祝!『侍タイムスリッパー』第48回日本アカデミー賞最優秀作品賞獲得。安田淳一監督と山口馬木也、関係者の思いに喝采を
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2025.03.26
3月14日に開催された第48回「日本アカデミー賞」授賞式、最優秀作品賞が『侍タイムスリッパー』と発表された瞬間、感極まる安田淳一監督と主演の山口馬木也、助演と助監督も務めた紗倉ゆうの。その姿を見て、もらい泣きしたファンも多かったに違いない(私も含め)。この作品の魅力はどこにあるのか。それは「情熱と優しさ」が二層構造になっているところだと思う。
(C)2024 Samurai Time Slipper. All Rights Reserved.
一層目の「情熱と優しさ」は、ストーリーの中にある。
幕末の侍、高坂新左衛門が、なぜか令和の京都にタイムスリップ。行き倒れていたところを偶然、出会った人たちに助けられ、時代劇の撮影所で斬られ役として生きていくことになる。走る車に戸惑い、ショートケーキの美味さに感激し、「絵が動いておる」とテレビに驚愕する新左衛門は、不器用ながら、少しずつ撮影所のみんなに受け入れられていく。
人情味ある展開に泣き笑いさせられると同時に、ベテラン殺陣師(峰蘭太郎)、斬られ役仲間、監督を目指す助監督(紗倉)ら時代劇を作る人たちの情熱もしっかり織り込まれているのだ。
もうひとつ忘れてはいけないのが、新左衛門が会津の侍であること。タイムスリップ直前、彼がなぜ、命を賭けて剣をとったのか。その情熱もくみ取ると、この映画の味わいはさらに深くなる。
(C)2024 Samurai Time Slipper. All Rights Reserved.
二層目の「情熱と優しさ」は、この作品がもたらした"映画の奇跡"だ。
もともとこの作品は、米作りと映像作家を兼業する安田淳一監督が、私財を投じて製作したインディーズ作品(預金残高が7000円を切っていたことも!)。都内のたった一館の上映から反響が広がり、全国上映となった経緯がある。その製作過程では、第48回日本アカデミー賞で優秀主演男優賞に輝いた山口はじめ、敵役の冨家ノリマサら出演陣の奮闘、撮影場所や衣装などを提供した東映京都撮影所の協力など、多くの支えがあって完成している。私はある撮影所スタッフから「『時代劇作りたいんです!!』と言われたら、助けなしゃあないやろ」と聞いた。口は悪いが、何かあれば助け合う。撮影所の伝統がにじんで見えた。
(C)2024 Samurai Time Slipper. All Rights Reserved.
授賞式の壇上で、監督は涙ながらに「最後まで物事をあきらめずやることを教えてくれた、昨年死んだ父と、『頑張っていれば誰かがどこかで見ていてくれる』とおっしゃっていた福本清三さんに見せてあげたいです」と語った。福本さんは、時代劇で五万回斬られたと言われる「斬られ役」で、この映画に出演が決まっていたが、21年元旦に亡くなった。福本さんに替わって殺陣師役を引き受けた峰蘭太郎さん(京都撮影所のレジェンド)は福本さんの墓前で「先生の代役を務めさせていただきます」と報告したという。
たくさんの人の思いを感じ、応援したくなる。こんな時代劇は久しぶりだ。配信で劇場で、大いに心躍らせたい。やったね、『侍タイムスリッパー』!!
文/ペリー荻野