三浦春馬ら実力派の役者陣が紡ぐ驚きと感動に注目

映画『アイネクライネナハトムジーク』(2019年)がJCOM:STREAMにて見放題配信中だ。

同作品は、伊坂幸太郎による同名の連作短編小説を、三浦春馬と多部未華子の共演で今泉力哉監督が映画化した恋愛群像劇。

仙台駅前で街頭アンケートを集めていた会社員の佐藤(三浦)は、ふとしたきっかけでアンケートに応えてくれた女性・紗季(多部)と出会う。2人の小さな出会いは、妻と娘に出て行かれ途方に暮れる佐藤の上司・藤間(原田泰造)や、分不相応な美人妻・由美(森絵梨佳)と娘・美緒(恒松祐里)を持つ佐藤の親友・一真(矢本悠馬)、美緒の同級生・和人(萩原利久)の家族、声しか知らない男性に恋する由美の友人の美容師・美奈子(貫地谷しほり)らを巻き込み、10年の時をかけて奇跡のような瞬間を呼び起こす。

(C)2019「アイネクライネナハトムジーク」製作委員会

1つ1つのちょっとしたドラマが寄り合わさって唯一無二の物語を形成

この作品の面白いところは、連作短編小説を1本の映画にしているため、三浦演じる佐藤の恋愛模様を主軸に置きながらも、他の登場人物たちを中心としたストーリーも骨太で、それぞれのバックボーンと心の機微を丁寧に描いているところだろう。美奈子の不思議な出会いから始まり、藤間が抱える悩み、佐藤の小さな奇跡の出会いなど、シチュエーション的には突飛なところはなく、登場人物たちによるそれぞれのちょっとしたドラマが展開されていくのだが、彼らの喜びや悲しみ、悩みなど、誰かしらに必ず共感できる心情が、見る者を作品の世界に没入させてくれる。

そして、それらのちょっとしたドラマの糸が寄り合わさって１本のロープになるように、絡まり合ってつながっていく展開が秀逸。それぞれ独立していたピースが見事に組み合わさっていき、1つの作品をかたち作っていくさまが、想像を超えた驚きと感動を呼び起こしてくれる。また、寄り合わさる過程で、印象的なシーンやせりふ、劇中歌などが"つなぎ"として各所に散りばめられており、"つなぎ"を見つけた時の喜びもある。

(C)2019「アイネクライネナハトムジーク」製作委員会

三浦春馬らキャスト陣の繊細な心理描写が作品の驚きと感動を倍増

この構成において肝要なのは、1つ1つのドラマのクオリティで、それぞれのクオリティが高ければ高いほど、クライマックスに向けて寄り合わさって形成される作品の驚きと感動が倍増していくという、制作側に高いハードルが課されるものなのだが、三浦をはじめとするキャスト陣の熱演がそれを見事に可能にしている。

中でも注目すべきは、目線や表情の芝居で瞬間瞬間の繊細な心の機微を表現しているところだ。曖昧な恋愛感情を丁寧に描き、役者の持ち味を最大限に引き出して自然な演技を促す"恋愛劇の旗手"である今泉監督の手腕もさることながら、演技に定評のあるキャスト陣がその実力をいかんなく発揮した演技を披露。

特に主演の三浦は、優しい人柄ながら恋愛においても自ら引っ張っていくようなタイプではなく、どこか受け身な部分があり、それが原因で紗季との関係も不安定になってしまうという、表現するのに難しい役を好演。周囲の人間との巡り合わせや自らの気付きによって成長していく佐藤の変化を繊細に描写している。

連作短編小説が原作の面白い構成と、今泉監督とキャスト陣が織り成す繊細な心理描写を堪能しつつ、三浦春馬という才能あふれる役者の好演を見届けてほしい。

文／原田健