

裕次郎主演のムードアクション作品群の始まりについては諸説あるが、日活が公式に「ムードアクション」のキャッチコピーを使ったのは、1964年公開の映画『夕陽の丘』が最初とされる。監督は松尾昭典、ヒロインは浅丘ルリ子。裕次郎と浅丘は、計37本で共演した名コンビだ。

物語の舞台は函館港。やくざの組員・篠原健次(石原)は、服役中の兄貴分・森川(中谷一郎)の愛人・聖子(浅丘)と関係を持ってしまう。やがて事件に巻き込まれた健次は、聖子の妹・易子(浅丘の二役)が暮らす函館へと逃げ込み、バーテンダーとして身を隠すことに――。劇中、健次がギター片手に歌う「俺は待ってるぜ」や、テイチク創業30周年記念として制作された浅丘とのデュエット曲「夕陽の丘」など、音楽とドラマが融合した本作は、ムードアクションの原点ともいえる作品として印象深い。

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「赤いハンカチ」
(C)日活

哀愁漂う主題歌と三角関係が紡ぐ名作『赤いハンカチ』

映画『夕陽の丘』に先駆けて、同じ1964年に公開された『赤いハンカチ』は、ムードアクションの最高峰とも称される名作。テイチク創業30周年を記念して制作された裕次郎の楽曲「赤いハンカチ」をフィーチャーし、石原裕次郎、二谷英明、浅丘ルリ子が織りなす三角関係を軸に、哀愁とドラマが交錯する。

舞台は横浜港。麻薬ルートを追う刑事・三上(石原)は、護送中の容疑者・平岡(森川信)を、同僚・石塚(二谷)をかばうため射殺してしまう。平岡の娘・玲子(浅丘)は、父を殺した三上を激しく憎み、三上は自責の念から警察を辞職。北海道の山奥で働く日々を送っていた。そんな三上の元に、神奈川県警の土屋警部補が現れ、玲子と石塚が結婚していることや、石塚が実業家として成功した背景に、3年前の事件が関わっている可能性を告げる。そして物語は再び横浜へ。ネオンきらめく夜の街で、流しとして「赤いハンカチ」を歌う三上の姿が――。

監督は『錆びたナイフ』『赤い波止場』など、裕次郎と最も多く組んだ舛田利雄。キャロル・リード監督、オーソン・ウェルズ主演の『第三の男』を下敷きに、運命に翻弄(ほんろう)される男女の哀切を描いた本作は、ムードアクションというジャンルの魅力を象徴する1本となっている。

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「夜霧よ今夜も有難う」
(C)日活

失われた時が動き出す愛の物語『夜霧よ今夜も有難う』

1967年、石原裕次郎は大作『黒部の太陽』の製作に注力するため、日活での映画出演を抑えていたが、その合間を縫って3月に公開されたのが、ムードアクションの集大成と名高い『夜霧よ今夜も有難う』。ハンフリー・ボガート主演の『カサブランカ』をベースに、浜口庫之助が作詞・作曲を手がけた同名の主題歌とともに、今なお多くの人に愛される作品だ。

舞台は横浜のナイトクラブ「スカーレット」。経営者・相良(石原)は、裏で困窮者の密出国を手助けする"逃がし屋"としての顔を持っていた。そこに現れたのが、かつての婚約者・秋子(浅丘)。彼女は革命家の夫を国外へ逃がしてほしいと依頼するが、相良は4年前に自分の元から突然姿を消した秋子への複雑な思いから、その願いを拒絶。"失われた1500回の昼と夜"とでもいうべき、4年間の空白が二人を隔てていた。そして、秋子の失踪には隠された真実が――。主題歌「夜霧よ今夜も有難う」は、哀愁漂うメロディーと裕次郎の低く包み込むような歌声によって、物語全体のトーンを象徴する楽曲だ。さらに、挿入歌「こぼれ花」も甘く切ない大人のラブストーリーに深みを添えている。

石原裕次郎のムードアクションは、昭和という時代の空気をまといながらも、今なお色あせることのない魅力を放ち続けている。令和に生きる私たちにも響く、恋や人生の切なさを音楽と映像で描いた世界観をぜひ味わってほしい。

文/壬生智裕

放送日時:2025年7月17日 21:00~

チャンネル:映画・チャンネルNECO-HD

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放送日時:2025年7月18日 08:00~

チャンネル:映画・チャンネルNECO-HD

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