シネマ歌舞伎 歌舞伎NEXT 阿弖流為〈アテルイ〉 ~キーワードは「ふたつ」~

シネマ歌舞伎 歌舞伎NEXT 阿弖流為〈アテルイ〉 ~キーワードは「ふたつ」~

400年の伝統がある歌舞伎は時代の風潮を取り込みながら、たくましく令和の現在まで命脈を保ってきた。いや、進化してきた。昨年からの映画『国宝』ブームで歌舞伎そのものも観客動員が激増している。

歌舞伎の魅力は役者と作品にある。第一は歌舞伎俳優の人気と実力だ。松本幸四郎(本作出演時は市川染五郎)と中村勘九郎、中村七之助兄弟。歌舞伎の世代交代が進む中で現在、この三人はトップランナーだ。

次は作品、映画『国宝』で取り上げられたのはすべて古典作品。未知の伝統文化に触れたいという思いを煽(あお)った。しかし、「たくましく進化をとげた」現在の歌舞伎界には、古典の技をベースに「スーパー歌舞伎」「超歌舞伎」などのネーミングで名作が生まれ、再演を重ねたりシリーズ化されている。またアニメやゲーム、劇画原作の「風の谷のナウシカ」「刀剣乱舞」「流白浪燦星(ルパン三世)」なども大人気だ。

そんな流れの中から生まれた「歌舞伎NEXT」第一作「阿弖流為〈アテルイ〉」がJ:COM STREAMでは、なんと無料見放題!人気役者と名作が合体したワクワク映像を楽しめる。

作品は劇団☆新感線のヒット作を歌舞伎化したもの。座付作者、中島かずきと演出家いのうえひでのりという、スーパーコンビの技が炸裂して面白くないわけがない。

もともと劇団☆新感線ファンだった染五郎時代の幸四郎が、この作品に参加したのが2002年。新感線のメンバーに交じって主演し大評判。その時29歳。それから13年の時を経て、歌舞伎NEXT版が生まれた。こんどは歌舞伎俳優を使って、いのうえ演出、中島脚本が盤石の態勢を取った。幸四郎40代、勘九郎、七之助兄弟30代、この三人のパワーが映像の隅々にみなぎっている。

時は古(いにしえ)、中央政権の力が辺境の地に及び、東北の蝦夷(えみし)の一族と対立。つまり都と鄙(ひな)の戦闘が繰り広げられる活劇だ。都のリーダーは帝(みかど)の命を受け勘九郎の坂上田村麻呂(さかのうえのたむらまろ)が征夷大将軍となって陸奥に向かう。

蝦夷の頭(かしら)が阿弖流為。戦闘場面の繰り返しだけではない。都と蝦夷の里が交互に描かれ、飽きさせない。新感線ならではのギャグも、てんこ盛り。恋物語もある。女のため阿弖流為が神の罰を受け故郷から追放される。その恋人が七之助演じる鈴鹿(すずか)だ。

歌舞伎の舞台には花道がある。通常舞台に向かって左側だが、この公演にはもう一本、仮花道が右側にあり、本舞台とコの字型の構造。これが生きている。阿弖流為と田村麻呂が向かい合う。観客はどちらも見たい、首を左右に振らなければならないが、映像では二人の表情を同時に見られる。このふたつの道をうまく使いわける。歌舞伎の効果音で「つけ打ち」というバタバタと音を立てる演出があるが仮花道が映る時は、その様子がよくわかる。効果音といえばチャンバラ場面の「ズバッツ‼」「チャリン」「グオン」・・実にタイミングよく入る、アクションが評判の新感線演出が秀逸。

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歌舞伎は「顔芸」がすごいと、テレビドラマで評判になったが、その神髄もシネマ歌舞伎ならでは、ドアップで堪能できる。いわばストップモーションの効果で、それも画面いっぱい、筋肉や目玉の使い方に驚嘆するだろう。

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主演の三人だけではない、大河ドラマでブレイクする前の坂東彌十郎の存在感。右大臣役で底の知れない人物のすごみがある。帝を神として、その意を伝える御霊(みたま)御前(ごぜん)は女方の市村萬次郎。すばらしいせりふ術で魅了し、ドラマを最後までひっぱる。これは巫女(みこ)的な存在だが蝦夷の神の巫女、阿毛斗(アケト)も女方の坂東新悟。彌十郎の長男でいま、大活躍している。

この映像は3時間あるが、長さを感じさせないのは脚本の力が大きい。阿弖流為と田村麻呂は敵味方だけではなく、手を携え、共感しあう時がある。また二人ともいったんは命を落としかける。決して強いばかりではない。またほかの登場人物も一筋縄ではいかない。観客を裏切り、裏切られる構造が見事、なかでも片岡亀蔵の蛮甲(ばんこう)が素晴らしい。蝦夷の一族だが、裏切り、逃げ伸び、騙し、生き抜く逞しさ、あっという結末まで目が離せない。この俳優が昨年、火事で亡くなった役者だ。実に惜しいという思いが映像でわかるだろう。

そして七之助。阿弖流為と愛を誓った鈴鹿と紹介したが、見ている途中で?となる。なんとふたりも鈴鹿が出て、おなじ七之助が演じているのに表情がガラッと違う。二役の謎解きは作品で見てほしい。

ここまで紹介してきたこの作品のキーワードは「ふたつ」だ。都と蝦夷、阿弖流為と田村麻呂、両花道、ふたりの鈴鹿、そして阿弖流為が手にするのは両刃(もろは)の劔(つるぎ)。そしてカミ(神)も二人いることがわかってくる。

戦争が絶えない今の世に、勝つか負けるかだけではない人間の道を教えてくれる作品でもある。

この「阿弖流為」大ヒットが現在公開中の新作シネマ歌舞伎NEXT「朧の森に棲む鬼」へと受け継がれている。

文/葛西聖司(かさいせいじ・古典芸能解説者)

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