若者だけじゃない! "生きること""愛すること"について今一度考えたくなる心に響きまくる作品「スクロール」
2024.11.08
自殺者数は横ばいもしくは微減という状況ながら、若者の自殺死亡率が上昇している現代の日本。10~39歳までの死因第1位は「自殺」というデータもあり、世界で比較しても「若者の死因における自殺の割合」が高い。それは、若者たちが社会に対して慢性的に生きづらさを感じているということに他ならない。
そんな若者たちの声にならない叫びを描いて、"生きること""愛すること"への問いかけを行う作品が、映画『スクロール』(2023年)だ。この作品では、主要な登場人物たちの目線を通して、誰しもがぶち当たったことのある「生きることとは?」という人生哲学の真理に正面からぶつかることができ、"心に響きまくるメッセージ"を受け取ることができる。
同作品は、YOASOBIの大ヒット曲「ハルジオン」の原作者としても知られる橋爪駿輝が、若い世代から「自分たちの物語」と圧倒的な共感を得たデビュー小説を映画化したもので、若者たちのリアリティあふれる青春譚(せいしゅんたん)を、北村匠海と中川大志が主演を務め、清水康彦監督がエモーショナルに描き出した話題作。
学生時代に友達だった〈僕〉(北村)とユウスケ(中川)のもとに、友人の森(三河悠冴)が自殺したという報せが届く。就職はしたものの上司からすべてを否定され、「この社会で夢など見てはいけない」とSNSに思いをアップすることでなんとか自分を保っていた〈僕〉と、毎日が楽しければそれでいいと刹那的に生きてきたユウスケ。森の死をきっかけに"生きること・愛すること"を見つめ直す2人に、〈僕〉の書き込みに共鳴し特別な自分になりたいと願う〈私〉(古川琴音)と、ユウスケとの結婚がからっぼな心を満たしてくれると信じる菜穂(松岡茉優)の時間が交錯していく、というストーリー。
(C)橋爪駿輝/講談社 (C)2023映画「スクロール」製作委員会
この映画は、連作短編集となっている原作小説そのままに、主要キャストそれぞれの目線をチャプターで分けて描く構成となっており、同じ時間を4者4様の生き方で描き分けているのだが、状況は違えど全員が"生きづらさ"を抱えており、それぞれがもがきながら日々を過ごしている。
北村演じる〈僕〉は、パワハラ上司に全てを否定され、「消えてしまいたい」と思いながら"生きづらさ"を感じている青年。また、中川演じるユウスケは〈僕〉の大学時代の友人で「楽しければいい」という刹那的な生き方をしているが、周りとの摩擦が生じてきてそのスタイルを貫くことができなくなり"生きづらさ"を感じる青年だ。一方、結婚して幸せな家庭を築くことが唯一の"幸せ"だと思い込み、「『幸せ』が欲しい」という思いに囚われてしまう松岡演じる菜穂。「特別になりたい」という思いで会社を辞めてイラストレーターの道に進む、古川演じる〈僕〉の同僚の〈私〉。
(C)橋爪駿輝/講談社 (C)2023映画「スクロール」製作委員会
彼ら4人の考えや生き方は、もちろん創作物であるためキャラクター設定にエッジが効いているが、そのどれもが理解でき、全てを否定することができない。つまり、4人とも共感できるのだ。そんな中で、4人は「生きる意味」「仕事のやりがい」「幸せとは」など、答えのない答えを求めてもがき苦しみながら生きている。これらの答えはおそらく人それぞれであろうし、どこまでいっても見つけられるかどうかも分からない代物だろう。しかしながら、彼らの目線を通して、「辛く苦しくても生き続けていかなければならない」というメッセージが鮮烈に心を突き刺してくる。
彼らの"生きづらさ"に共感しつつ、それでも生き続けることを訴えてくる作品の強いメッセージを受け取ると、なぜか"生きること""愛すること"について深く考えてみたくなる。忙殺される毎日を過ごしている人こそ、秋の夜長に、ふと自分自身を顧みる時間を持ってみるのもいいのではないだろうか。そんな自分を見つめ直すきっかけとして、同作に触れていただきたい。
文/原田健