『はたらく細胞』武内英樹監督が明かす制作秘話「トウモロコシの粒の制作に●万円」
映画 インタビュー
2024.12.12
酸素を運ぶ赤血球、細菌と戦う白血球など、人間の体を構成するおよそ37兆個の細胞。日夜、全力で働いている彼らを擬人化した人気コミック「はたらく細胞」は、2018年放送のTVアニメ化を機に大ブレーク。さまざまなスピンオフコミックが誕生する中で、待望の実写映画版が完成した。赤血球(永野芽郁)や白血球(好中球)(佐藤健)の活躍に加え、彼らを体内に持つ高校生・日胡(にこ)(芦田愛菜)と、その父・茂(阿部サダヲ)の物語も描かれる。そんな笑って泣けてタメにもなるメディカル・コメディーを手がけたのが、『翔んで埼玉』『テルマエ・ロマエ』などで知られる、日本映画界屈指のヒットメーカー・武内英樹監督だ。今回、12月13日の映画公開に先駆け、武内監督に作品に込めた思いなどを聞いた。
――「はたらく細胞」という作品をお知りになったきっかけと、第一印象をお聞かせください。
「フジテレビを退社してフリーになった時に初めて出会いました。それまでは全然知らなくて、タイトルに惹かれて原作コミックを読んだのですが、すごくタメになって、特に子どもたちの教育には良い作品だなと思い、一気に引き込まれました。原作者の清水茜先生の発想が素晴らしいんです。今まで何度も人間ドックや検査に行って、白血球の数値などを聞いてきましたけど、全然頭に入ってこない(笑)。それが『はたらく細胞』だと想像できてすごく分かりやすい。それを実写映画にして、さらに笑いや涙を加えた作品が作れたら新鮮だろうなと。そして、世界中で理解できる作品になるだろうなと思いました。先日、アメリカのサンディエゴで開催された映画祭に招待されて上映しましたが、すごくウケていました。その光景を見て、世界中で楽しんでいただける作品になったなと思いました。トイレを我慢した経験は、誰にでもあるんだなと思いました(笑)。 こんなに地球上で共感できるネタは他にないですよね。実は、そのトイレを我慢するシーンに登場するトウモロコシの粒の制作費が70万円もかかるということで、最後までプロデューサーに反対されました。でも、『どうしても必要だ』『あれがあるのとないのとでは面白さが倍違うから』と説得しました(笑)」
――厚みを増した細胞たちの物語に、親子愛がプラスされたエンターテインメント性の高い物語となりましたが、現在のストーリー構成に決まるまでに苦労はありましたか?
「ありましたね。一番はお金の問題です。細胞たちのシーンは、すごくお金がかかるんです。本来であれば、体内の出来事だけで映画を作らなければいけないのですが、それにはハリウッド並みの制作費がなければ無理だったんです。そこで"外"にあたる人間たちの物語を描こうというアイデアが生まれました。『はたらく細胞』の世界では、人間の話を描くのは禁じ手なんです。でも、日胡の状況と、体内でキラーT細胞やNK細胞、白血球が戦っている姿を交互にカットバックして描くことで、物語がより分かりやすくなりますし、人間界のドラマで感動的なシーンを描くことができるというメリットがあったため、この手法にチャレンジしました」
――絵作りの面でこだわった部分はありますか?
「エキストラの皆さんの人数ですね。いつもプロデューサーに嫌がられるんですけど(笑)。大勢の方が画面で動くことで生まれるエネルギーは本当にすごいですし、CGで群衆を描くと、見ている側はすぐに気付いて冷めてしまうんです」
――キャスティングについてのエピソードをお聞かせください。
「『のだめカンタービレ』をはじめ、『テルマエ・ロマエ』や『翔んで埼玉』もそうだったのですが、原作がある作品を映画化する際は、作品やキャラクターの魅力を知るため、すごく取材をします。今回も『はたらく細胞』のファンの皆さんに取材しましたが、話を聞く前はメインキャラクターの赤血球や白血球が人気なのかなと思っていました。でも実際は、血小板が圧倒的な人気だと知って衝撃を受けました。最初、血小板役は人気若手女優さんにお願いしようかなと思っていましたが、ここはリアルにこだわらなければいけないポイントだと思い、何百人もの子どもたちをオーディションしました。ただ、こだわってキャスティングしたのはいいのですが、撮影している間に彼らがどんどん大きくなったのは予想外でした(笑)」
――大ヒットを記録した『翔んで埼玉』シリーズについてもお話をうかがいたいのですが、多くの観客を惹きつけた理由はどこにあったと思われますか?
「第1作の興行収入の1/4が、実は埼玉県の劇場なんですよ(笑)。特にMOVIXさいたまでは第2作を1年間も上映してくださり、11月14日の『埼玉県民の日』に2作品同時上映して、ようやくロングランが終わったんです。でも、どうして受けたんでしょうかね...。私が映画館に行った時、お客さんがものすごく笑っていたので、見知らぬ人たちと同じ映画を見てゲラゲラ笑うという体験をしに、皆さん劇場に足を運んでくださったのだと思います」
――今だから言える制作&撮影秘話がありましたらお聞かせください。
「第2作のクライマックスで行田タワーが登場しますが、あったことが自体が奇跡でした。通天閣へ行った時に、これをロケットにしたいなと思ったんです。でも、埼玉には"迎撃ミサイル"になるようなものないよなと思って調べたら、行田にタワーがあったんです。映画の中で勝手に行田タワーと呼んでいたら、公開が終わった頃にニュースで、あのタワーの名前を行田タワーと命名したことを知って、名前ついていなかったんだと驚きました。あと、衣装にもすごくこだわりました。魔夜峰央(まやみねお)先生のユニークな原作を、リアリティーを持って作るのはかなり高度なデザイン力が必要で、柘植伊佐夫(つげいさお)さんに人物デザイン監修と衣装デザインをお願いして、すごく細かいところまでこだわりました」
――『はたらく細胞』の公開、そして『翔んで埼玉』シリーズの放送を楽しみにされている皆さんへメッセージをお願いいたします。
「『はたらく細胞』は笑って泣けてタメになる映画なので、ぜひご家族そろって楽しんでいただきたいなと思います。 そして『翔んで埼玉』シリーズは、埼玉県民をディスりまくっているのに、埼玉県知事やさいたま市長をはじめ、県民の皆さんにすごく愛していただいてうれしいです。製作するかどうかは分かりませんが続編の構想は練っているので、その時はよろしくお願いします!」
取材・文/中村実香 撮影/永田正雄