東野圭吾による"表のメニュー"と重岡大毅、間宮祥太朗ら豪華キャストによる"裏のメニュー"を何度も見返して味わい尽くせ!
映画 見放題
2025.04.06
映画『ある閉ざされた雪の山荘で』(2024年)がJ:COM STREAMで見放題配信中。同作品は、ベストセラー作家の東野圭吾が1992年に発表した同名小説を重岡大毅主演で映画化したもので、新作舞台の主演の座を争う7人の役者が4日間の合宿で行われる最終オーディションに臨んでいると、参加者が1人また1人と消えていくというサスペンスミステリーだ。
本多雄一(間宮祥太朗)ら実力派の劇団「水滸」の劇団員6人は、新作舞台のメインキャストを決める最終オーディションのため、4日間の合宿を行うペンションにやってくる。そこで、唯一劇団員以外で最終オーディションに残った久我和幸(重岡)と合流。「水滸」に強い憧れを持つ久我は、6人を尊敬の眼差しで見つめがらも、オーディションへの並々ならぬ気合を見せる。
オーディションは、「水滸」主宰・東郷陣平の指示により、「記録的な大雪のせいで外部との連絡手段が遮断されており、外に出たら遭難してしまう」という設定で、これから起こる事件を解決した者が主演を務めるというもので、7人は戸惑いながらも互いに闘争心をむき出しにする。2日目の朝、笠原温子(堀田真由)と同室だった元村由梨江(西野七瀬)が血相を変えて「温子の姿が見えない」とリビングに駆け込んでくる。温子の失踪はオーディションの一環なのか、事件なのか判別のつかない一同は疑心暗鬼に陥る。
(C)2024映画『ある閉ざされた雪の山荘で』製作委員会 (C)東野圭吾/講談社
東野圭吾の仕掛けるあざやかな"裏切り"の罠を堪能せよ
あまり詳しくは書けないが、「さすが東野圭吾!」「これぞ東野圭吾!」という"裏切り"の展開が醍醐味の同作。"考察ブーム"を経た今でも、いやそんな今だからこそ楽しめるストーリーに、約2時間が"ドキドキ"と"ゾクゾク"で満たされること請け合いだ。まず、「事件が起こり、登場人物が探偵役を担う」という、いわゆる劇中劇のような環境の中で話が進むところが秀逸で、東郷の思惑通りなのか、本当に予期せぬ事態が起こっているのかという謎が、登場人物共々、最後まで見る者を引き込んでいく。
さらに、「外に出たり、外部に連絡したら落選となる」という条件が、登場人物たちの判断を鈍らせ、事件解明への行動を縛っているところも、棋士の対局のように"駒が利いて"いて、ニクい。登場人物たちの心情の変化や揺らぎがトリックにバイアスをかけることで、より人間臭さが濃くなり、単純な推理物とは一線を画した秀作に昇華させている。
(C)2024映画『ある閉ざされた雪の山荘で』製作委員会 (C)東野圭吾/講談社
また、登場人物それぞれの背景も見逃せない。役者という"仲間"でありながら、オーディションにおいては"ライバル"という危うい関係だけでなく、父親が劇団のパトロン、主宰との親密な関係、最終オーディションに残れなかった実力のある劇団員にまつわる過去の事故など、ストーリーが進む中で次第に明かされていくバックボーンも、物語に"深み"を与えている。
そして、「衝撃の大どんでん返し」と言っても過言ではないラストは、十中八九"裏切られる"こと間違いなし。原作でももちろん味わえるのだが、映像作品ゆえのカット割りやカメラワークによって散りばめられたヒントを拾いながら、クライマックスに向かうのも一興だろう。
(C)2024映画『ある閉ざされた雪の山荘で』製作委員会 (C)東野圭吾/講談社
贅沢過ぎる俳優陣が織り成す"裏の裏の芝居"に刮目(かつもく)せよ
「閉ざされた山荘」というワンシチュエーションの中、これだけの主役級の俳優陣がそろって芝居を展開しているというだけでも贅沢過ぎるのだが、合宿が進むにつれて事件が連続して起こるため、温子役の堀田はすぐに姿を消してしまうし、他のメンバーも一人ずつ"降壇"していく。「これほど贅沢な使い方があるだろうか」と思うかもしれないが、そのストレスは最後まで見れば解消するため、まずは本筋を追ってミステリーを純粋に楽しんでいただきたい。
そして、解決編のブロックで描かれる回想シーンや事件の発端に当たる場面、犯行シーンはもちろん、一度見終わって全ての"裏切り"を理解した上で再度鑑賞すると、役者たちの"心理の裏の裏までも描いた芝居"が存分に楽しめ、違った角度から"感想戦"を堪能できる。この2回目以降の鑑賞がお薦めで、あのシーンの言動、目の動き、せりふ、態度など、刮目して見ると全てに意味が込められており、それをひも解き受け取るという"裏メニュー"は格別な味がするはずだ。そして、「そんな繊細で多重な意味を持つ芝居を披露できる役者というと、やはりこの面子(めんつ)になってしまうだろう」とキャストの贅沢さに不思議と納得してしまうだろう。
東野圭吾が仕掛ける鮮やかな"裏切り"の罠と、それを構築する贅沢過ぎる役者陣の"裏の裏の芝居"。見放題だからこそ、観客として"表"だけでなく"裏"のメニューも、何度も見て味わい尽くしてほしい。
文/原田健