生田斗真と濱田岳が織り成す情感たっぷりの兄弟物語を主軸に描く小山薫堂の"入浴文化"への敬愛

生田斗真と濱田岳が織り成す情感たっぷりの兄弟物語を主軸に描く小山薫堂の"入浴文化"への敬愛

映画『湯道』(2023年)がJ:COM STREAMで見放題配信中。同作品は、脚本家・小山薫堂が日本特有の入浴行為を文化の一つとして捉えて提唱した「湯道」をテーマに、完全オリジナル脚本で映画化した、笑いと涙の群像劇だ。

建築家の三浦史朗(生田斗真)が、亡き父が遺した実家の銭湯「まるきん温泉」に突然戻ってくる。自身の建築事務所の経営がうまくいっていない史朗は、古びた銭湯を畳んでマンションに建て替えようと、店を切り盛りする弟・悟朗(濱田岳)を説得しようと考えていた。だが、実家を飛び出し都会で自由気ままに生き、父の葬儀にも顔を出さなかった史朗に反発する悟朗は冷たい態度で接してくるため、なかなか言い出せない。一方、「お風呂について深く顧みる」という「湯道」の世界に魅せられた定年間近の郵便局員・横山(小日向文世)は、日々、湯道会館で家元から入浴の所作を学び、定年後は退職金で「家のお風呂を檜風呂にする」という夢を抱いているが、家族には言い出せずにいた。そんなある日、「まるきん温泉」のボイラー室でボヤ騒ぎが起き、巻き込まれた悟朗が入院することに。住み込みで働いている看板娘・いづみ(橋本環奈)の助言もあり、史朗は弟の代わりに仕方なく「まるきん温泉」の店主として数日間を過ごすことになる。

小山薫堂が描く"入浴文化"への敬愛

この作品では、「まるきん温泉」のシーンと横山が通う「湯道」の家元「湯道会館」のシーンが並行で描かれ、生活の一部としての"入浴"と、作法と精神を極めるための"入浴"という正反対の視点から"入浴"を見つめる構成となっており、ラストにつながる"入浴"の真髄が日本人の心を刺激するメッセージとなっている。「たかが入浴、されど入浴」とでもいうように、街の憩いの場としての役割を持つ銭湯の良さや必要性、失われつつある風俗と共に、"湯に入る"という世界的な視点で見るとこの上なく贅沢な行為への喜びと感謝が描かれているのだ。

この一見お堅そうなメッセージやテーマを見事にエンタメにしているところが秀逸で、史朗と悟朗の兄弟間の確執やいづみの湯への熱い思い、「まるきん温泉」の常連客のそれぞれの人生模様、「湯道」を突き詰めようとまい進する者たちの姿など、人情と愛情と思情が銭湯の浴場ように雑多に詰め込まれており、ストーリー展開も騒々しくにぎやかで楽しい。

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雑多な人間模様を描き出すクセ強のキャラクターたち

そんなさまざまな人間模様を紡いでいるのが、数々のクセの強いキャラクターたちだ。風呂が生きがいの横山をはじめ、誰もいない風呂で歌を歌うのが趣味の良子(天童よしみ)、母親思いの受刑者・竜太(クリス・ハート)、「まるきん温泉」の近くの料理屋の店主・大作(寺島進)とおかみの瑛子(戸田恵子)、風呂のルールが分からない外国人のアドリアン(厚切りジェイソン)など、それぞれがそれぞれの事情を抱えて銭湯にやって来て、ひと時の癒やしの時間を堪能して帰っていく。思わずクスリとする笑いがあり、ホロリとくる感動があり、ムカっとする怒りも、スカッとする爽快感もある。

そして、彼らを演じているバラエティー豊かな俳優たちの顔ぶれも見逃せない。先述の小日向や寺島、戸田、浅野を皮切りに笹野高史、吉行和子、夏木マリ、吉田鋼太郎、角野卓造、柄本明といったベテラン勢もいれば、橋本や窪田正孝、生見愛瑠などの何作も主役を務める俳優陣、さらに厚切りジェイソンや天童、クリス・ハート、朝日奈央といった役者業が新鮮な面子もそろっており、キャストだけでも色とりどりだ。

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生田斗真&濱田岳 日本屈指の名優同士の芝居の掛け合いに注目

そんな中で、ストーリーの主軸を担う史朗と悟朗が織り成す物語が心にしみる。兄弟の確執と相互理解からの和解を描く王道の展開ながら、生田と濱田という日本屈指の名優の手にかかればこれほど心を揺さぶってくれるのかというほどに、情感たっぷりな兄弟の物語として完成されている。激しく言い争う場面や素直になれないシーン、相手を思いやる瞬間など、まるで本当の兄弟かのように、相手の出方が分かっているかのような芝居の掛け合いは必見だ。

生田と濱田が織り成す王道の兄弟物語と、バラエティー豊かな役者陣が紡ぐ色とりどりの人間模様を楽しみながら、小山が描き出す"入浴文化"への敬愛に肩まで漬かってみてはいかがだろうか。

文/原田健

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