長谷川博己の演技力が光る「アンチヒーロー」ほか代表作3選

長谷川博己の演技力が光る「アンチヒーロー」ほか代表作3選

俳優・長谷川博己は、その表現力に定評があり、常に視聴者の期待を裏切らない稀有な存在である。2011年にドラマ「鈴木先生」に主演してブレイク。同作で少しクセのある独特なキャラクターを演じて、強い印象を残した。その後も2011年の「家政婦のミタ」(日本テレビ系)、2013年のNHK大河ドラマ「八重の桜」、2014年にTBS・WOWOW共同制作ドラマ「MOZU」といった話題作に続々と出演するなど、ドラマや映画に引っ張りだことなった。

■映画『シン・ゴジラ』、ドラマ「アンチヒーロー」で強烈な印象を残す

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2016年公開の大作映画『シン・ゴジラ』では、内閣官房副長官・矢口蘭堂役で出演。ゴジラ上陸という未曾有の危機に直面した日本政府の核となる重要な役どころを冷静沈着かつ、内面に抱える葛藤や強い使命感を抑えた演技で表現した。複雑な心情が滲み出るような繊細な表現力で高い評価を受けている。

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ゴジラという脅威を前にしながら、常に冷静な判断を心がける矢口の人物像をより強化したのは、長谷川の演技力に他ならない。さらに、政府内での対立に辟易したり、自身の無力感に悩むという葛藤を抱える矢口を、表情の変化や視線の動きだけで巧みに表現するなど、深みのある演技を見せた。また、国民の命を守る強い使命感を表現して、見る者に共感を与えている。長谷川の説得力抜群の演技により、作品の持つメッセージがより深く届いたような印象もある。

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長谷川は作品の理解力の高さにも定評があるが、役柄に合わせた幅広い演技力を誇っている。特に彼のキャラクター造形が話題となったのは、2024年放送のTBS日曜劇場「アンチヒーロー」だ。同作では型破りな主人公の弁護士・明墨正樹を演じ、他に類を見ないダークでミステリアスなキャラクターを作りあげた。同作は、「正義の反対は、本当に悪なのだろうか」というテーマを視聴者に問いかける逆転パラドックスエンターテインメント。法律を巧みに利用し、殺人犯をも無罪にしてしまう"アンチ"な弁護士・明墨正樹を長谷川が好演した。悪人とも善人ともとれる魅力的な人物で、法廷シーンでの巧みな弁舌にも惹きつけられ、明墨のすご腕を説得力たっぷりに表現。ピンチに陥っても不適な笑みを浮かべるシーンなど、すさまじい色気で見る者をゾクゾクさせた。

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当初は罪を犯した者を無罪にしてしまうダークな一面が強調されるものの、過去に検事だった時に無実の男・志水(緒形直人)を死刑に導いてしまった悔恨から、彼の無罪を勝ち取るために死力を尽くす場面の力強さが印象深い。コミカルな印象すらある日常の場面に対し、志水と対面する場面ではまったく別人。絶望を全身で表現する尾形の真に迫った熱演とも相まって、画面にくぎ付けになる。強大な敵役の検事正・伊達原泰輔(野村萬斎)との演技合戦も見ものだ。

■ドラマ「小さな巨人」では巧みな演技力で高評価

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長谷川が強い芝居を見せた作品では、2017年放送のTBS日曜劇場「小さな巨人」も印象深い。同作では、警視庁捜査一課の刑事・香坂真一郎を演じ、警察組織という巨大な組織の中で葛藤しながらも、正義を貫こうとする主人公を熱演している。香坂はノンキャリアながら史上最年少で警部に昇進し、難事件を続々と解決。将来を嘱望されていたが、敵対勢力によって失脚し、所轄署に転任となる。本庁の執拗な妨害に悩まされながらも、所轄の同僚刑事たちをまとめ上げ、警察内部に潜む巨悪に戦いを挑んでいく。香坂の人物像に深く没入し、彼の葛藤や苦悩をリアルに表現。巨大な警察権力に単身で挑む香坂の真摯な姿が胸を打つが、同作においても、特に孤独や絶望を感じながらも、巨悪の追求を諦めない強い意志を丁寧に演じた。セリフのない場面でも視線の動きや声色の変化などで心情を伝えてしまう。そんな長谷川の細やかな演技力に感心させられるが、「香坂の葛藤が痛いほど伝わってきた」などと、多くの視聴者からも絶賛された。同作は数多くの伏線が張り巡らされた重層的なストーリーの作品だが、長谷川の脚本の理解力が高いことがテーマ性を強調するのに大きな役割を果たしたと言える。

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コミカルな役からシリアスな役まで、幅広い人物を巧みに演じ分ける長谷川だが、それだけではない。どんな役を演じても、常に「人間味に溢れている」と評されるのは、人間臭さを感じさせるリアルなキャラクター造形が視聴者に親近感を与えているからだろう。演技がうまい役者は珍しくないが、登場人物に血肉を与えるような深みのある芝居ができる俳優はそう多くはない。俳優・長谷川博己は、キャラクターに常に深みと人間味を与える、視聴者の共感を呼び起こす。中央大学の文学部を卒業していることも無縁ではないかもしれないが、脚本を行間まで丁寧に読み解き、自身の役柄に留まらず、作品のテーマを深く考え抜く真摯な役作りの姿勢がそれを支えているはずだ。次回作が常に待ち遠しい稀有な俳優であることは疑いない。

文/渡辺敏樹

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放送日時:2025年9月 1日 21:00~

チャンネル:TBSチャンネル1

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