新垣結衣と早瀬憩(はやせ いこい)だからこそ実現した"絶妙な距離の縮め方"がもたらす現実感に着目せよ
映画 TV初
2024.11.11
今年、公開された映画『違国日記』が11月17日(日)に日本映画専門チャンネルにてTV初放送される。
同作品は、ヤマシタトモコによる同名漫画を映画化したもので、人見知りな小説家・高代槙生(新垣結衣)と両親を亡くして槙生に引き取られた15歳の姪・田汲朝(早瀬憩)との心の交流を描く。
人見知りな作家・槙生は、疎遠だった姉の葬儀で無神経な親戚の標的にされる姉の娘・朝を衝動的に引き取る。二人の新生活では問題が相次ぐが、槙生の親友・醍醐(夏帆)や元恋人・笠町(瀬戸康史)の支えで、違いを認め合い信頼を育んでいく。
この作品は "人見知りでコミュ障で不器用な大人である槙生"と、繊細な年頃で両親を亡くしてしまったが、"人懐っこく素直な性格の朝"のそれぞれの成長が見どころなのだが、この真逆ともいえるキャラクターを演じ切った新垣と早瀬の芝居のマリアージュが素晴らしく、二人の演技の化学反応が作品の主題を鮮やかに描き出している。
槙生は、売れっ子の小説家で生活力はあるが、家ではボサボサ頭で片付けや料理もできない"ダメな大人"で、恋人だった笠町には「他人と生活できないし、子供もいらない」と宣言していたほど。だが、朝を勢いで引き取ってしまったため、慣れない共同生活に戸惑いながらも、朝に近しい大人としての成長を見せていくのだが、新垣は彼女の代名詞ともいえる"かわいらしさ"を封印して、"ダメな大人"を熱演。2次元ならではの小説家然とした独特なせりふ回しも、持ち前の演技力で人間味を吹き込みつつ、子供である朝とのキャラクターの違いを明確にして対比構造を構築。
一方、朝は素直で明るい性格ながら両親を失ったことで心をふさいでしまうのだが、槙生との生活を経て心の折り合いをつけながら、槙生から"大人だからといって完璧ではない"ということを学んで、人間的に一皮も二皮もむけていく。そんな繊細な心の機微を、早瀬はみずみずしく表現。ゆっくりと槙生の成長や変化する姿を見せる新垣とは対照的に、ちょっとしたことで大きな変化をもたらす思春期ならではの不安定さをフレッシュに表している。
そんな二人が、互いに影響を受け合いながら、心の距離を縮めていくところが胸を打つ。意識的に干渉しないように微妙な距離を保とうとしながらも、次第に互いの理解を深めることでいつしか自分にとって欠かせない存在になっていく様子が、新垣だけでも早瀬だけでもなく、この二人だからこそ成し得た"絶妙な距離の縮め方"によって、作品の肝を形成しているのだ。
それは撮影中も、互いが感じていたようで、公開記念舞台挨拶では、新垣が「憩ちゃんが演じた朝ちゃんがすごく魅力的で、憩ちゃんが隣で頑張っているのを見ると『自分も頑張らなきゃ』と力をもらっていた」と明かし、早瀬は「結衣さんが槙生ちゃんで良かった」と語っていた。
互いが自認するほどまでに良い影響を受け合った二人の役者の芝居の化学反応は、作品の持つメッセージに、現実感をしっかりともたらしている。
ただの人気漫画の実写化と思うなかれ。新垣と早瀬だからこそ実現した"絶妙な距離の縮め方"を通して現実感が付与された作品のメッセージを真っ直ぐ受け取ってみてほしい。
文/原田健