『RRR』が日本でも大ヒット!ダンスと音楽で彩る華麗なるインド映画の世界
2024.10.15
『RRR』の大ヒットにより近年、注目を集めているインド映画。華やかなスターが繰り出す歌、ダンス、アクション、ラブロマンスなど、娯楽映画の要素を混ぜ合わせた、エンタメを混ぜ合わせた感覚がインド映画の魅力といえる。多言語国家であるインドでは、地域ごとに多種多様な言語が存在し、各言語圏でそれぞれの映画産業が形成されている。
言語圏ごとに異なる特色を持つインド映画
中でも北インド・ムンバイ(旧ボンベイ)を拠点とした「ボリウッド」(ヒンディー語映画)、南インド・チェンナイ(旧マドラス)のコーダンバッカムを拠点とする「コリウッド」(タミル語映画)、南インド・テランガーナ州のハイデラバードを拠点とする「トリウッド」(テルグ語映画)が、インド映画の三大拠点といえる。
それぞれの地域の特色を挙げると、ヒンディー語映画はインドの公用語であるため、経済圏が広く、多くの人に親しまれるような映画が多い。一方、南インドでは保守的な傾向があり、より"濃い"映画が多い印象だ。例えば2000年代に、日本でインド映画の奥深さを知らしめた『ムトゥ 踊るマハラジャ』などはタミル語で作られた映画であるし、近年人気の「バーフバリ」シリーズや『RRR』はテルグ語映画となっている。ただし近年はより広い商業圏を想定し、最初から複数の言語のバージョンで撮影されるケースも増えるなど、その境界線も徐々にあいまいになってきている。
インド映画ブームを再燃させた『バーフバリ』
日本における近年のインド映画ブーム再燃の先陣を切ったのは、S.S.ラージャマウリ監督の『バーフバリ』だ。国を支配する邪悪な暴君と戦うことを運命づけられた、伝説の戦士バーフバリの親子三代にわたる壮絶な運命と愛の物語を豪華絢爛(けんらん)な映像とともに描きだした。VFXを駆使した熱量の高い、圧巻のシーンの数々が口コミで広がり、熱狂的なファンを獲得。異例のロングランヒットを記録した。インドの伝統民族衣装サリーをはじめとしたコスプレでの参加、紙吹雪・サイリウム・小太鼓なども使用可能な観客参加型の絶叫上映も大きな話題を集めた。
日本での『バーフバリ』絶叫上映の盛り上がりのうわさは本国インドにまで達し、ファンから"創造神"とたたえられるラージャマウリ監督の来日が実現した。そこで実際に絶叫上映を体感し、観客の熱狂的な盛り上がりを目の当たりにしたラージャマウリ監督は「自分の原点である作品を、ぜひとも日本のファンに見てもらいたい」と熱望。自ら日本向けに再編集を施した、ディレクターズカット版で緊急公開したのが『マガディーラ 勇者転生』だ。ふとした拍子で400年前の前世の記憶を呼び戻した若者が、恋仲だった国王の娘との運命を引き裂いた恋敵との戦いに身を投じていく物語だ。VFXを使用したスペクタクルシーンやハードなアクション、そして歌や踊りなどもふんだんに盛り込まれた同作は、ラージャマウリ監督を一躍、インドを代表するヒットメーカーの座に押し上げた。
そして、インド映画史上最高の製作費となる7200万ドル(約97億円)をかけた超大作が『RRR』だ。英国植民地時代のインドを舞台に、唯一無二の親友となった2人の男たちが、やがてそれぞれの宿命に翻弄(ほんろう)され、ぶつかり合う様が描かれる。主演はテルグ語圏の大スターであり、ラージャマウリ監督作に出演経験があるNTR Jr.とラーム・チャランがダブル主演を務める。全編がクライマックスともいうべき怒濤(どとう)の展開は、『バーフバリ』でインド映画に興味を持ったファンはもちろん、熱い口コミで新規ファンも獲得。また、IMAXなどとの親和性も高く、日本でもインド映画史上最高となる24億円の興行収入を記録している。また劇中歌「ナートゥ・ナートゥ」が、インド映画史上初の米国アカデミー賞で歌曲賞を受賞する快挙を成し遂げた。
時代とともに変化をしていくインド映画
冒頭に書いた通り、歌、ダンス、アクションなどのごちゃ混ぜ感がインド映画の魅力ではあったが、近年はシネコンの普及によって上映時間の短縮が求められるようになり、ダンスシーンや歌をカットし、より色濃いメッセージ性を打ち出す作品なども増えてきている。
『バーフバリ』で主人公の宿敵となる暴君、バラーラデーヴァ役を演じたラーナー・ダッグバーティがプロデューサーを務め、役作りのために15キロも減量して挑んだ壮大なネイチャー・アドベンチャー大作が『ハーティー 森の神』だ。リゾート施設の開発を始めた巨大企業の横暴に立ち向かう男を描き出した同作。都市化が進むインドの環境破壊というメッセージ性の強い物語でありながらも、激しいアクションなどのエンターテインメント性も織り込んだ内容となっている。
また、近年ブームとなっているインド映画に比べて、インドのドラマとなるとなじみがない人も多いと思うが、ラージャマウリ監督の父親で『バーフバリ』や『RRR』の原案・共同脚本家としても知られるV.ヴィジャエーンドラ・プラサードが脚本を担当した「戦神デヴセナ -愛と宿命の2人-」はインド映画ファン必見のドラマといえる。5000年前のインド創世期を舞台とした同作は、敵対民族同士の熱き戦いの中で、スペクタクルなアクション、そしてインド版「ロミオとジュリエット」ともいうべき恋模様が、壮大なスケールの中で描かれる。
今や世界規模で注目を集めるインド発のエンターテインメントだが、その世界はまだまだ奥深い。これからどんな作品が見られるのか今から楽しみだ。
文/壬生智裕