「光る君へ」でも話題!伝説の陰陽師・安倍晴明とは何者か
2024.10.22
映画『陰陽師0』の公開や、大河ドラマ「光る君へ」の登場で、2024年は安倍晴明がクローズアップされている。平安時代に実在した高名な陰陽師だが、「陰陽師」という言葉を聞いて、晴明の名を真っ先に思い出す人も少なくないだろう。晴明の84年の生涯は、日本人の平均寿命が30歳前後とみられている平安時代では極めて異例。しかも、亡くなるまで現役の陰陽師であったというから恐れ入る。21世紀に入ってから、晴明は頻繁に語られるようになった。その発端となったのが、2001年の映画『陰陽師』と、2003年の続編『陰陽師Ⅱ』だ。大ヒットを飛ばしたこのシリーズを追いながら、陰陽師・安倍晴明の魅力に迫る。
野村萬斎の当たり役となった陰陽道の英雄
まず、陰陽師について簡単に説明しておきたい。奈良・平安時代の官職で、天皇や貴族のために陰陽道に基づいて占いや儀式を執り行い、国家の決定にも大きな影響力を持っていた役職だ。暦の作成や天体観測も陰陽道を基にしており、陰陽師は「自然」と「超自然」のはざまに立っていたと考えられている。安倍晴明は西暦941年に41歳で陰陽師となり、時の天皇の信頼を得て陰陽道を広めていった。
映画「陰陽師」シリーズの原作である夢枕獏(ゆめまくらばく)の小説は、史実をベースにしたフィクションであり、超自然的な怪事件に挑む晴明の奔走が描かれている。映画はこのオカルトの要素を拡張し、ダイナミックなエンターテインメントに仕上げている。晴明を演じた狂言師・野村萬斎は、本作のヒットで俳優としても知名度を上げた。また、晴明の親友となる、天皇家の血筋を引く源博雅(みなもとのひろまさ)役には、この後「海猿」シリーズでブレークする伊藤英明。実直な博雅像を人間味とともに作り上げている。なお、実際の源博雅は芸術に造詣が深く、音楽の才に秀でており、映画でも描かれている通り笛の名手であったが、晴明との接点は歴史的には証明されていない。
呪術だけじゃない、ハイレベルな冷静さも魅力
1作目の『陰陽師』は、朝廷内の権力闘争を背景に、それに乗じて都を滅ぼそうとする陰陽頭、すなわち晴明の"上司"の陰謀が描かれる。晴明は博雅の協力を得て、この陰謀の核心に迫っていき、呪術を守ろうと奔走する。劇中の彼は何が起こっても落ち着き払い、少しも動じないようなキャラクター。いかなる危機にも慌てず騒がず、呪術を駆使して窮地を軽やかに乗り越える。朝廷内でも同様で、権威をかさに着て威張り散らす者をいなすすべも心得ている。それもこれも、陰陽道を極めた者の自信の表われだろう。表情に全く動揺が表われないのも頼もしく、平安京のスーパーヒーローといえるかもしれない。
『陰陽師Ⅱ』でも、その姿勢は変わらない。都に鬼が現われ、人々を食らうという怪事件が続発。その謎を解く鍵は、日本神話に。男神スサノオノミコトをよみがえらせて平安京を滅ぼそうとする者に、晴明は立ち向かう。天下の一大事にあっても、晴明のスタンスは変わらない。それどころか、自らが命を落とすことさえいとわない様子だ。このレベルの冷静さは、普通の人間が簡単に体得できるものではない。邪悪で強大な魔物を成敗する姿は、確かにヒロイックでかっこいい。それ以上に、この落ち着き動じない姿こそが、日常の小事に一喜一憂しながら、何かと忙しく過ごしている現代人の目に魅力的に映るのだ。
文/相馬学