東京タワーからオリンピックへ 昭和30年代の輝きを見せてくれる映画『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズ3作品の魅力

東京タワーからオリンピックへ 昭和30年代の輝きを見せてくれる映画『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズ3作品の魅力

西岸良平の人気コミック「三丁目の夕日」を映画化した『ALWAYS 三丁目の夕日』は、2005年公開の第一作を皮切りに、2007年に『ALWAYS 続・三丁目の夕日』、2012年に『ALWAYS 三丁目の夕日'64』がそれぞれ公開されている。監督は『ゴジラ-1.0』により、米アカデミー賞で視覚効果賞を受賞したVFXの第一人者である山崎貴が務めた。

第1作は昭和33年(1958年)の東京を舞台とし、架空の街・夕日町三丁目に暮らす人々の温かな交流を描く人情ドラマに仕上がっている。建設中の東京タワー、蒸気機関車や都電が走る当時の東京の街並みは、VFXで再現。加えてオープンセットによる街並みや住宅、さらに三輪自動車ミゼットや白黒テレビや冷蔵庫等の家電などは、スタッフが全国各地から集めた本物を使用している。物語は、鈴木則文(堤真一)が営む自動車修理工場・鈴木オートに、青森県から集団就職で上京した星野六子(堀北真希)がやってくる場面で始まる。しかし彼女は事務職だと思い込んでいたため、自動車工場の仕事に大いに戸惑う。一方、向かいの駄菓子屋の店主でしがない小説家の茶川竜之介(吉岡秀隆)は、ひょんなことから一杯飲み屋のおかみ・石崎ヒロミ(小雪)のもとに連れてこられた身寄りのない少年・淳之介(須賀健太)の世話をすることになる...。

鈴木一家と六子の交流、茶川と淳之介の絆に加えて小雪との恋、さらに夕日町の人々とのふれあいを軸にした人情物語で、昭和30年代のリアルな日常を描いた物語は、当時の時代背景と相まって温かくも力強さを感じさせる。淳之介を引き取りたいと実父・川渕(小日向文世)が突然現れて、激しく動揺する茶川の葛藤が後半のハイライトとなり、クライマックスの見せ場に繋がっていく展開が涙を誘う。

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『ALWAYS 続・三丁目の夕日』は、東京オリンピックの開催が決定し、高度経済成長時代を迎えつつある昭和34年の春から始まる。経営が軌道に乗り始めていた鈴木オートは、事業に失敗した親戚の娘・美加(小池彩夢)をしばらく預かることになる。また、前作にも登場した淳之介の実父・川渕が再び息子を連れ戻しにやって来る。人並みの暮らしをさせることを条件に淳之介を預かる茶川は、ヒロミへ一人前の自分を見せられるよう、一度はあきらめていた芥川賞受賞への挑戦を決意するというストーリーだ。

3作目の『ALWAYS 三丁目の夕日'64』は、東京オリンピック開催を控え、建設ラッシュで活気にあふれた東京の様子が活写される。茶川はヒロミと結婚し、高校生になった淳之介と3人で暮らしている。ヒロミは妊娠しており、自宅での出産の場面が後半のハイライトとなるが、茶川は謎の新人作家・緑沼アキラに人気を奪われて窮地に。鈴木オートの六子と青年医師・菊池との初々しい恋模様が描かれ、後半では緑沼アキラの正体も見どころとなる。

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1作目は公開時に話題を呼び、数多くの映画賞を受賞するなど高い評価を得た。2005年度の日本アカデミー賞では全13部門にノミネートされ、12部門で最優秀賞を獲得している。特に最優秀主演男優賞に輝いた吉岡秀隆、最優秀助演男優賞の堤真一、最優秀助演女優賞の薬師丸ひろ子の3人の演技はファンや批評家に絶賛された。吉岡は2作目でも最優秀主演男優賞を受賞している。2作目から3作目にかけては、特に堀北真希の演技に成長が感じられた。彼女と恋仲になる菊池医師を演じた森山未來も多面的で難しい役どころを好演しており、報知映画賞助演男優賞など各映画賞を受賞している。

シリーズを通して、山崎監督によるVFXを駆使した昭和30年代の街の再現性が高く評価されたが、監督は単に当時の現実的情景を忠実に再現するのではなく、人々の記憶や心に存在する"イメージ的情景"の再生にこだわっていたらしい。写実性ではなく、日本人の心にある情景をスクリーンに映し出すことを意図したのだ。例えば劇中で鈴木が乗るミゼットはひどく古めかしいが、本当は当時発売されたばかりの同車はピカピカの新車であったはず。それでも多くの人がイメージするミゼットは、ピカピカの車ではないだろう。だからこそ、この映画は人々の琴線に触れるし、当時を知らない人にもリアリティーを感じさせるのだ。

2025年は"昭和100年"に当たる。昭和末期を知る最後の世代も中年に差し掛かり、本作で描かれた時代をリアルに知る世代は70代に入っているはずだ。そんな令和の時代だからこそ、本作の価値はますます高くなっている。本シリーズはまだ完結していないそうだが、「4作目」を見てみたいと願うのは、還暦過ぎの筆者だけではないだろう。

文/渡辺敏樹

放送日時:2025年4月19日 18:30~

チャンネル:映画・チャンネルNECO-HD

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放送日時:2025年4月26日 18:20~

チャンネル:映画・チャンネルNECO-HD

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