横浜流星が心・技・体で紡ぐ現時点での役者としての集大成に注目
2024.12.03
2025年に大河ドラマ初出演にして初主演を務める、大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺(つたじゅうえいがのゆめばなし)~」(2025年1月5日スタート予定)の放送が控える横浜流星。横浜といえば、2012年に特撮ドラマ「仮面ライダーフォーゼ」(テレビ朝日系)にてテレビドラマ初出演を果たし、2013年にドラマ「リアル鬼ごっこ THE ORIGIN」(テレビ神奈川ほか)でテレビドラマ初レギュラー出演。2014年には特撮ドラマ「烈車戦隊トッキュウジャー」(テレビ朝日系)で注目を浴びた後、2019年のドラマ「初めて恋をした日に読む話」(TBS系)での不良だが根は真面目で純粋な由利匡平役で一躍全国区となった人気俳優だ。その端正なルックスだけではなく、中学3年生の時に極真空手の世界大会で優勝した過去があり、その異彩を放つ経歴も人気を博した。また、演技の実力も備わっており、これまで共に作品を作ってきたプロデューサーや監督から、役の理解度の深さ、表情の豊かさ、役との一体感、演技のふり幅などについて絶賛されている。そんな彼の現時点での役者としての集大成を見られる作品が映画『春に散る』(2023年)だろう。
同作品は、沢木耕太郎の同名小説を映画化したもので、ダブル主演を務める佐藤浩市と横浜が描く2人の男の再起を懸けた感動ドラマ。かつてボクサーとしてアメリカに渡り、引退後はホテル事業で成功を収めた広岡仁一(佐藤)は、不完全燃焼の心を抱えて40年ぶりに帰国する。そんな広岡の前に、不公平な判定負けに怒り、一度はボクシングをやめた黒木翔吾(横浜)が現れ、広岡の指導を受けたいと懇願する。一度は断った広岡だが、しつこい翔吾に折れてコーチをすることに。やがて、翔吾をチャンピオンにするという広岡の情熱は、一度は夢を諦めた人々を巻き込んでいく、というストーリー。
(C)2023映画『春に散る』製作委員会
役作りでプロテストに合格するほどの鍛え抜かれた「体」
同作の横浜でまず目がいくのは、やはりその鍛え抜かれた体だろう。公開時にも話題となったが、横浜は役作りのためにボクシングを始め、その約1年後にプロテストに合格。ボクサー役に説得力を持たせた。6つに割れた腹筋に彫刻のような大胸筋など、ボディビルダーのような力強さや美しさを追求したものではなく、ボクサーとして戦うためだけに手に入れた筋肉美は芸術的なそれとはまた違った美しさがあり、鬼気迫る迫力を感じさせる。
ボクシングシーンにおける成長を鮮明に描いた「技」
そんな体から繰り出される動きは圧巻。ボクシング作品において、乗り越えるべき一番高い壁は試合中のリアリティーで、少しでもアマチュア感が出てしまうと観客は興ざめしてしまうため、制作陣も細心の注意を払ってカット割りやカメラワークなどを駆使して対応するのだが、本作では役者陣の"ボクサーとしての純度"の高さに見とれてしまう。翔吾の対戦相手である大塚を演じた坂東龍汰や中西役の窪田正孝といった演技力に定評のある役者たちが織り成すクオリティーの高さはもちろんだが、物語の1年という時間経過の中で、ボクサーとしての実力の成長をも描き出している横浜の、微に入り細をうがつような、細かいところにまで行き届いた演技の"技"には、ついうなってしまうほど。
(C)2023映画『春に散る』製作委員会
季節で区切られた描き方の中でつながる精神的な成長を表した「心」
そして、取り上げざるを得ないポイントは、翔吾の心情の変化だ。同作品の特徴の1つが時間経過の描き方で、広岡と翔吾が出会った"春"、広岡が翔吾をコーチすることになった"夏"、東洋太平洋チャンピオン戦・世界戦までが決まり2人の目指すべき道が見えた"秋"、世界戦に向けて突き進む中で2人の間に亀裂が入る"冬"、2人の関係がクライマックスを迎える"春"と、季節ごとにぶつ切りとなった描き方をして、横浜は翔吾の心情の変化を過ぎた時間と同じ歩幅で表しており、翔吾の精神的な成長によって時間の経過すらも感じさせるほど丁寧に表現している。特に、秋から冬の時間経過では、それまで粗暴さが見え隠れしていた翔吾がスポーツマンに変貌しており、世界戦に向けて精神的に大きな成長を遂げたことがうかがえる。 "荒々しいところもあるが実は心優しい"、"つい後先考えずカッとなってしまう"といった部分など、要所要所で豊かな表現で翔吾の人となりを描き出しているが、それに加えて全体を通して描いた翔吾の精神的な成長という面においても楽しめるものとなっている。
横浜流星の心・技・体が詰まった現在地点での役者としての集大成に注目していただきたい。
文/原田健