監督の挑戦的なカットに見事に応えた藤原竜也&松山ケンイチの漢気に心つかまれる
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2024.11.19
映画『ノイズ』(2022年)が11月よりJ:COM STREAMで配信開始された。
同作は、筒井哲也の同名コミックを藤原竜也と松山ケンイチのW主演で映画化したサスペンスで、過疎化に苦しむ孤島に暮らす3人の若者がひょんなことから殺人を犯してしまい、島の人々のために殺人の発覚を隠そうと奮闘する姿を描く。
時代に取り残され、過疎化に苦しむ孤島・猪狩島は、島の青年・泉圭太(藤原)が生産を始めた黒イチジクが全国的に注目されたことで、活気を取り戻しつつあった。さらに、島に地方創生推進特別交付金5億円の支給がほぼ決まり、島民全員に希望の兆しが見えていた。だが、元受刑者の不気味な男が島にやってきたことで、平和な日常が一変する。偶然遭遇した男の不審な言動に違和感を覚えた圭太と幼なじみの猟師・田辺純(松山)、新米警察官・守屋真一郎(神木隆之介)の3人は男を追い詰めていくが、圭太の娘の失踪を機に、誤って小御坂を殺してしまう。3人はこの殺人を隠すことを決意する、というストーリー。
この作品の魅力といえば、第一にストーリーが挙げられるだろう。ネタバレとなるため詳しくは書けないが、不慮の事故で起こってしまった殺人を、じわじわと真相に迫ってくる刑事を、どうかわしていくかということを描くだけではなく、話が進むにつれて連鎖的に事件や事故が起こり、状況が混迷を極めていくところが新しい。次々に起こる想定外の出来事に視聴者は否応なく引き込まれてしまうし、ラストの大どんでん返しは多くの人が思わず声を上げてしまうほどだろう。
また、登場人物や舞台設定が秀逸なところも魅力。圭太、純、真一郎は数少ない島の若者でありながら、過去の出来事が原因で島民たちへの恩義を感じており、『自分のことより島のために』という思いが強い。それゆえ、最初に間違った判断をしてしまって、以降ボタンを掛け違えたように転がり落ちていってしまう。島民たちが心待ちにしている地方創生推進特別交付金の支給を実現させるためにも殺人が発覚するわけにはいかず、"島の未来も背負っている"という重圧を常に背負っているため、状況が悪くなっていくのを感じながらも悪の道を進まざるを得ない。その葛藤が、混迷を極めていく状況と相まって、人間らしさを生み出している。
(C)筒井哲也/集英社 (C)2022映画「ノイズ」製作委員会
そして何より、藤原、松山、神木という実力派俳優の芝居のコラボレーションが上記の魅力をより増幅させている。それぞれが単独で主演を張る作品も多い3人の共演は、それだけでわくわくさせられるが、3人はそんな期待をゆうに超える芝居を披露。もみ合って誤って殺してしまうところや「このままでいいのか」と自問自答するところでは、映像作品ではよくあるシチュエーションでありながら、驚き、焦り、困惑、苦悩、苦渋の決断といったさまざまな感情が入り乱れるさまを、繊細かつ大胆な演技で表現。『見慣れたシチュエーションも、演者の演技力だけでここまで目を離せないほどに視聴者を引き込むことができるのか』と改めて"演技の力"というものを感じさせられる。
中でも、W主演を務める藤原と松山によるクライマックスの2人のシーンは圧巻。刑事の追手が迫る中でのシーンなのだが、3分を超える1カットの長回しで、圭太と純のジェットコースターのように乱高下する心情の変化を、殴り合うように感情をぶつけ合って表現。廣木隆一監督のあえて長回しの1カットにすることで、刻一刻と迫る"その時"の緊迫感をリアルに表現するという意図に加え、"2人の実力派俳優の演技に任せる"という2人への絶大なる信頼が垣間見えるところ、そして、その信頼に見事に応える2人の漢気に、心をつかまれない者はいないのではないだろうか。
(C)筒井哲也/集英社 (C)2022映画「ノイズ」製作委員会
ストーリー、設定、演出と演技という原作と映像の魅力が掛け合わさって素晴らしい作品へと昇華した注目のサスペンス。ぜひご覧いただきたい。
文/原田健