綾野剛、齋藤潤らキャスト陣と脚本家・野木亜紀子、山下敦弘監督ら制作陣の化学反応を堪能せよ
2025.01.27
映画『カラオケ行こ!』(2024年)が2月2日(日)に日本映画専門チャンネルにて放送される。
同作品は、山下敦弘監督が和山やまの同名コミックを綾野剛主演で映画化したもので、歌がうまくなりたいヤクザと変声期に悩む合唱部の中学生の交流を描く青春コメディ。2019年の同人誌即売会で頒布されるや即完売し、数回再販されるも入手困難に陥った原作は、単行本化を経て、2020年に続編「ファミレス行こ。」の連載が開始されるほど人気を博した。また、2021年に朗読劇化され、2025年にはテレビアニメ化も決定している話題作だ。
強豪中学校の合唱部部長で変声期に悩む聡実(齋藤潤)は、組長(北村一輝)主催のカラオケ大会の罰ゲームを恐れるヤクザの狂児(綾野)に歌唱指導を懇願され、放課後のカラオケボックスで勝負曲であるX JAPANの「紅」のレッスンを重ねつつ、奇妙な友情を育んでいく、というストーリー。
脚本家・野木亜紀子と山下敦弘監督が突飛な設定を泣ける人間ドラマに昇華
「ヤクザと中学生の友情」という突飛な設定だけ見ると、ギャグに振り切ったような印象を持つ方が多いかもしれないが、ふたを開けると全く違ったものになっている。ギャグ設定ながら、人気脚本家の野木亜紀子と山下監督の手によって"人間味"と"深み"が増幅し、「思春期の少年の葛藤と苦悩、成長」「少年を支え背中を押す大人」「年齢や立場の違いなどを超えた人間同士としての2人の友情」という3本柱の人間ドラマに昇華している。
カラオケ大会の罰ゲームを恐れているという設定の中でも、"本気で逃れる術をひねり出して、聡実に頼る"という切羽詰まった狂児の心理描写や、"変声期というどうしようもない壁に向き合わざるを得ない"という逃げられない状況で悩む聡実の心の機微など、ギャグ設定を生かして軽やかに描きながらも、しっかりと見る者の心に響くメッセージを伝えており、「面白い」と「泣ける」のどちらかに偏らず、両取りした作品として仕上げているところはさすが。特に、淡々と流れる時間の中で2人が心を通わせていく様子を、登場人物に短絡的で直接的な感情表現をさせず、一定の距離を保って見守るような表現で描いている山下監督の手腕は、目の肥えた映画ファンの心もくすぐるだろう。
綾野剛のニクい演技と齋藤潤の幅広い感情表現
そして、野木と山下監督の期待にしっかりと応えている綾野と齋藤の演技も圧巻。これまでさまざまな役で多くの引き出しを見せてファンを楽しませ続けている綾野は、狂児を強面で近づきがたい雰囲気のキャラクターではなく、丁寧な言葉遣いと柔らかな物腰で一見人当たりは良さそうだがどこか怪しい、本能が「怒らせたら危険」と警鐘を鳴らす底知れない怖さをまとったキャラクターとして演じ、聡実が断りづらい状況を創出。「全てを見せない」という演じ方で、他のヤクザたちとは真逆の"怖さ"をまとった人物としてキャラを立たせながら、ゆっくりじんわり聡実との距離を詰めていく演技はニクい。
一方、オーディションで聡実役を勝ち取った齋藤は、思春期の心に余裕のない聡実を見事に演じており、嫌々付き合っていた狂児との歌のレッスンを通して、自分の生きている世界の広がりに気付くさまを瑞々しく描き出している。常にどこか諦めムードを漂わせていた聡実がクライマックスで見せる、ピュアな心をむき出しにするシーンは必見で、感情表現の幅の広さを感じさせてくれる。
コミカルさとシリアスさという"軟"と"硬"をいい塩梅で調和させたクリエイター陣の手腕と、それに応えるキャスト陣のすばらしい演技の化学反応をぜひ堪能してほしい。
文/原田健