嘘が真実になるとき 50TAが体現する「ロンドンハーツ」の真髄「ロンドンハーツ」【戸部田誠】
エンタメ 連載コラム
2026.04.09
昨年6月24日放送の「ロンドンハーツ」(テレビ朝日)は、「緊急生放送」と銘打ち、狩野英孝扮する「50TA」が「サマフェス音楽ライブ」や「ミュージックステーション」4時間SPに出演することがサプライズで発表された。
感激する狩野に対し、田村淳は「もうひとつ重大発表がある」と告げ、一通の手紙を渡す。そこに書かれている内容を、狩野自身に読んでほしいというのだ。
「えー、50TAさまへ。テレビ朝日50周年ドッキリ企画としてスタートして、早いものでもう16年が経ちました。嘘のデビューライブで、『芸人を辞めて音楽一本でやっていく』と宣言した姿は、今でも忘れられません。そして、今年3月、横浜アリーナライブでは、圧巻のパフォーマンスで1万人を熱狂。さすが音楽界の革命児。ついに、一流アーティストたちと肩を並べ、『Mステ』出演が決定いたしました。本当におめでとうございます。これからも、50TAだけのスタイルで、笑いと感動、そして唯一無二の音楽を、多くの人に届けてください。そして、私事ではございますが、ご報告があります」
狩野は訝しみながら、手紙を次のページへめくった。
「この度、我々ロンドンブーツ1号2号は......解散いたします」
狩野は読み終えると絶句し、周囲にいたザキヤマもフジモンも「ええー!?」と驚愕の声をあげた。完全なサプライズ。視聴者も出演者も、その場の全員が翻弄される放送だった。
「嘘でしょ!?何かあるんでしょ?ドッキリ的な」「今までやってきたツケで、信じられないよ!」と他の芸人たちは疑うが、それは揺るぎない事実だった。ヤンチャにふざけながら、嘘も真実もごちゃまぜにして遊ぶ。それこそがトリックスター・ロンドンブーツ1号2号であり、「ロンドンハーツ」だ。その意味で、その場にいた「50TA」は、まさにその象徴的な存在といえる。
その"誕生"は、2008年放送の「ロンドンハーツ」の当時の看板企画「マジックメール」にまで遡る。「マジックメール」とは、淳が女性タレントになりすまして送るメールで、芸人の下心をあぶり出すドッキリ企画だ。この頃の「ロンハー」といえば、恋愛系ドッキリが定番だった。
ここで狩野は、仕掛け人の秋山莉奈の気を引くために、自作のラブソング「涙」を突如歌い出した。あまりに自己陶酔的な歌詞と、思いのほかキャッチーなメロディラインが強烈なインパクトを残し、爆笑を誘った。これをその1回限りで終わらせないのが、『ロンハー』たる所以だ。
翌2009年2月3日の3時間スペシャルでは、狩野に「世界進出を視野に入れた本格的な音楽活動」という架空のオファーを提示。ステラボールで「偽」のライブを開催した。このライブに向け、狩野は裏で操る淳らのムチャブリに応じながら、「PERFECT LOVE」や「インドの牛乳屋さん」といった"新曲"を短期間で次々と生み出していった。そしてライブが最高潮に達した時、彼は「芸人を辞めて音楽一本でやっていきます!」と宣言してしまうのだ。
まさに「50年に1人の勘違い男、ボク芸人やめますスペシャル」----その3時間SPのタイトルが示す通り、彼の"勘違い男"っぷりを笑うドッキリとしてスタートした。
だが、これが思わぬ展開を見せていく。ドッキリ企画終了後、視聴者から「曲をフルで聴きたい」「CD化してほしい」といった要望が殺到した。その声に応える形で、2010年2月10日にアルバム『50TA』をリリース。オリコン週間アルバムランキングで初登場9位を記録した。その後も狩野は定期的にドッキリに引っかかり、その度に50TAの新曲を生み出し続けていく。
2021年1月10日放送の「関ジャム 完全燃SHOW」(テレビ朝日)では、毎年恒例の企画「売れっ子プロデューサーが選ぶ2020 年間ベスト10」が発表された。その中で、いしわたり淳治は50TAの「ラブアース」を7位に挙げ、「これまでJ-POPにも『体の中から力が湧いてくる』という歌はたくさんありましたが、『感じた事ない力が体中からあふれてくる』と歌いきった後で『何コレ?すっごーい!』とその湧いてきた力に対して感想まで歌った曲は初めてではないか」と、その独特の歌詞センスを称賛した。
「ロンハー」内でもこの「関ジャム」をパロディにした「狩野ジャム」という企画がおこなわれ、寺岡呼人とヒャダインが真剣に分析した。寺岡はプロの音楽家では怖くてできないセオリー無視の楽曲を絶賛し、ヒャダインは「予定調和をどんどん壊していく」と分析。「こうなるだろうというのを裏切っていくのはすべてのエンタメに必要なこと」と付け加えた。
「ロンドンハーツ」は、ドッキリにとどまらず、さまざまな企画を通じて一貫して出演者の「人間性」を暴き続けてきた。
その結果、剥き出しになった人間味によって、"嘘"はいつの間にか"真実"へと昇華していく。その境界線を曖昧にすることこそが、この番組の真骨頂だ。
ただのドッキリ、バラエティ的な予定調和だと油断して見ていた視聴者自身にさえ"ドッキリ"を仕掛けているのだ。




