世界の是枝裕和監督が作品に散りばめた「画角の魔法」から見える作品の深み
2024.09.13
黒澤明、小津安二郎、今村昌平、山田洋次、北野武、宮崎駿、庵野秀明など、"世界の"というワードを冠する世界に認められた日本人監督は数えるほどしかいない。どの監督も独自の世界観を持ち、それが世界で評価された名監督たちだ。そんな希少な名監督の一人、是枝裕和監督の作品が映画・チャンネルNECOで放送される。
是枝監督といえば、ドキュメンタリー出身として知られており、作品は社会問題をテーマにしたものがほとんどで、必ず視聴者の心に強いメッセージを残し、思わず考えさせられてしまう"問いかけ"をもたらしてくれる。
監督デビュー作の『幻の光』(1995年)では第52回ヴェネチア国際映画祭で金のオゼッラ賞を受賞し、2作目の『ワンダフルライフ』(1999年)ではナント三大陸映画祭でグランプリを受賞。2001年に『DISTANCE』でカンヌ国際映画祭のコンペティション部門に初出品し、2004年には『誰も知らない』で主演の柳楽優弥が第57回カンヌ国際映画祭において史上最年少・日本人初となる最優秀男優賞を受賞し、日本国内で大きなニュースとなった。その後も、『そして父になる』(2013年)で第66回カンヌ国際映画祭審査員賞、2018年には『万引き家族』で第71回カンヌ国際映画祭の最高賞となるパルム・ドールを受賞するなど、発表した作品は軒並み国内外の映画祭で賞を獲得している。
そんな是枝監督の作品は、"誰かを悪者として描かない"や"子供の日常はモノローグ(ひとり語り)ではなく、ダイアローグ(対話)を用いる"などの特徴があるが、画角を使った表現方法も秀逸で、ぜひ注目してもらいたいポイントだ。
(C)2004「誰も知らない」製作委員会
例えば、育児放棄された子供たちが生きる姿を映した『誰も知らない』では、駆けだす瞬間やウキウキと歩くさま、背伸びしているシーンなど、足元のアップや手のアップなどを多用し、表情で感情を表現するのではなく、その瞬間の子供の心情を印象的に映し出している。そこでは決して、その瞬間の感情を明確に描いて提示するのではなく、あくまで"感情のベクトル"として方向性を示唆するにとどめることで、どう捉えるかは視聴者に委ねるという手法をとっている。
また、2023年に第76回カンヌ国際映画祭で脚本賞、日本映画としては初となるクィア・パルム賞を受賞した『怪物』は、少年の内的葛藤から起因するある出来事を3人の視点で描かれた、いわゆる"『羅生門』構造"で構成されており、他者同士で見えていないものが引き金となって大きな事件に発展していくさまを描き出している。
『誰も知らない』での撮影当時12歳だった柳楽の名演や『怪物』で第47回日本アカデミー賞最優秀主演女優賞に輝いた安藤サクラの熱演につい惹きつけられてしまうが、同時に是枝監督が細部に散りばめた"画角の魔法"に注目して見ると、新たな作品の深みを感じられること請け合いだ。
文/原田健