正義と悪、生と死...人生の全てがある『ゴッドファーザー』【小堺一機】

小堺一機

小堺一機 (タレント、俳優)

タレント、俳優。幼少の頃から映画館に通うなど、これまで数々の作品を見てきた小堺一機が、次世代にまで残したい作品について熱く語り、その魅力を伝える。

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タレント、俳優。幼少の頃から映画館に通うなど、これまで数々の作品を見てきた小堺一機が、次世代にまで残したい作品について熱く語り、その魅力を伝える。

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正義と悪、生と死...人生の全てがある『ゴッドファーザー』【小堺一機】

こんにちは。小堺一機です。今回から僕が「未来へ伝えたい名作」を皆さまにご紹介する連載コラムがスタートします。どうぞよろしくお願いいたします。

僕はいろいろな映画を見て育ちました。他のことは全然ダメでも、「映画館ではすごく集中してちゃんとしているから」と、亡くなった両親によく劇場へ連れて行ってもらいました。映画を見終わった後は、子ども扱いすることなく、いろいろな話をしてくれました。『ローマの休日』を見た後に、「最後のシーンが長すぎて悲しいような、訳の分からない気持ちになった」と言ったら、母親が「そういうのを"切ない"っていうんですよ」と言ってくれたのを覚えています。

ギャング映画のイメージを変えた『ゴッドファーザー』

そんな映画と共に育った僕にとって、特別な映画の一つが、もう何百回見たか分からない、フランシス・フォード・コッポラ監督の代表作『ゴッドファーザー』です。1972年に公開された映画で、コッポラ監督は当時33歳。マフィアのボス、ドン・コルレオーネことヴィトー・コルレオーネを演じたマーロン・ブランドも40代、2代目のドンとなるマイケルを演じたアル・パチーノも30代という若いスタッフ&キャスト陣が集結しています。

本作によって、ギャング映画というものが変わりましたよね。それまでは、どうしてもB級映画というイメージが抜けませんでした。聞いた話によると、コッポラさんは「僕はマフィアの映画を撮るつもりはないんです。家族の映画を撮りたいんです」と、語っていたそうです。

頼りにされる、人情味あふれるマフィアを描いた物語

物語は、ニューヨークを牛耳るイタリア系マフィアのドン、ヴィトー・コルレオーネの長女・コニーの結婚パーティーから始まります。美学を持ったマフィアでもあるヴィトーは、麻薬を商売とするソロッツォからの誘いを断ったことから、ソロッツォの部下に銃撃されてしまいます。何とか一命を取り留めた父の窮地を救うため、軍人だった三男・マイケルはマフィアの世界へ足を踏み入れることになります。

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「ゴッドファーザーPART Ⅱ」
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映画の冒頭で、ヴィトーが名付け親(ゴッドファーザー)になった娘の父親から、「金を払うから、娘をひどい目に遭わせた男たちを殺してくれ」と依頼されますが、ヴィトーは「君が友人として来れば、そんなクズなど処分してくれる。善良な君を苦しめる者はわしが許さん。君が友人なら」と答えます。そして、ヴィトーは部下に「頼まれたとはいえ、わしらは人殺しじゃない」と言うんですね。実際は殺し屋なんですけど。若き日のヴィトーの物語が描かれる『ゴッドファーザーPART Ⅱ』を見ると分かるのですが、彼はギャングになろうとしていた訳じゃないんです。イタリアで暮らしていた時に両親を相次いでマフィアに殺され、生き延びるために一人でニューヨークに来て、それでいい奥さんをもらって、真面目に暮らしていたんです。ただ、そういう苦労が彼の人間力になっていて「あの人に言ったら、なんか助けてくれそうだ」と、みんなに頼りにされるんですよね。そういった、筋の通った人情味あふれるマフィアを本作では描いていて、日本映画『仁義なき戦い』にも大きな影響を与えていると思います。

見終わった後、すごいものを見たという気持ちに

今見ても、まったく古さを感じない、芸術品ともいうべき、ものすごい映画を30代で撮ってしまったコッポラ監督。初めて見た時は「この後、どうするんだろう。この人」と思いました。でも、その後も『地獄の黙示録』や『アウトサイダー』といった、すごい映画をいっぱい撮りました。

うちの大将・萩本欽一に以前、「映画のどういったところが好きですか?」と質問したら、こんな答えが返ってきました。「見たことないものを見せてくれるから」と。まさに『ゴッドファーザー』もそうなんですよね。最初の方で、現代の映画ではもう撮ることができないほどのショッキングなシーンが登場して「うわっ!」と驚かされたり、ものすごく細やかなところにこだわっていたりと、見終わると非常に満足感があるんですよ。人がいっぱい命を落とす怖い話なので、自分があの世界に入ったら嫌なんですけど、「すごいものを見た」「いいものを見た」という気持ちになる映画だと思います。音楽もとてもすてきなんですよ。中でも有名な「ゴッドファーザー 愛のテーマ」は、昭和時代に集団でオートバイに乗って信号無視するような少年たちが、クラクションであのメロディーをよく奏でていましたね。

『ゴッドファーザー』を未来へ伝えたい理由

そんな『ゴッドファーザー』を未来へ伝えたい理由は、「人生の全てがあるから」です。正義と悪、生と死、信頼と裏切り、孤独と家族の絆、美しいものと汚いものといった、人間の縮図が175分に詰まった作品です。若い時には、マイケルに感情移入しながら見ていましたが、だんだん気の弱い次男・フレドに共感するようになりました。この先、もしかしたらヴィトーの気持ちが分かるようになるかもしれません。でも、僕が一番好きなのは『ゴッドファーザー PART Ⅱ』なんです。「Ⅱ」を見ないと「Ⅰ」の全ては分からない。ぜひ、『ゴッドファーザー』をご覧になった後は、「Ⅱ」も見ていただきたいです。

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